堕ちた強豪、飛べない白鳥
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〜堕ちた強豪、飛べない白鳥〜
白鳥沢学園の食堂は、多くの寮生が利用するだけあって広々として明るい。
私はそこの食堂で働く、しがない調理員だ。
強豪として名高いこの学校の生徒たちに、温かい食事を提供することが私の仕事である。
彼らも食事の場ではただの高校生に戻る。
私は、忙しく手を動かしながら、彼らの他愛もない会話に耳を傾けるのが好きだった。
それは、一種の特権のように感じられる。
中でも、男子バレー部には“絶対王者”と呼ばれる生徒がいて、彼を囲む周囲とのやり取りは特に微笑ましかった。
「ねぇねぇ、若利君!まーたハヤシライス?てか、昨日のホラー特番見た?」
独特の赤髪が目を引く生徒が、スプーンを片手に身を乗り出して話しかける。
その口ぶりには、相手が絶対王者であろうとお構いなしの親しみがある。
「見ていない」
「えー!見てないなんて損だよ!特に2つ目に取り上げられた話がまーじで怖くて────」
そんなやり取りの横から、また別の声が割って入る。
「牛島さん!今日の練習でどちらが多くスパイク決められるか、勝負しませんか!」
「……ああ、頑張れ」
声の主は、揃えられた前髪を揺らしながら、絶対王者に真っ直ぐに話しかける。
他の生徒たちが部活とは関係のない世間話に花を咲かせる中、彼だけは食堂でさえバレーボールの話ばかりだ。
本当に練習熱心な子だ、と見るたびに心が和む。
会話の中から聞こえてきた彼の名前は、五色工君。
だから、ついつい贔屓してしまうのだ。
もちろん、あからさまに悟られないよう、ほんの少しだけ。
盛り付けの時、他の生徒よりも大きめな焼き魚の切り身を選んだり、汁物の具を多めに入れたり。
言われなければ気付かない程度の、ささやかな応援。
この何気ない行為が、彼の今日の練習の活力になればいいと、私はひっそりと願った。
ーーーー
その日の昼食のピークが過ぎ。
洗い場で食器を洗っていると、生ごみをまとめた袋を抱えた同僚の土屋さんが、疲れたようにため息をつきながら隣に立った。
「◯◯さん、ちょっと聞いてよ」
「どうかしたんですか?」
彼女はため息交じりに愚痴をこぼす。
「今日は一段と残飯が多いと思わない?」
目の前の生ごみ袋が、その証拠だと言わんばかりだ。
「まあ、確かに……。言われてみればそうですね」
私は皿洗いの手を止めずに答えた。
「ご飯は元気の源なんだから、完食してほしいものだわ」
「あ、でも、あそこで食べている男子バレー部たちは、完食どころかおかわりをよくしていますよね」
ふと視線の先に、バレー部員たちがいる席の一角を捉えた。
彼らの目の前にあるお皿は綺麗に平らげられている。
五色君も例外ではない。
土屋さんは、そんな私の視線に気付いたように、少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「◯◯さんがよく見ている子たちでしょ?」
その一言は、私の心臓を騒がせるには充分だった。
「え!そんなつもりじゃ……!」
思わず手が止まり、慌てて否定の言葉を口にする。
顔に熱が集まるのを感じた。
自分では完璧に隠せていると思っていたのに。
「隠さなくてもいいわよ。ときどき口角が緩んでいるもの。私だって、よく食べる子たちだとは思っていたし」
土屋さんは、からかうような口調ではあったけれど、その瞳には優しさがあった。
「じゃあ、私はこのごみ捨ててきたら、ちょっと一休みしてくるわ」
土屋さんはそう言い残し、まとめたごみ袋を持って裏口へと向かった。
私は再び食器洗いの作業に戻りながら、土屋さんの言葉を反芻する。
口角が緩んでいる……か。
土屋さんにバレていたのに、私は性懲りもなく五色君の背中をそっと見つめた。
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