天童君は私にだけ冷たい
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夢を見た。
重くて暗闇の底に引きずり込まれるような夢を。
小学6年生、卒業間近の冬。
私は、狭くて湿った掃除用具入れの中にいた。
鼻を突くのは、古びた雑巾の腐ったような臭いと、埃。
「開けてよ!出してよ!」
喉が切れるほど叫んでも、拳が赤く腫れるほど扉を叩いても、返ってくるのは冷たい金属音だけ。
そもそも、なぜ私は閉じ込められたの?
ぽわぽわと浮かび上がる1人の男の子。
絶望感の中で、私はただ、彼に許しを乞うように呟いていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
そんな映像がやたら鮮明に映し出される。
これは本当に夢?
……いや、夢なんかじゃない。
これは私の本物の記憶だ。
忘れていた記憶。
ーーーー
次に意識が戻ったとき、視界に飛び込んできたのは保健室の白い天井だった。
「……あら、起きた?」
横たわる私の顔を覗き込んだのは、保健室の先生だった。
天童君の姿はない。
その事実に安堵した。
「先生……」
「同じクラスの天童君がアナタをここまで連れてきてくれたのよ?彼、良い子よね。後でお礼を言いなさいね」
先生の言葉に耳を疑った。
お礼……?
私がこうなったのは彼が原因なのに。
冗談じゃない。
怒りがフツフツと湧き上がる。
その時、静寂を破るように扉が開いた。
「失礼しま〜す」
カーテン越しに届いたのは、聞きたくもない、あの軽薄な声。
今、一番会いたくない人物、天童君だ。
「あら、天童君。◯◯さん、ちょうど目が覚めたところよ」
「そうですか〜、良かったです」
外面だけは完璧な、優等生ヅラした声。
あまりの豹変ぶりに、吐き気すら覚える。
「あ、これ彼女の荷物を持ってきました」
「あら、ありがとう。だけど、先生これから会議があるから、少しだけ◯◯さんに付き添ってくれないかしら」
え、待って。
どういうこと……?
「もちろんですヨ」
「ありがとう。お願いね」
先生、行かないで!私を天童君と2人きりにしないで!
だけど、そんな思いは虚しく散り、程なくして先生は保健室から出ていった。
「さて、と……」
シャーーーー
乱暴に開けられたカーテン。
そこにいたのは、先ほどまでの良い子の面影など微塵もない、不機嫌な表情を浮かべた天童君だった。
「気絶なんかするなヨ。お陰で俺が運ぶハメになったじゃないの」
「……」
嫌味をぶつけられても、言い返す気力がない。
私はただ、シーツの端を握りしめて黙り込んだ。
すると、不意に視界が遮られた。
頭の上に、大きな、温かい手のひらが置かれる。
叩くのでもなく、掴むのでもない。
壊れものを扱うような、戸惑いを含んだ撫でる動き。
「え……?」
顔を上げると、そこには怒りとも嘲笑とも違う、見たこともないほど苦しげに歪んだ彼の表情があった。
「何に謝った」
「……?」
「ここへ運ぶ間、ずっと謝ってた」
天童君の低い声が、私の心臓を震わせる。
気絶していた間のことなんて覚えていない。
だけど、あの暗闇の夢が、私に言わせたのだと思った。
「私、小学6年生のときに虐められていたクラスメイトを助けようとして……」
気付けば、ポツリポツリと、誰にも話さなかった過去を溢していた。
なんでこんなことを天童君なんかに話し始めたんだろう……。
そう思いながらも、言葉は止まらない。
「先生に言いつけに行ったら逆に虐めっ子に捕まって……掃除用具入れに閉じ込められたことがあるの」
話している最中、天童君の表情が微かに凍りついたように見えた。
「だから、多分そのことが関係あるのかな」
「……なんで言わなかった」
喉の奥から絞り出すような、ひどく掠れた声。
なんでと言われても……。
言ったら閉じ込めなかったのだろうか。
「だって、今さっき思い出したから。その時期の記憶、ずっと無かったんだもん……」
「ふーん、そっか」
彼はそれだけ言うと、乱暴に私の荷物を棚に置き、逃げるように保健室を去っていった。
1人残された静寂の中で、私は再びあの夢に出てきた男の子を思い出す。
おかっぱ頭で、目が大きくて……。
ダメだ。
これ以上は思い出せない。
無理は良くない。
少しだけでも思い出せた自分を褒めてあげたいと思った。
重くて暗闇の底に引きずり込まれるような夢を。
小学6年生、卒業間近の冬。
私は、狭くて湿った掃除用具入れの中にいた。
鼻を突くのは、古びた雑巾の腐ったような臭いと、埃。
「開けてよ!出してよ!」
喉が切れるほど叫んでも、拳が赤く腫れるほど扉を叩いても、返ってくるのは冷たい金属音だけ。
そもそも、なぜ私は閉じ込められたの?
