人は見た目によらない
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3回目の美術の授業。
今日がこの似顔絵制作の最終日だ。
「さあ、今日は半分仕上げ、半分鑑賞会するので、あまり時間ありませんからねー!途中でもそこで採点します」
美術の先生がパンパンと手を叩きながら急かしてくる。
だけど、前回でほとんど完成させた私は、後は微調整するだけだ。
私の前のキャンバスには、似ても似つかない東峰君の顔が。
ここから微調整したって、彼に似てくるとは思えないけれど、やれるだけやろう。
私は筆を取り、目の前にいる東峰君に視線を向けようとした。
けれど、肝心の彼の姿がなかった。
それと同時に、私の背筋に冷たいものが走る。
「……それ、俺か?」
いつの間にか、東峰君が、そっと私のキャンバスを覗き込んでいたのだ。
私の心臓は、完全に停止した。
いくら「ちゃんと描かなくてもいい」と言われても限度がある。
私は、青ざめた顔で、彼に謝罪しようと口を開いた。
「ご、ごめんなさい!私、絵が、本当に……」
だけど、東峰君は、意外な反応を見せた。
彼は、自分の口元を片手で隠し、小さく震え始めた。
そして、次の瞬間、彼は、とうとう耐えきれずに、吹き出したのだ。
「っはは!や、やべぇ……!すげぇな、これ!ワイルドすぎだろ」
彼の大きな笑い声が、静まり返った教室に響き渡った。
周りのクラスメイトが、一斉に私たちの方を見た。
私は、羞恥心と安堵感と、そして彼の屈託のない笑顔を見た驚きで、顔が熱くなった。
彼は涙を拭いながら、話を続けた。
「◯◯さんの目には、こんなふうに見えているのか」
「ごめんなさい……」
「……いや、実際こんなワイルドな男になりたいって思っていたから、嬉しいわ」
そう言って、彼は、また少し照れくさそうに笑った。
その笑顔は、噂の不良とは、まるで別人のようだった。
……。
…………。
「はい、そこまでー!」
その声で、張り詰めていた教室の空気が一気に緩んだのが分かった。
3回に渡って行われた似顔絵制作にようやく幕が閉じる。
一気に解放された気分になった。
私は凝り固まった背筋を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
「んーっ!」
だけど、肝心なことを忘れていた。
それは先生の一声によって、思い起こされる。
「それでは、作品を並べてください」
そう、鑑賞の時間だ。
東峰君には見られてしまったけれど、他の生徒にも私の絵を見られてしまう。
私は嫌々キャンバスを並べた。
だけど、私の心配は杞憂に終わる。
私の絵より、東峰君のキャンバスの前に人だかりができていたのだ。
そう言えば、彼はどんな絵を描いたのだろう。
どんな、と言ってもモデルは私だけれど……。
東峰君のキャンバスを見ると、そこには彼の見た目からは想像もつかない繊細な筆遣いで描かれた、鏡に映る私とは全く違う、見慣れない“私”がそこにいた。
それは美術部も舌を巻くほど。
「すげぇリアル!」
「めっちゃ上手っ!」
「旭ってデザイナーになりたいんだろ?」
「あー、だからか」
周りの生徒が口々に言う。
どうりで絵が上手いはずだ。
彼の荒っぽい噂とは裏腹の、細やかで優しい感性が、その絵からは溢れ出していた。
人だかりの後ろで立ち尽くしていた私の隣に、東峰君がそっとやってきた。
「あの……◯◯さん。どうかな?その……」
彼は自分の作品を褒められているのに、どこか落ち着かない様子で、私に感想を求めてきた。
彼の耳は、ほんのり赤く染まっている。
「凄い……」
私はその一言しか言えなかった。
彼の絵があまりにも上手すぎたのもあるけれど、何よりも、彼が私をこんなにも綺麗に、そして丁寧に見てくれていたという事実に、胸がいっぱいになっていたからだ。
「全然、私じゃないみたい……。凄く綺麗に描いてくれてる」
私の率直な感想に、東峰君はふっと照れたような笑顔を見せた。
「そっか。良かった。でも、俺の目には、こう見えてるんだよ」
彼の言葉が私の胸に染み渡る。
初めは絵を描くことも、東峰君がペアなのも嫌だった。
だけど、今はそんな気持ちは微塵もない。
東峰君にワイルドだと褒めてもらい、私自身も大袈裟なくらいよく描いてもらい、本当に良かった。
この美術の時間が、彼の穏やかな本質と、傍から見た自分の姿を、教えてくれたようだった。
