「ただいまー！」


大きく深呼吸をする。はあ、家の匂い。落ち着く。


「おかえり」


真っ先にお出迎えをしてくれたのは、じいちゃんだった。
元気そうで良かった。

遅ればせながら北君も出迎えてくれた。


「●●ちゃん、おかえり」

「北君、ただいま」


電話越しじゃない北君の声。
今までどうやって話していたっけ？
顔を合わせて話すの、少し照れ臭いや。


ーーーー


自動車合宿で学んだことを忘れないうちに、本免許学科試験を受けに行く。


「会場まで送っていく」

「電車ですぐの場所なのに？」

「だって1番最初に祝いたいやん？」

「北君……」


なんだろう、合宿が終わって帰ってきてから、北君の言葉に一字一句ときめいてしまう。

北君はいつもより早く起きて畑仕事を終わらせてから私を会場まで送ってくれた。


「車で待ってるから終わったら連絡して」

「うん」

「弱気にならんでええ。●●ちゃんなら大丈夫」


そう言って頭をポンポンしてくれた北君。


試験問題は○✕形式。合格点は9割。
合宿でもストレートで合格したから、今回だって大丈夫。

試験官が始めの合図をした。
一斉に問題用紙を開く音とペンを走らせる音が会場に広がる。


ーーーー


試験が終わったことを北君に連絡した。
合格であれば受験番号が掲示板に写し出される。


「あれ～◯◯さんじゃん。同じ日に受けてたんだね」

「あなたは」


合宿が一緒だった名前も知らない君。


「俺さ、結構自信があるんだよね。もし合格したら俺と付き合ってくれない？」

「は？」


私が言おうとした言葉が後ろから聞こえたきた。


「北君……」


どうやら一緒に合否を確認しようと北君が来てくれたところ、彼の言葉が聞こえてきたようだ。


「あいにく、この子は俺の許嫁なんで、手を引いてくれへんか？」


私の肩を寄せる北君。
口調は丁寧だけど、顔は笑っていない。怒っている。


「か、彼氏いないって言ってたじゃん！」


そう捨て台詞を吐いて名無しの君は逃げていった。


「北君ありが……あたっ」


軽く頭を小突かれた。


「彼氏と違うって」

「だって彼氏じゃなくて許嫁だから？」


そう言うと北君は満足気に笑った。