人は見た目によらない
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2回目の美術の授業は色塗り。
キャンバスには相変わらず酷い下描き。
早く色を塗って、この失敗を誤魔化したい一心だった。
……あれ?
東峰君と向かい合うと、彼の髪型が前回と違うことに気が付いた。
前回は髪の毛を下ろしていたけれど、いつもより今日は暑かったからか、お団子ヘアになっている。
私の想像力で補填して描くか……。
いや、確実に無理だ。
作業に集中している東峰君に話しかけるのは気が引けたけれど、私は大人しく彼にお願いすることにした。
「ねえ、東峰君……」
申し訳なさそうな声で呼びかけると、彼はパレットを混ぜる手を止めて、穏やかな瞳を私に向けた。
「ん、何?◯◯さん」
「その……髪の毛下ろしてくれないかな?下描きの時と髪型が違うから……」
東峰君はハッとした表情をして、謝ってきた。
「ああ、すまんっ!」
そう言うと、彼はすぐに頭の後ろに手をやり、乱暴なほど素早くゴムをほどいた。
いつもの少し長めの下ろした髪型に戻った東峰君に、私はほっと胸をなでおろした。
これでようやく筆が進む。
だけど、よく見ると、ゴムで結んでいたせいで、彼の髪の毛には僅かに癖が付いていた。
耳の上のあたりにウェーブがかかっている。
私は思わず口元を緩ませてしまった。
そうとも知らず、東峰君は、
「これで大丈夫?◯◯さん」
と、少し恥ずかしそうに、自分の髪に触れながら尋ねてきた。
「うん、ありがとう」
私は短く答えると、すぐにキャンバスに視線を戻した。
そして、筆を握る手にぐっと力を込め、下描きに色を重ねていく。
……。
…………。
こんなもんかな……。
あらかた色塗りが終わった。
後は細かいところを詰めていくのみ。
私は右手の甲で、無意識に鼻の頭をぐいっと擦った。
すると、東峰君から、
「ふっ」
と小さく息を漏らす声が聞こえた。
「ん?どうしたの、東峰君?」
私が不思議に思って顔を上げると、彼は気まずそうな顔をしていた。
「いや、あのさ、◯◯さん」
東峰君は筆をそっと置いて、私の顔をじっと見つめてきた。
その視線に、私の心臓は速くなる。
「鼻に、絵の具ついてるよ」
「え……?」
私は反射的に自分の鼻の頭を触った。
指先にわずかな粘り気と、冷たい感触。
見ると、私の指には、さっきまで唇に使っていた赤っぽい色の絵の具がべったりと付いていた。
「うわっ!」
恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。
少し前に鼻を擦ったときについたものだ。
色も相まって、これじゃあまるでピエロだ。
どうしよう、どうしよう、と内心パニックになる。
何か拭くもの。
机の上を慌てて探す。
すると、東峰君は少し笑いを堪えたような表情のまま、自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
彼が取り出したのは、温かみのある茶色のハンカチだった。
「これ、使って」
「あ、ありがとう……」
私は慌ててハンカチを受け取ろうとしたけれど、東峰君はそれよりも早く、そっと私の鼻先にハンカチの角を当てた。
「!?」
驚きのあまりビクと体が動く。
「動かないで」
優しい、けれど有無を言わせない声。
彼の真剣な眼差しが、私の瞳を捉える。
緊張で息が詰まる。
ハンカチ越しに伝わる彼の体温と、あまりにも近い距離に、私の心臓はドクドクと不規則な音を立て始めた。
彼が絵の具を拭き取ってくれるまでの数秒間は、まるで時間が止まってしまったように長かった。
「はい、取れたよ」
「ありがとう……。あ、ハンカチ洗って返すよ!」
「気にしないで」
そう言われたら、それ以上何も言えなくなった。
東峰君は何事もなかったかのように作業に戻った。
だけど、私は授業が終わるまで、全く集中できなかった。
キャンバスには相変わらず酷い下描き。
早く色を塗って、この失敗を誤魔化したい一心だった。
……あれ?
