青春の匂いはパンの香り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜青春の匂いはパンの香り〜
高校を卒業し、大学生活が始まった。
これから行動範囲が広がり、新たな出会いも増え、素敵な大学ライフを満喫する。
そう胸を膨らませていたのに、現実は実家のパン屋の手伝いをすることが増えた。
と言っても、週に何回か、講義のない日を見つけて手伝う程度だ。
うちのお店は、私の母校である梟谷学園を含め、いくつかの高校の購買にもパンを卸している。
だから、昼前後の講義がない日は、パンの配達と販売のために、トラックに乗って学校へ向かうことが日課になっていた。
そうか……。
大学に受かった時、自動車学校に通わされたのはこのためだったのか。
と、今になって腑に落ちた。
しかも、私はオートマ限定で充分だったのに、父がお金は出すから、と頑なにマニュアル車のプランに申し込んだのは、この配達用トラックがマニュアル車だったから。
お金を出してくれたのはありがたかったけれど、どうせならもっと可愛いらしい車を運転したかった。
なんて、運転席で小さくため息を吐く。
「こんにちはー、配達に来ました」
「お、今日は娘さんの日なんだね。いつもありがとう」
事務員さんの親しみやすい挨拶に、私の口元も自然と緩む。
「あはは、そうです」
いつものように事務室で挨拶を済ませ、私は購買へ向かう。
パンの入った番重を台車に乗せ、慣れた手付きで商品の陳列をする。
そして、チャイムが鳴り響くと同時にバタバタと無数の足音が迫ってきた。
その音はあっという間に購買の前に到達し、列を作った。
「お姉さん、焼きそばパン頂戴!」
「はーい」
「うちはチョココロネ!」
「あ、私も欲しい!」
「順番に並んでくださいね!押すと危ないから!」
雪崩のように押し寄せてくる生徒たちの対応に、手がいくらあっても足りない。
私が高校生の時は家のパンを持参してお昼に食べていたため、購買を利用したことがなかった。
まさか、うちのパンがこんなにも人気だったとは……。
生徒たちの活気に圧倒されながらも、次々と売れていくパンを見て、内心誇らしい気持ちになった。
様々な声が飛び交う中、ひときわ通る声が聞こえてきた。
「お姉さん!今日のオススメは?!」
その声の持ち主は、周りの生徒より頭1つ抜きん出ていて、さらに逆立った髪型のおかげで、群衆の中でも目立っていた。
売りさばくのに必死な私は生徒1人1人の顔をろくに覚えていない。
だけど、彼だけは印象に残っていた。
いつも元気いっぱいで、キラキラした笑顔を振りまく彼。
「オススメはサンドイッチだよ!中身は卵とツナが入っている!」
私は接客する手を止めずに、彼の質問に答えた。
「じゃあ、それと……コロッケパンも!」
「はいはい、分かったから。ちゃんと後ろ並んでね。数はまだまだあるから安心して」
印象に残っているからと言って贔屓はしない。
私は彼をきっちり列の最後尾に並ばせた。
彼は不満を言うこともなく、元気よく返事をした。
その光景に微笑ましく思った。
忙しいけれど、彼のような生徒たちとのやり取りが、いつしか楽しみになっていた。
1/8ページ
