覚君は最初こそ会うたびに性別を騙されたことでゲラゲラとゲスい笑いでからかってきたけど、入学前からやり取りをしていただけあって、直ぐに打ち解けることができた。

休み時間、入学式のときに渡されたサークルのチラシを眺めながら覚君に聞いた。


「サークルどうする？羊羹研究会とかメレンゲ同好会とか、変わったのがあるよ。あ、もしかしてバレーサークルに入る？」


高校までバレーを熱心にやっていた話を思い出した。


「バレーはやり切ったからな～。どうせならサークルじゃなくて、洋菓子店のバイト先探す」

「そっかー」


特別入りたいサークルもないし、覚君も入らないなら私もバイトを探そうかな。

並べたサークルのチラシを片付けて、代わりにスマホの求人サイトを開いた。


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後日、バイト採用の連絡を受けてから、覚君の進捗を聞いた。


「バイト、いいところあった？」

「駅前の洋菓子店にしたヨ」


あそこは確か有名ショコラティエのお店。さすがチョコ好き。


「●●ちゃんは？」

「家から3番目に近いケーキ屋さんにした」


近すぎると知り合いに会うかもしれないから、という安直な理由で3番目に近いお店にした。


「社員登用があるみたいだから、来年の半ばごろに改めて社員の採用面接してくれるって」


これで就職先が決まれば楽になる。

私たち以外にもパン屋や和菓子店をバイト先に選ぶ製菓専攻の学生は多い。

テレビを見て紹介されるパティシエやショコラティエのほとんどが男性。

一方、このクラスは覚君以外が女子。

パティシエの離職率は、1年以内に辞める人が70%、3年以内で90%、10年以内で99%。
今は夢に向かって頑張っているが、この中の何人が辞めていくのだろうか。

私も例外ではない。

覚君は将来自分のお店を持ちたいみたいだから、1%に入っていてほしい。