キミの熱気に当てられて
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〜キミの熱気に当てられて〜
2月。
街中が浮き足立つこの季節、誰しもが頭に浮かぶビッグイベントがある。
だけど、デパートのバレンタイン特設会場に一歩足を踏み入れた瞬間、私は早くも後悔し始めていた。
「……暑っ。それに、すごい人」
暖房の効きすぎた室内。
鼻腔をくすぐるカカオの香り。
そして何より、お目当ての品を求めて来ている女性たちの熱気にたじろいでしまう。
「……やっぱり、来なければよかった」
自分へのご褒美チョコ。
たったそれだけを求めてやってきたのに、人波に揉まれ、来た道を戻ることさえままならない。
軽い気持ちで出向いた、自らの甘い考えを呪っていた、その時だった。
私の肩が、リズムよくポンポンと叩かれた。
「あれれ〜?●●ちゃんじゃん。奇遇だねぇ、チョコの戦場に1人で殴り込み?」
聞き覚えのある、飄々とした口調。
振り返らなくても分かる。
同じクラスの、天童覚君だ。
「そう言う天童君こそ1人じゃん……。何、偵察?」
「心外だなぁ。俺だって甘いものは嗜むよ?疲れた体にチョコは最高じゃな〜い?」
ヒョイっと人混みの隙間を縫うようにして、彼は私の隣をキープした。
赤髪を揺らしながら歩く彼は、この混沌とした会場でさえ、どこか楽しげに周囲を眺めている。
「見て見て、このクッキー缶!色味やバランス、全てにおいて計算された完成形。隙間なく綺麗に整列されたクッキーはまさに芸術的!」
「はあ……」
「おっと、こっちのボンボンショコラはオレンジとラムのマリアージュが楽しめるチョコだヨ!法律的には未成年の俺らも食べられるけど、成人まで取っておきたいねぇ。ちなみに、ボンボンってのは“めっちゃ美味しい”って意味なんだヨ!無知な●●ちゃんは知らなかったでしょ!」
「あはは……」
次から次へと溢れ出す、聞いてもいない豆知識。
最初は「うるさいなあ」と思っていたはずなのに、彼の予測不能な動きと、興味深い解説を聞いているうちに、いつの間にか人混みへの苛立ちは消えていた。
「……天童君、本当にチョコが好きなんだね」
「んふふ。好きなものはとことん追求したくなるんだよネ。チョコも、バレーも」
そう言って話す天童君は、とても輝いて見えた。
「……あっ、あのお店!●●ちゃん好きそう!行くヨ!」
「はぁ〜……。待ってよ、天童君」
呆れた声を出しながらも、私の心は満更でもない。
振り回されるのが嫌いじゃない自分に苦笑しながら、彼の背中を追いかけた。
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