ぽわぽわと浮かび上がる1人の男の子。
絶望感の中で、私はただ、彼に許しを乞うように呟いていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
そんな映像がやたら鮮明に映し出される。
これは本当に夢?
……いや、夢なんかじゃない。
これは私の本物の記憶だ。
忘れていた記憶。
ーーーー
次に意識が戻ったとき、視界に飛び込んできたのは保健室の白い天井だった。
「……あら、起きた?」
横たわる私の顔を覗き込んだのは、保健室の先生だった。
天童君の姿はない。
その事実に安堵した。
「先生……」
「同じクラスの天童君がアナタをここまで連れてきてくれたのよ?彼、良い子よね。後でお礼を言いなさいね」
先生の言葉に耳を疑った。
お礼……?
私がこうなったのは彼が原因なのに。
冗談じゃない。
怒りがフツフツと湧き上がる。
その時、静寂を破るように扉が開いた。
「失礼しま〜す」
カーテン越しに届いたのは、聞きたくもない、あの軽薄な声。
今、一番会いたくない人物、天童君だ。
「あら、天童君。◯◯さん、ちょうど目が覚めたところよ」
「そうですか〜、良かったです」
外面だけは完璧な、優等生ヅラした声。
あまりの豹変ぶりに、吐き気すら覚える。
「あ、これ彼女の荷物を持ってきました」
「あら、ありがとう。だけど、先生これから会議があるから、少しだけ◯◯さんに付き添ってくれないかしら」
え、待って。
どういうこと……?
「もちろんですヨ」
「ありがとう。お願いね」
先生、行かないで!私を天童君と2人きりにしないで!
だけど、そんな思いは虚しく散り、程なくして先生は保健室から出ていった。
「さて、と……」
シャーーーー
乱暴に開けられたカーテン。
そこにいたのは、先ほどまでの良い子の面影など微塵もない、不機嫌な表情を浮かべた天童君だった。
「気絶なんかするなヨ。お陰で俺が運ぶハメになったじゃないの」
「……」
嫌味をぶつけられても、言い返す気力がない。
私はただ、シーツの端を握りしめて黙り込んだ。
すると、不意に視界が遮られた。
頭の上に、大きな、温かい手のひらが置かれる。
叩くのでもなく、掴むのでもない。
壊れものを扱うような、戸惑いを含んだ撫でる動き。
「え……?」
顔を上げると、そこには怒りとも嘲笑とも違う、見たこともないほど苦しげに歪んだ彼の表情があった。
「何に謝った」
「……?」
「ここへ運ぶ間、ずっと謝ってた」
天童君の低い声が、私の心臓を震わせる。
気絶していた間のことなんて覚えていない。
だけど、あの暗闇の夢が、私に言わせたのだと思った。
「私、小学6年生のときに虐められていたクラスメイトを助けようとして……」
気付けば、ポツリポツリと、誰にも話さなかった過去を溢していた。
なんでこんなことを天童君なんかに話し始めたんだろう……。
そう思いながらも、言葉は止まらない。
「先生に言いつけに行ったら逆に虐めっ子に捕まって……掃除用具入れに閉じ込められたことがあるの」
話している最中、天童君の表情が微かに凍りついたように見えた。
「だから、多分そのことが関係あるのかな」
「……なんで言わなかった」
喉の奥から絞り出すような、ひどく掠れた声。
なんでと言われても……。
言ったら閉じ込めなかったのだろうか。
「だって、今さっき思い出したから。その時期の記憶、ずっと無かったんだもん……」
「ふーん、そっか」
彼はそれだけ言うと、乱暴に私の荷物を棚に置き、逃げるように保健室を去っていった。
1人残された静寂の中で、私は再びあの夢に出てきた男の子を思い出す。
おかっぱ頭で、目が大きくて……。
ダメだ。
これ以上は思い出せない。
無理は良くない。
少しだけでも思い出せた自分を褒めてあげたいと思った。
