人は見た目によらない
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〜人は見た目によらない〜
美術室には、粘土や絵の具の混ざり合った匂いが漂っていた。
「今日から3回に分けて似顔絵を描いてもらいます」
美術の先生の声が、私に死刑宣告を下したみたいに聞こえた。
絵を描くこと。
それは私にとって、自分の致命的な欠陥と言っても過言ではない。
壊滅的な画力を白日の下に晒す、一種の公開処刑に等しい。
極力避けてきたはずなのに、授業という名の義務の前では、逃げ場はない。
しかも、描くのは自分自身ではなく、クラスメイトの顔だ。
自分の顔はまだしも、私から生み出される、見るも無残な仕上がりの絵を、ペアの人に見られてしまうなんて……。
想像するだけで、今から肝が冷える。
そして、そのペアがよりによって東峰旭君だと知ったとき、運に見放されたのだと思った。
彼とは3年生になって初めて同じクラスになった。
会話どころか、接点すらない。
それなのに、留年した社会人だとか、“烏野のアズマネ”という悪名を轟かす不良だとか、嫌な噂ばかりが耳に入ってくる。
もちろん、噂はあくまで噂。
違うと分かっているけれど、信じてしまいそうになるくらい、彼は大きな体格に、鋭い目つきをしていた。
いかにも、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
そんな彼と、今から1時間、向かい合って座らなければならないなんて、残酷すぎる。
「相手の顔をよく観察しながら描いてくださいね」
先生の指示に、クラス中がざわつく。
すぐ近くの男女ペアは恥ずかしがっているのか、頬を赤らめながら視線を合わせない。
一方、私はと言うと、東峰君の顔が怖くて視線を合わせられない。
この圧倒的な差に、私は思わず乾いた笑いが出そうになった。
だけど、全く見ずに描くことなど不可能だ。
腹を括るしかない。
私は意を決し、恐る恐る顔を上げた。
すると、視線の先にあったのは、おどおどと落ち着かない私とは対照的な、真剣な眼差しで絵を描く東峰君の横顔だった。
なんだか、変に意識して怯えていた自分が、急にバカバカしく思えてきた。
私は胸の中で改めて気合を入れ直し、キャンバスに鉛筆を走らせ始めた。
彼をじっくり観察する。
目元は、意外と彫りが深いんだな……。
眉毛は黒々と凛々しくて……。
特徴は分かった。
それなのに、いざそれをキャンバスに落とし込もうとすると、犯罪者のような目つき、人食いのような口、長いお下げ髪なんて、落ち武者のようになってしまった。
これは酷い。
この絵を、東峰君が見たら、きっとその鋭い目で私を睨みつけるに違いない。
イチから描き直すべきか……。
「はぁ〜……」
私は、無意識のうちに、小さくため息を吐いた。
その瞬間、東峰君と、ふいに目が合った。
彼は、私の不安を全部見透かしたかのように、静かに微笑む。
「俺のこと、描くの難しい?」
彼の声は、噂のイメージとは裏腹に、案外穏やかで低い声だった。
「ちゃんと描かなくても大丈夫だからな」
「え……?」
私は間の抜けた声を上げた。
「こんな俺とずっと向かい合うの、緊張するだろう」
彼は自虐気味に、少し困ったように笑った。
その顔は、私が耳にしてきた嫌な噂のイメージからは、遥かに遠くかけ離れていた。
決して人を威圧するものではなく、むしろ周囲を気にしすぎる繊細な優しさのように見える。
東峰君の予想外の気遣いに、私の強張っていた肩の力が抜けていく。
その一言に救われ、私はなんとか下描きを完成させることができたのだった。
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