バカはバカなりに
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~バカはバカなりに~
「今日から夏目漱石の“こころ”をやるぞー。教科書を開いて」
現代文の授業で避けては通れない作家。夏目漱石。
「と、その前にお前たちが好きそうな話を一つしてやろう」
先生が話した雑談は、夏目漱石が英語の“アイラブユー”を“愛してる”ではなく“月が綺麗ですね”と訳し、それに対して二葉亭四迷が“ユアーズ”を“死んでもいいわ”と訳した、という話。
このときのユアーズは前後の文脈を見ると、恋人同士の語らいの場面で、直訳すると“私はあなたのもの”となる。
「根拠となる文献はないけどな」
最後にこう付け加えた先生。
「はい、雑談終わり!授業に戻るぞ」
おそらくこの先生が受け持っているクラスは全員がこの話を聞かされている。
そのせいか、この授業以降しばらく“月が綺麗ですね”と言う告白が飛び交った。
しかも、女子は女子で満更でもない様子。
本気なのか遊びなのか。
もし片方が冗談で告白しても、受け取った側が本気にしてしまったら……。
そんな悲しいことはない。
罰ゲームで告白をされたことのある私はこの風潮が嫌いだ。
それなのに、友達と移動教室へ向かう途中のこと。
「●●!月が綺麗ですね」
よりによって影山に言われるとは。
中学のとき私に嘘の告白をしてきた張本人。
おそらく、いや絶対に私と影山のクラスは同じ現代文の先生。だけど、
「あんた、この間の現代文の授業、起きてた?」
「いや、寝てた」
「でしょうね」
私はため息を吐いた。
授業を睡眠時間だと思っている影山にとって、授業の内容どころか先生の小話も聞いているはずがない。
誰がこんなことを影山に吹き込んだのか。
そんな影山に相応しい言葉をかけてあげよう。
「月の裏側は見えません」
「は?」
「月が綺麗ですね、の答えよ」
「待てよ、俺はそもそも月が綺麗ですねの意味を……」
「それくらい自分で考えて。私急いでるから!」
待っていてくれた友達に行こう、と言って影山の言葉を遮って逃げるようにこの場から去った。
「●●、良かったの?まだ時間あるのに」
終始やり取りを見ていた友達に心配されたけど、
「いいの、あんなやつ」
私は影山の方を振り返ることはしなかった。
“月の裏側は見えません”
意味はあなたの考えていることが分かりません。
影山に理解できるはずのない答え。
せいぜい悩みなさい。
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