天童君は私にだけ冷たい
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休み明けの学校。
“その話は、また明日しよう”
天童君が最後に残したその言葉が気になって、昨夜は中々寝付けなかった。
いつ話しかければいいのか、どんな顔をすればいいのか。
迷っているうちに時間は過ぎ、気付けばお昼休み。
私が戸惑いながらお弁当の包みを解こうとしたその時、机の上にスッと長い影が落ちた。
顔を上げると、そこにはいつになく真剣な眼差しをした天童君が立っていた。
「◯◯さん、ちょっといい?」
「……うん」
昨日の別れ際、一度だけ呼んでくれたあの名前。
でも、今はまた他人のような呼び方に戻っている。
いや、高校に入ってからはこっちが当たり前なのかもしれない。
それが、私たちが失ってしまった6年という時間の重さを、物語っているようだった。
私はお弁当箱を鞄にしまい直し、天童君の後を付いていった。
ほとんどの生徒が食堂へ向かい、静まり返った廊下を歩く。
辿り着いたのは、今は使われていない空き教室だった。
埃っぽい空気と、午後の暖かな陽の光。
彼はしっかりと扉を閉め、そこを誰にも邪魔されない、2人だけの空間にした。
保健室のときとは違い、不思議と嫌な気持ちではない。
私は深く息を吸い込み、昨日からずっと決めていた言葉を口にした。
「天童君、昨日も言ったけど……。あの時、助けられなくて本当にごめんなさい」
だけど、天童君は私の謝罪には触れず、静かに自分の内側をさらけ出し始めた。
「俺さ……高校で◯◯さんを見つけたとき、本当は問い詰めてやろうと思ってたんだヨ。なんで戻ってこなかったの?なんで学校にも来なくなったの?って。なのに、俺のことすら忘れているんだもん。……正直、恨んだよネ。恨んで、傷つけたいと思ってた」
だからこその、あの冷酷な態度。
記憶を失っていた私にはあまりに理不尽だったけれど、彼が抱えていた孤独と怒りを知った今なら、その理由が痛いほど分かる。
「だけど……。アイツらに閉じ込められたって聞いて、俺、自分が心底嫌になった」
「天童君、そんなこと……っ!」
「いいや、俺が悪いんだヨ」
彼は首を横に振り、自嘲気味に口角を上げた。
その表情は、今にも泣き出しそうに見えた。
「俺の行いが原因でアイツらは逆上した。呼び出された時だって、無視すればいいのに、口だけ野郎が何をしてくれるんだろうってワクワクしていたし」
「……」
「煽った俺が悪い。ノコノコ付いていった俺が悪い。怪我をしたのも油断した俺が悪い。だから俺が全部悪いの」
そんなツラそうな顔をしないでほしかった。
私たちはお互いが被害者だったんだから。
天童君は震える手で、ぎゅっと自分の膝を掴んだ。
「直ぐにとは言わない。だけど、◯◯さん……こんな俺だけど、いつか許してくれる?」
伏せられた瞳。
白鳥沢のコートであんなに不敵に笑う彼が、今は壊れそうなほど脆く見えた。
私はゆっくりと歩み寄り、彼を真っ直ぐに見つめた。
「……名前で呼んで」
「え?」
「また昔みたいに、●●ちゃんって呼んでくれるなら許す」
天童君は驚いたように大きな目を見開いた。
それから、箍 が外れたように、満面の笑顔で声を張り上げた。
「そんなの、……そんなの嫌ってほど呼ぶよ!●●ちゃん!」
私たちの誤解は6年の時を経て解けた。
とても長い長い期間。
でも、その長い期間があったからこそ、昔の嫌な記憶を思い出しても受け入れることができたのかもしれない。
これからは、天童君とたくさん楽しい思い出を作っていけたらいいな。
ーーFinーー
“その話は、また明日しよう”
天童君が最後に残したその言葉が気になって、昨夜は中々寝付けなかった。
いつ話しかければいいのか、どんな顔をすればいいのか。
迷っているうちに時間は過ぎ、気付けばお昼休み。
私が戸惑いながらお弁当の包みを解こうとしたその時、机の上にスッと長い影が落ちた。
顔を上げると、そこにはいつになく真剣な眼差しをした天童君が立っていた。
「◯◯さん、ちょっといい?」
「……うん」
昨日の別れ際、一度だけ呼んでくれたあの名前。
でも、今はまた他人のような呼び方に戻っている。
いや、高校に入ってからはこっちが当たり前なのかもしれない。
それが、私たちが失ってしまった6年という時間の重さを、物語っているようだった。
私はお弁当箱を鞄にしまい直し、天童君の後を付いていった。
ほとんどの生徒が食堂へ向かい、静まり返った廊下を歩く。
辿り着いたのは、今は使われていない空き教室だった。
埃っぽい空気と、午後の暖かな陽の光。
彼はしっかりと扉を閉め、そこを誰にも邪魔されない、2人だけの空間にした。
保健室のときとは違い、不思議と嫌な気持ちではない。
私は深く息を吸い込み、昨日からずっと決めていた言葉を口にした。
「天童君、昨日も言ったけど……。あの時、助けられなくて本当にごめんなさい」
だけど、天童君は私の謝罪には触れず、静かに自分の内側をさらけ出し始めた。
「俺さ……高校で◯◯さんを見つけたとき、本当は問い詰めてやろうと思ってたんだヨ。なんで戻ってこなかったの?なんで学校にも来なくなったの?って。なのに、俺のことすら忘れているんだもん。……正直、恨んだよネ。恨んで、傷つけたいと思ってた」
だからこその、あの冷酷な態度。
記憶を失っていた私にはあまりに理不尽だったけれど、彼が抱えていた孤独と怒りを知った今なら、その理由が痛いほど分かる。
「だけど……。アイツらに閉じ込められたって聞いて、俺、自分が心底嫌になった」
「天童君、そんなこと……っ!」
「いいや、俺が悪いんだヨ」
彼は首を横に振り、自嘲気味に口角を上げた。
その表情は、今にも泣き出しそうに見えた。
「俺の行いが原因でアイツらは逆上した。呼び出された時だって、無視すればいいのに、口だけ野郎が何をしてくれるんだろうってワクワクしていたし」
「……」
「煽った俺が悪い。ノコノコ付いていった俺が悪い。怪我をしたのも油断した俺が悪い。だから俺が全部悪いの」
そんなツラそうな顔をしないでほしかった。
私たちはお互いが被害者だったんだから。
天童君は震える手で、ぎゅっと自分の膝を掴んだ。
「直ぐにとは言わない。だけど、◯◯さん……こんな俺だけど、いつか許してくれる?」
伏せられた瞳。
白鳥沢のコートであんなに不敵に笑う彼が、今は壊れそうなほど脆く見えた。
私はゆっくりと歩み寄り、彼を真っ直ぐに見つめた。
「……名前で呼んで」
「え?」
「また昔みたいに、●●ちゃんって呼んでくれるなら許す」
天童君は驚いたように大きな目を見開いた。
それから、
「そんなの、……そんなの嫌ってほど呼ぶよ!●●ちゃん!」
私たちの誤解は6年の時を経て解けた。
とても長い長い期間。
でも、その長い期間があったからこそ、昔の嫌な記憶を思い出しても受け入れることができたのかもしれない。
これからは、天童君とたくさん楽しい思い出を作っていけたらいいな。
ーーFinーー
