モーニングルーティン
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気が付けば、季節は梅雨に入っていた。
今までは、かろうじて登校時間だけは天気が持ちこたえていたけれど、毎日そんな奇跡は続くワケもなく、今日は朝からあいにくの雨。
お気に入りの傘を差し、水溜まりを避けながらいつもの通学路を歩く。
さすがに、こんな日は牛島君もランニングできないだろう。
いくら体力作りのためとはいえ、視界も足元も悪い雨の中を走るのは危険だし、何より風邪を引いてしまったら部活動に支障が出るはずだ。
「今日は会えないよね……」
小さなため息とともに、自分に言い聞かせるように呟く。
会えないのが当たり前。
そう思った、まさにその時だった。
背後から、いつもより少し鈍い足音が近付いてきた。
バシャッ バシャッ バシャッ バシャッ
驚いて振り返ると、そこには激しい雨をもろともしない牛島君の姿があった。
透明なカッパを身に着け、フードをすっぽりと被っている。
彼は私の姿を捉えると、いつものようにスッと速度を落とした。
だけど、いつもと違うのは、並走する時の足踏みがゆっくりなこと。
「おはよう、牛島君」
「ああ、おはよう。◯◯」
雨音に消されないよう、少しだけ声を張って挨拶を交わす。
「こんな日も走ってるんだね」
「ああ、日課だからな」
いかにも彼らしい答えだった。
天候すら彼のルーティンを崩す理由にはならないのだと、改めてそのストイックさに感心してしまう。
それにしても、今日の彼は本当に大人しい。
「……なんか、いつもよりゆっくりだね」
怪我でもしているのだろうか……。
傘を少し傾けながら尋ねると、牛島君は前方を見据えたまま、大真面目なトーンで言った。
「勢いよく走ると、◯◯に泥水を引っかけてしまうからな」
「え……」
思いがけない気遣いに、一瞬足を止めそうになった。
自分のトレーニングのことしか考えていないように見えて、彼は私のことをちゃんと配慮してくれていたのだ。
そう言えば、必死に言い訳を考えていたあの3日目の朝も、彼は焦りのない私の歩みから、何かを察してくれていた。
牛島君は、私が思っている以上にずっと、人のことをよく見ている……。
不器用だけど、凄く優しい人なんだ。
「そ、そうなんだ……。気付かなくて、ごめんね。ありがとう……」
私は照れ隠しに俯いた。
傘をさしていて、彼には私の顔が見えないはずなのに、急激に熱くなった頬を見られたくなくて、どうしても視線を上げることができなかった。
そんな私の様子をどう受け止めたのか分からないけれど、牛島君はいつも通りの淡々とした口調で告げた。
「では、そろそろ行く」
「あ、うん。また教室でね」
「ああ」
彼は短く応じると、再び前を向いて加速していった。
ゆっくりだった足踏みが、一気に力強い蹴り出しへと変わる。
その水飛沫が、私の足元に届くことは決してなかった。
「……また教室でね、か」
自分で言っておきながら、その響きに少しだけ胸が痛む。
どうせ、教室では話せないくせに……。
できても、精々視線を交わすか会釈する程度。
こんな臆病な私は、牛島君にはどう映っているのだろうか。
ジメジメとした梅雨の天気のせいか、私の心まで沈んでいくようだった。
今までは、かろうじて登校時間だけは天気が持ちこたえていたけれど、毎日そんな奇跡は続くワケもなく、今日は朝からあいにくの雨。
お気に入りの傘を差し、水溜まりを避けながらいつもの通学路を歩く。
さすがに、こんな日は牛島君もランニングできないだろう。
いくら体力作りのためとはいえ、視界も足元も悪い雨の中を走るのは危険だし、何より風邪を引いてしまったら部活動に支障が出るはずだ。
「今日は会えないよね……」
小さなため息とともに、自分に言い聞かせるように呟く。
会えないのが当たり前。
そう思った、まさにその時だった。
背後から、いつもより少し鈍い足音が近付いてきた。
バシャッ バシャッ バシャッ バシャッ
驚いて振り返ると、そこには激しい雨をもろともしない牛島君の姿があった。
透明なカッパを身に着け、フードをすっぽりと被っている。
彼は私の姿を捉えると、いつものようにスッと速度を落とした。
だけど、いつもと違うのは、並走する時の足踏みがゆっくりなこと。
「おはよう、牛島君」
「ああ、おはよう。◯◯」
雨音に消されないよう、少しだけ声を張って挨拶を交わす。
「こんな日も走ってるんだね」
「ああ、日課だからな」
いかにも彼らしい答えだった。
天候すら彼のルーティンを崩す理由にはならないのだと、改めてそのストイックさに感心してしまう。
それにしても、今日の彼は本当に大人しい。
「……なんか、いつもよりゆっくりだね」
怪我でもしているのだろうか……。
傘を少し傾けながら尋ねると、牛島君は前方を見据えたまま、大真面目なトーンで言った。
「勢いよく走ると、◯◯に泥水を引っかけてしまうからな」
「え……」
思いがけない気遣いに、一瞬足を止めそうになった。
自分のトレーニングのことしか考えていないように見えて、彼は私のことをちゃんと配慮してくれていたのだ。
そう言えば、必死に言い訳を考えていたあの3日目の朝も、彼は焦りのない私の歩みから、何かを察してくれていた。
牛島君は、私が思っている以上にずっと、人のことをよく見ている……。
不器用だけど、凄く優しい人なんだ。
「そ、そうなんだ……。気付かなくて、ごめんね。ありがとう……」
私は照れ隠しに俯いた。
傘をさしていて、彼には私の顔が見えないはずなのに、急激に熱くなった頬を見られたくなくて、どうしても視線を上げることができなかった。
そんな私の様子をどう受け止めたのか分からないけれど、牛島君はいつも通りの淡々とした口調で告げた。
「では、そろそろ行く」
「あ、うん。また教室でね」
「ああ」
彼は短く応じると、再び前を向いて加速していった。
ゆっくりだった足踏みが、一気に力強い蹴り出しへと変わる。
その水飛沫が、私の足元に届くことは決してなかった。
「……また教室でね、か」
自分で言っておきながら、その響きに少しだけ胸が痛む。
どうせ、教室では話せないくせに……。
できても、精々視線を交わすか会釈する程度。
こんな臆病な私は、牛島君にはどう映っているのだろうか。
ジメジメとした梅雨の天気のせいか、私の心まで沈んでいくようだった。
