鏡よ鏡よ鏡さん
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~鏡よ鏡よ鏡さん~
「送ってくれてありがとう」
彼氏のケンは用事がない限り学校から家までいつも送ってくれる。
「少しだけ寄ってもいい?」
「……」
優しい声、口元は弧を描いているけれど目は笑っていない。
この後に待ち構えていることを知っている私は、この瞬間が一番ぞっとする。
だけど、断れるわけもなく迎え入れる。
「どうぞ」
「お邪魔します」
自分の部屋に通してから、飲み物のを用意しようと部屋を出ようとした。
少しでもこの後に待ち構えていることを先延ばしにしたくて。
だけどケンに腕を掴まれて阻止された。
「どこに行くの?」
「飲み物を用意しようと思って……」
「いいから座って」
「はい……」
言われた通り縮こまるように座った。
どちらが部屋の主なのかと問いたくなる。
「さて、俺が何を言いたいか分かるよな?」
ああ、始まった。
「上田君と喋ったこと……かな」
「なんだ、分かってんじゃん」
上田君とは委員会が同じで、廊下で連絡事項を話している場面をたまたまケンに見られた。
だから決してやましいことはないけれど、ケンにとってはそれすら気に食わない。
「異性に笑いかけるなって言ったよな?なんで約束をやぶるかな?あ゛あ?」
「ご、ごめんなさい……」
別に私は取りわけ美人でも可愛いわけでもない。
ケンが異常に私に嫉妬深いのだ。
元々はこんなことを言う人じゃなかったのに……。
「俺のことなめてんのか?」
「ごめんなさい……」
罵倒され、髪を引っ張られ、体を殴られる。
顔だと痕が残るから、あえての体。
「痛っ」
「痛いのは俺の心の方だって言うのに」
大人しくしていればすぐ終わる。
そうすればいつもの優しい彼に戻る。
……。
…………。
どれくらい経っただろうか。
私にとっては地獄のような長い時間だけれど、おそらく数分。
よやくケンの拳の力が弱まった。
「殴ってごめんな。でも、●●のことを思ってやったことなんだ。分かってくれ」
「うん、分かっているよ。私が悪い子だから。ごめんね」
私を抱き締めて優しい言葉を掛けてくれる。
これが本当の彼なんだ。
付き合いたての頃の優しいケン。
だからこんな彼氏でも別れることができない。
それに私もケンに依存しているから。
「もう、心配させることするなよ?」
「うん」
一通り言いたいことを言い終えたケンは帰る、とポツリと言った。
玄関まで見送ると、キッチンの方からトットットっと足音が聞こえてきた。
「あ、お邪魔しました」
「いつも娘を送ってくれてありがとうね」
母が玄関までやってきたのだ。
見送りなんかしなくていいのに。
ちなみに、家族は私が彼に暴力を振るわれていることを知らない。
「いえ。このくらい大したことないですよ」
「あらあら」
素敵な彼氏を捕まえたのね、とニヤニヤ顔を手で隠しながら母が私に目で訴えてきた。
そんな母の顔を見るのがツラかった。
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