天童君は私にだけ冷たい
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同級生と別れた後、私の足は無意識に学校へと向かっていた。
会わなきゃいけない……。
その思いだけが、私を突き動かす。
……。
…………。
白鳥沢の男子寮の前まで来たけれど、当然、女子の私が立ち入ることはできない。
どうしようかと立ち尽くしていると、部活動を終えた生徒たちが次々と寮の中へ吸い込まれていった。
そうだ、まだ練習してるかもしれない……!
私は踵を返し、男子バレー部の体育館へと走った。
扉の隙間から覗くと、そこにはコートを縦横無尽に駆け回る彼らの姿があった。
高い打点から打ち下ろされるスパイク、それを嘲笑うかのようにブロックする天童君が、そこにいた。
……今は、邪魔しちゃいけない。
勢いで会いに来てしまったけれど、日を改めて話した方がいい。
私は踵を返そうとした。
すると、中から背の高い、ぱっつん前髪の男の子が出てきて、私に声をかけた。
「誰かに用ですか?もう休憩入るので、良ければ呼びますけど」
どこか昔の天童君を彷彿とさせるその髪型に、心臓が跳ねる。
「えっと、天童君を……お願いしてもいい?」
「天童さんですね。待っててください」
少しして、体育館から出てきた天童君は、タオルの端で首筋を拭いながら、面倒くさそうな顔をしていた。
「可愛い女の子かと思ったら、◯◯さんじゃん。何の用?早くしてよね」
相変わらずの素っ気ない態度。
あの子は一体、私のことをどう伝えたのだろう。
だけど、今の私には怯んでいる余裕なんてなかった。
「あのね、私……天童君に謝らないといけないことがあって……」
そう切り出すと、天童君は急に真剣な顔つきに変わった。
「小学校のとき、私が助けようとした男の子って天童君だったんだよね?」
「そうだけど、今更何?」
突き放すような言葉。
でも、それは彼がずっと、あの日のことを鮮明に覚えていた証拠でもあった。
「あのとき、助けられなくて本当にごめんなさい!」
私はその場に立ち尽くし、深く頭を下げた。
視界に映るアスファルトが滲む。
「……俺、ずっと待ってた。◯◯さんが先生を呼んで来てくれるのを」
絞り出すような彼の声に、私は首を振った。
「あの後、追いかけてきた子たちに捕まって、掃除用具入れに押し込まれたの……」
私は、その続きを話し始めた。
「出して」と扉を叩いても重しか何かがあって開かなくて、結局出られたのは次の日の早朝。
用務員さんによって見つかった。
用具入れから異臭がして気が付いたらしい。
扉を開けたら、失禁した女の子がぐったりした光景なんて、誰しもが想像したくない。
それがショックで、その前後の記憶だけ思い出せなくなって、学校を休んだまま卒業。
「今まで忘れていてごめんね。私にとっても思い出したくなかった出来事だったの」
「なんだよ、それ……」
天童君の声が震えていた。
顔を上げると、彼は片手で顔を覆い、天を仰いでいた。
「そんなの聞かされたら……。俺が、ただの最低なヤツみたいじゃんかヨ」
「天童君は、何も悪くないよ!」
悪いのは虐めてきた男の子たち。
助けられなかった私。
天童君を忘れてしまっていた私。
「……休憩終わるから。その話は、また明日しよう」
「……うん、分かった」
「気を付けて帰ってね、●●ちゃん」
「うん……えっ?」
去り際、耳を掠めた言葉に心臓が大きく波打った。
今、彼は確かに、私の名前を呼んだ。
あんなに頑なに拒んでいたはずの、名前を。
振り返ったときには、もう彼の背中は体育館の重い扉の向こうへ消えていた。
会わなきゃいけない……。
その思いだけが、私を突き動かす。
……。
…………。
白鳥沢の男子寮の前まで来たけれど、当然、女子の私が立ち入ることはできない。
どうしようかと立ち尽くしていると、部活動を終えた生徒たちが次々と寮の中へ吸い込まれていった。
そうだ、まだ練習してるかもしれない……!
私は踵を返し、男子バレー部の体育館へと走った。
扉の隙間から覗くと、そこにはコートを縦横無尽に駆け回る彼らの姿があった。
高い打点から打ち下ろされるスパイク、それを嘲笑うかのようにブロックする天童君が、そこにいた。
……今は、邪魔しちゃいけない。
勢いで会いに来てしまったけれど、日を改めて話した方がいい。
私は踵を返そうとした。
すると、中から背の高い、ぱっつん前髪の男の子が出てきて、私に声をかけた。
「誰かに用ですか?もう休憩入るので、良ければ呼びますけど」
どこか昔の天童君を彷彿とさせるその髪型に、心臓が跳ねる。
「えっと、天童君を……お願いしてもいい?」
「天童さんですね。待っててください」
少しして、体育館から出てきた天童君は、タオルの端で首筋を拭いながら、面倒くさそうな顔をしていた。
「可愛い女の子かと思ったら、◯◯さんじゃん。何の用?早くしてよね」
相変わらずの素っ気ない態度。
あの子は一体、私のことをどう伝えたのだろう。
だけど、今の私には怯んでいる余裕なんてなかった。
「あのね、私……天童君に謝らないといけないことがあって……」
そう切り出すと、天童君は急に真剣な顔つきに変わった。
「小学校のとき、私が助けようとした男の子って天童君だったんだよね?」
「そうだけど、今更何?」
突き放すような言葉。
でも、それは彼がずっと、あの日のことを鮮明に覚えていた証拠でもあった。
「あのとき、助けられなくて本当にごめんなさい!」
私はその場に立ち尽くし、深く頭を下げた。
視界に映るアスファルトが滲む。
「……俺、ずっと待ってた。◯◯さんが先生を呼んで来てくれるのを」
絞り出すような彼の声に、私は首を振った。
「あの後、追いかけてきた子たちに捕まって、掃除用具入れに押し込まれたの……」
私は、その続きを話し始めた。
「出して」と扉を叩いても重しか何かがあって開かなくて、結局出られたのは次の日の早朝。
用務員さんによって見つかった。
用具入れから異臭がして気が付いたらしい。
扉を開けたら、失禁した女の子がぐったりした光景なんて、誰しもが想像したくない。
それがショックで、その前後の記憶だけ思い出せなくなって、学校を休んだまま卒業。
「今まで忘れていてごめんね。私にとっても思い出したくなかった出来事だったの」
「なんだよ、それ……」
天童君の声が震えていた。
顔を上げると、彼は片手で顔を覆い、天を仰いでいた。
「そんなの聞かされたら……。俺が、ただの最低なヤツみたいじゃんかヨ」
「天童君は、何も悪くないよ!」
悪いのは虐めてきた男の子たち。
助けられなかった私。
天童君を忘れてしまっていた私。
「……休憩終わるから。その話は、また明日しよう」
「……うん、分かった」
「気を付けて帰ってね、●●ちゃん」
「うん……えっ?」
去り際、耳を掠めた言葉に心臓が大きく波打った。
今、彼は確かに、私の名前を呼んだ。
あんなに頑なに拒んでいたはずの、名前を。
振り返ったときには、もう彼の背中は体育館の重い扉の向こうへ消えていた。