東峰君と向かい合うと、彼の髪型が前回と違うことに気が付いた。
前回は髪の毛を下ろしていたけれど、いつもより今日は暑かったからか、お団子ヘアになっている。
私の想像力で補填して描くか……。
いや、確実に無理だ。
作業に集中している東峰君に話しかけるのは気が引けたけれど、私は大人しく彼にお願いすることにした。
「ねえ、東峰君……」
申し訳なさそうな声で呼びかけると、彼はパレットを混ぜる手を止めて、穏やかな瞳を私に向けた。
「ん、何?◯◯さん」
「その……髪の毛下ろしてくれないかな?下描きの時と髪型が違うから……」
東峰君はハッとした表情をして、謝ってきた。
「ああ、すまんっ!」
そう言うと、彼はすぐに頭の後ろに手をやり、乱暴なほど素早くゴムをほどいた。
いつもの少し長めの下ろした髪型に戻った東峰君に、私はほっと胸をなでおろした。
これでようやく筆が進む。
だけど、よく見ると、ゴムで結んでいたせいで、彼の髪の毛には僅かに癖が付いていた。
耳の上のあたりにウェーブがかかっている。
私は思わず口元を緩ませてしまった。
そうとも知らず、東峰君は、
「これで大丈夫?◯◯さん」
と、少し恥ずかしそうに、自分の髪に触れながら尋ねてきた。
「うん、ありがとう」
私は短く答えると、すぐにキャンバスに視線を戻した。
そして、筆を握る手にぐっと力を込め、下描きに色を重ねていく。
……。
…………。
こんなもんかな……。
あらかた色塗りが終わった。
後は細かいところを詰めていくのみ。
私は右手の甲で、無意識に鼻の頭をぐいっと擦った。
すると、東峰君から、
「ふっ」
と小さく息を漏らす声が聞こえた。
「ん?どうしたの、東峰君?」
私が不思議に思って顔を上げると、彼は気まずそうな顔をしていた。
「いや、あのさ、◯◯さん」
東峰君は筆をそっと置いて、私の顔をじっと見つめてきた。
その視線に、私の心臓は速くなる。
「鼻に、絵の具ついてるよ」
「え……?」
私は反射的に自分の鼻の頭を触った。
指先にわずかな粘り気と、冷たい感触。
見ると、私の指には、さっきまで唇に使っていた赤っぽい色の絵の具がべったりと付いていた。
「うわっ!」
恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。
少し前に鼻を擦ったときについたものだ。
色も相まって、これじゃあまるでピエロだ。
どうしよう、どうしよう、と内心パニックになる。
何か拭くもの。
机の上を慌てて探す。
すると、東峰君は少し笑いを堪えたような表情のまま、自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
彼が取り出したのは、温かみのある茶色のハンカチだった。
「これ、使って」
「あ、ありがとう……」
私は慌ててハンカチを受け取ろうとしたけれど、東峰君はそれよりも早く、そっと私の鼻先にハンカチの角を当てた。
「!?」
驚きのあまりビクと体が動く。
「動かないで」
優しい、けれど有無を言わせない声。
彼の真剣な眼差しが、私の瞳を捉える。
緊張で息が詰まる。
ハンカチ越しに伝わる彼の体温と、あまりにも近い距離に、私の心臓はドクドクと不規則な音を立て始めた。
彼が絵の具を拭き取ってくれるまでの数秒間は、まるで時間が止まってしまったように長かった。
「はい、取れたよ」
「ありがとう……。あ、ハンカチ洗って返すよ!」
「気にしないで」
そう言われたら、それ以上何も言えなくなった。
東峰君は何事もなかったかのように作業に戻った。
だけど、私は授業が終わるまで、全く集中できなかった。