ーーFinーー
今日がこの似顔絵制作の最終日だ。
「さあ、今日は半分仕上げ、半分鑑賞会するので、あまり時間ありませんからねー!途中でもそこで採点します」
美術の先生がパンパンと手を叩きながら急かしてくる。
だけど、前回でほとんど完成させた私は、後は微調整するだけだ。
私の前のキャンバスには、似ても似つかない東峰君の顔が。
ここから微調整したって、彼に似てくるとは思えないけれど、やれるだけやろう。
私は筆を取り、目の前にいる東峰君に視線を向けようとした。
けれど、肝心の彼の姿がなかった。
それと同時に、私の背筋に冷たいものが走る。
「……それ、俺か?」
いつの間にか、東峰君が、そっと私のキャンバスを覗き込んでいたのだ。
私の心臓は、完全に停止した。
いくら「ちゃんと描かなくてもいい」と言われても限度がある。
私は、青ざめた顔で、彼に謝罪しようと口を開いた。
「ご、ごめんなさい!私、絵が、本当に……」
だけど、東峰君は、意外な反応を見せた。
彼は、自分の口元を片手で隠し、小さく震え始めた。
そして、次の瞬間、彼は、とうとう耐えきれずに、吹き出したのだ。
「っはは!や、やべぇ……!すげぇな、これ!ワイルドすぎだろ」
彼の大きな笑い声が、静まり返った教室に響き渡った。
周りのクラスメイトが、一斉に私たちの方を見た。
私は、羞恥心と安堵感と、そして彼の屈託のない笑顔を見た驚きで、顔が熱くなった。
彼は涙を拭いながら、話を続けた。
「◯◯さんの目には、こんなふうに見えているのか」
「ごめんなさい……」
「……いや、実際こんなワイルドな男になりたいって思っていたから、嬉しいわ」
そう言って、彼は、また少し照れくさそうに笑った。
その笑顔は、噂の不良とは、まるで別人のようだった。
……。
…………。
「はい、そこまでー!」
その声で、張り詰めていた教室の空気が一気に緩んだのが分かった。
3回に渡って行われた似顔絵制作にようやく幕が閉じる。
一気に解放された気分になった。
私は凝り固まった背筋を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
「んーっ!」
だけど、肝心なことを忘れていた。
それは先生の一声によって、思い起こされる。
「それでは、作品を並べてください」
そう、鑑賞の時間だ。
東峰君には見られてしまったけれど、他の生徒にも私の絵を見られてしまう。
私は嫌々キャンバスを並べた。
だけど、私の心配は杞憂に終わる。
私の絵より、東峰君のキャンバスの前に人だかりができていたのだ。
そう言えば、彼はどんな絵を描いたのだろう。
どんな、と言ってもモデルは私だけれど……。
東峰君のキャンバスを見ると、そこには彼の見た目からは想像もつかない繊細な筆遣いで描かれた、鏡に映る私とは全く違う、見慣れない“私”がそこにいた。
それは美術部も舌を巻くほど。
「すげぇリアル!」
「めっちゃ上手っ!」
「旭ってデザイナーになりたいんだろ?」
「あー、だからか」
周りの生徒が口々に言う。
どうりで絵が上手いはずだ。
彼の荒っぽい噂とは裏腹の、細やかで優しい感性が、その絵からは溢れ出していた。
人だかりの後ろで立ち尽くしていた私の隣に、東峰君がそっとやってきた。
「あの……◯◯さん。どうかな?その……」
彼は自分の作品を褒められているのに、どこか落ち着かない様子で、私に感想を求めてきた。
彼の耳は、ほんのり赤く染まっている。
「凄い……」
私はその一言しか言えなかった。
彼の絵があまりにも上手すぎたのもあるけれど、何よりも、彼が私をこんなにも綺麗に、そして丁寧に見てくれていたという事実に、胸がいっぱいになっていたからだ。
「全然、私じゃないみたい……。凄く綺麗に描いてくれてる」
私の率直な感想に、東峰君はふっと照れたような笑顔を見せた。
「そっか。良かった。でも、俺の目には、こう見えてるんだよ」
彼の言葉が私の胸に染み渡る。
初めは絵を描くことも、東峰君がペアなのも嫌だった。
だけど、今はそんな気持ちは微塵もない。
東峰君にワイルドだと褒めてもらい、私自身も大袈裟なくらいよく描いてもらい、本当に良かった。
この美術の時間が、彼の穏やかな本質と、傍から見た自分の姿を、教えてくれたようだった。
ーーFinーー
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