モーニングルーティン
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数日だったはずのモーニングルーティンは、いつしか日常になっていた。
「おはよう、牛島君」
「ああ、おはよう」
あれから私は、毎朝欠かさず同じ時間に家を出ている。
言い訳だったはずの早朝の勉強も、今ではすっかり習慣になった。
誰もいない教室でシャーペンを動かす時間は、案外私の性に合っていたみたいだ。
そして何より、彼との距離も、ほんの少しずつ縮まっていった。
最初は「頑張れよ」の一言で駆け抜けていた牛島君だったけれど、ある日を境に、並走する時間が数十秒から数分へと延びていったのだ。
「今日、数学の小テストがあるね。範囲が広くて大変そう」
「ああ、◯◯は……いや、この質問は愚問だな。毎朝勉強している◯◯なら、問題ないだろう」
「いやいや、過信しすぎだよ。あ、そうだ!あのね────」
こんな風に、並んで歩きながら言葉を交わす。
彼はどこまでも大真面目で、冗談を言うようなタイプではないけれど、私の話をいつも静かに、熱心に聞いてくれた。
教室では相変わらず、他者を寄せ付けないオーラを放っていて、私は静かにそれを眺めるだけ。
目が合っても、お互いに小さく会釈をする程度だ。
だけど、この朝のやり取りだけは、2人だけの特別な時間が流れている。
それが堪らなく嬉しかった。
ーーーー
ガラリと静かな教室の扉を開け、自分の席に着く。
「よしっ……」
小さく気合を入れて参考書を開いた。
静寂の中で黙々と問題を解いていく。
ふと、さっきまで隣を走っていた彼の姿が頭をよぎる。
“毎朝勉強している◯◯なら、問題ないだろう”
大真面目な顔でそう言ってくれた牛島君。
彼の期待を裏切らないように、ちゃんと頑張らないと。
その一心で、私は問題に取り組んだ。
……。
…………。
切りが良いところで、朝練の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
そして、しばらくするとクラスメイトたちが次々と教室に入ってくる。
その1人が私の席の前に歩み寄ってきた。
仲の良い友達のヒデミだ。
「おはよー!●●、最近来るの早いね?」
彼女は私の机の上に広げられた参考書とノートを覗き込みながら、不思議そうに首を傾げた。
「うん、ちょっとね……」
私はノートを閉じながら、少しだけはぐらかすように笑って答える。
まさか、牛島君と朝の数分間を並走するために早起きしているなんて、口が裂けても言えない。
すると、ヒデミは少し真面目な顔つきになって、声を潜めるようにして聞いてきた。
「もしかして……外部受験するの?」
うちの高校は、基本的にはそのまま上の大学へと進学できる中高大一貫校だ。
進学校とはいえ、この時期にわざわざ早朝登校をしてまで勉強しているとなれば、周囲がそう勘繰るのも無理はなかった。
「ううん、そんなんじゃないよ。……ただ、やっておいて損はしないと思って」
本当の理由は別にあったけれど、勉強していること自体は嘘じゃない。
私がそう苦笑い混じりに返すと、ヒデミは「ふーん」と、それ以上は深く追及せずに納得したような、していないような声を漏らした。
彼女が自分の席へと戻っていくのを見送りながら、私はふと、開いたままのノートの端を見つめた。
外部受験……。
その言葉が、さっきよりも重く胸に突き刺さる。
牛島君は、卒業したらどうするんだろう……。
彼は圧倒的な実力を持つ、誰もが認めるバレー部のエースだ。
このまま附属の大学へ上がるのか。
それとも外部の大学へ受験するのだろうか。
あるいは、高校を卒業してすぐに、プロのバレーボーラーになる道を選ぶのだろうか。
答えなんて出ないのに、私は考えることを止められなかった。
「おはよう、牛島君」
「ああ、おはよう」
あれから私は、毎朝欠かさず同じ時間に家を出ている。
言い訳だったはずの早朝の勉強も、今ではすっかり習慣になった。
誰もいない教室でシャーペンを動かす時間は、案外私の性に合っていたみたいだ。
そして何より、彼との距離も、ほんの少しずつ縮まっていった。
最初は「頑張れよ」の一言で駆け抜けていた牛島君だったけれど、ある日を境に、並走する時間が数十秒から数分へと延びていったのだ。
「今日、数学の小テストがあるね。範囲が広くて大変そう」
「ああ、◯◯は……いや、この質問は愚問だな。毎朝勉強している◯◯なら、問題ないだろう」
「いやいや、過信しすぎだよ。あ、そうだ!あのね────」
こんな風に、並んで歩きながら言葉を交わす。
彼はどこまでも大真面目で、冗談を言うようなタイプではないけれど、私の話をいつも静かに、熱心に聞いてくれた。
教室では相変わらず、他者を寄せ付けないオーラを放っていて、私は静かにそれを眺めるだけ。
目が合っても、お互いに小さく会釈をする程度だ。
だけど、この朝のやり取りだけは、2人だけの特別な時間が流れている。
それが堪らなく嬉しかった。
ーーーー
ガラリと静かな教室の扉を開け、自分の席に着く。
「よしっ……」
小さく気合を入れて参考書を開いた。
静寂の中で黙々と問題を解いていく。
ふと、さっきまで隣を走っていた彼の姿が頭をよぎる。
“毎朝勉強している◯◯なら、問題ないだろう”
大真面目な顔でそう言ってくれた牛島君。
彼の期待を裏切らないように、ちゃんと頑張らないと。
その一心で、私は問題に取り組んだ。
……。
…………。
切りが良いところで、朝練の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
そして、しばらくするとクラスメイトたちが次々と教室に入ってくる。
その1人が私の席の前に歩み寄ってきた。
仲の良い友達のヒデミだ。
「おはよー!●●、最近来るの早いね?」
彼女は私の机の上に広げられた参考書とノートを覗き込みながら、不思議そうに首を傾げた。
「うん、ちょっとね……」
私はノートを閉じながら、少しだけはぐらかすように笑って答える。
まさか、牛島君と朝の数分間を並走するために早起きしているなんて、口が裂けても言えない。
すると、ヒデミは少し真面目な顔つきになって、声を潜めるようにして聞いてきた。
「もしかして……外部受験するの?」
うちの高校は、基本的にはそのまま上の大学へと進学できる中高大一貫校だ。
進学校とはいえ、この時期にわざわざ早朝登校をしてまで勉強しているとなれば、周囲がそう勘繰るのも無理はなかった。
「ううん、そんなんじゃないよ。……ただ、やっておいて損はしないと思って」
本当の理由は別にあったけれど、勉強していること自体は嘘じゃない。
私がそう苦笑い混じりに返すと、ヒデミは「ふーん」と、それ以上は深く追及せずに納得したような、していないような声を漏らした。
彼女が自分の席へと戻っていくのを見送りながら、私はふと、開いたままのノートの端を見つめた。
外部受験……。
その言葉が、さっきよりも重く胸に突き刺さる。
牛島君は、卒業したらどうするんだろう……。
彼は圧倒的な実力を持つ、誰もが認めるバレー部のエースだ。
このまま附属の大学へ上がるのか。
それとも外部の大学へ受験するのだろうか。
あるいは、高校を卒業してすぐに、プロのバレーボーラーになる道を選ぶのだろうか。
答えなんて出ないのに、私は考えることを止められなかった。
