好きな人の好きなものでも嫌いなら嫌い
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昼休みが終わり、サトミの本音を聞いてしまってから、私の心はずっと曇り空のようだった。
何をしても集中できず、迎えた放課後。
お互いの部活が終わり、いつもの校門で鉄朗と合流したものの、私の頭の中ではサトミの冷ややかな言葉が、ぐるぐると渦巻いていた。
“狙ってる男の前では誰だって猫被るでしょ”
私の足取りは、鉛のように重かった。
「……なぁ、●●。聞いてる?」
歩幅を合わせて歩いてくれていた鉄朗が、ふと足を止めて私の顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん、何の話だっけ」
彼の声は耳に届いているはずなのに、サトミの言葉が頭を占領していて、何を言われたのか全く入ってこなかった。
「いや……大した話じゃないからいいんだけど。なんか、さっきからずっと上の空だったから。もしかして、体調でも悪い?」
鉄朗の瞳には心配の色が浮かんでいる。
その優しさが今の私には少し眩しくて、小さく視線を落とした。
「そ、そんなこと、ないよ……!元気元気!」
引き攣った笑みを浮かべ、私はあからさまに視線を泳がせた。
だけど、鉄朗の目は誤魔化せない。
彼は小さくため息を吐き、私との距離を詰めた。
「嘘吐け。昼飯の時から、なんか無理して笑ってただろ」
鉄朗の優しい声が、今の私には酷く響いた。
無理なんてしていない。
だって、私はサトミと違って、猫すら被れないんだから。
「……ごめんね、鉄朗」
自分の口から溢れ出た声は、驚くほど掠れていた。
「は?なんで謝るんだよ」
鉄朗が眉をひそめる。
その表情に、もう耐えられなかった。
堰を切ったように、今まで胸の奥底に沈めていた醜い感情が、言葉となって溢れ出した。
「だって私、鉄朗の好きな物、何ひとつ共有できないから」
「……え?」
「サンマだって、昔骨が刺さってから怖くて食べられない。犬も噛まれたトラウマがあるし、バレーボールだって……体育で顔に当たってから、体がすくんじゃうんだよ。鉄朗の好きな物、私、何ひとつ一緒に楽しめないんだよ……!」
一気に捲し立てると、視界が涙で滲んだ。
鉄朗の顔が見えなくなる。
「鉄朗の好きなことを全部拒絶して、嘘でも合わせることすらできない私が、アナタの隣にいていいのかなって……申し訳なくなっちゃって……」
気付けば、堪えていた涙がポロポロと溢れ落ちていた。
鉄朗は目を見開いたまま、完全に絶句していた。
いつもならすぐに茶化したり、器用に私をあやしたりする彼が、見たこともないほどショックを受けた表情で立ち尽くしている。
「●●……。そんなに思い詰めていたなんて……」
鉄朗の声は、微かに震えていた。
「悪りぃ……俺、何も知らねぇで……押し付ける真似しちまって……」
後悔を滲ませて私に手を伸ばそうとする鉄朗。
だけど、今の私はそんな彼の優しささえも、素直に受け止められず、一歩後ろに下がってしまった。
「ううん、鉄朗は悪くないの……!私が、駄目なだけだから……っ。ごめん、今日、先に帰るね!」
「あ、おい!●●!」
呼び止める鉄朗の声を振り切り、私は逃げるように走り出してしまった。
追いかけてこないのは、鉄朗なりの気遣いなのか、それとも私に呆れてしまったからなのか。
涙で歪む景色の中、ただひたすらに走った。
家に帰ってからも、鉄朗からの「家着いたか?」「明日ちゃんと話そう」というメッセージに返事することができなかった。
気まずさと、申し訳なさと、大好きな人を傷つけてしまったかもしれない恐怖。
ぐちゃぐちゃな心のまま、私は最悪の夜を明かした。
何をしても集中できず、迎えた放課後。
お互いの部活が終わり、いつもの校門で鉄朗と合流したものの、私の頭の中ではサトミの冷ややかな言葉が、ぐるぐると渦巻いていた。
“狙ってる男の前では誰だって猫被るでしょ”
私の足取りは、鉛のように重かった。
「……なぁ、●●。聞いてる?」
歩幅を合わせて歩いてくれていた鉄朗が、ふと足を止めて私の顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん、何の話だっけ」
彼の声は耳に届いているはずなのに、サトミの言葉が頭を占領していて、何を言われたのか全く入ってこなかった。
「いや……大した話じゃないからいいんだけど。なんか、さっきからずっと上の空だったから。もしかして、体調でも悪い?」
鉄朗の瞳には心配の色が浮かんでいる。
その優しさが今の私には少し眩しくて、小さく視線を落とした。
「そ、そんなこと、ないよ……!元気元気!」
引き攣った笑みを浮かべ、私はあからさまに視線を泳がせた。
だけど、鉄朗の目は誤魔化せない。
彼は小さくため息を吐き、私との距離を詰めた。
「嘘吐け。昼飯の時から、なんか無理して笑ってただろ」
鉄朗の優しい声が、今の私には酷く響いた。
無理なんてしていない。
だって、私はサトミと違って、猫すら被れないんだから。
「……ごめんね、鉄朗」
自分の口から溢れ出た声は、驚くほど掠れていた。
「は?なんで謝るんだよ」
鉄朗が眉をひそめる。
その表情に、もう耐えられなかった。
堰を切ったように、今まで胸の奥底に沈めていた醜い感情が、言葉となって溢れ出した。
「だって私、鉄朗の好きな物、何ひとつ共有できないから」
「……え?」
「サンマだって、昔骨が刺さってから怖くて食べられない。犬も噛まれたトラウマがあるし、バレーボールだって……体育で顔に当たってから、体がすくんじゃうんだよ。鉄朗の好きな物、私、何ひとつ一緒に楽しめないんだよ……!」
一気に捲し立てると、視界が涙で滲んだ。
鉄朗の顔が見えなくなる。
「鉄朗の好きなことを全部拒絶して、嘘でも合わせることすらできない私が、アナタの隣にいていいのかなって……申し訳なくなっちゃって……」
気付けば、堪えていた涙がポロポロと溢れ落ちていた。
鉄朗は目を見開いたまま、完全に絶句していた。
いつもならすぐに茶化したり、器用に私をあやしたりする彼が、見たこともないほどショックを受けた表情で立ち尽くしている。
「●●……。そんなに思い詰めていたなんて……」
鉄朗の声は、微かに震えていた。
「悪りぃ……俺、何も知らねぇで……押し付ける真似しちまって……」
後悔を滲ませて私に手を伸ばそうとする鉄朗。
だけど、今の私はそんな彼の優しささえも、素直に受け止められず、一歩後ろに下がってしまった。
「ううん、鉄朗は悪くないの……!私が、駄目なだけだから……っ。ごめん、今日、先に帰るね!」
「あ、おい!●●!」
呼び止める鉄朗の声を振り切り、私は逃げるように走り出してしまった。
追いかけてこないのは、鉄朗なりの気遣いなのか、それとも私に呆れてしまったからなのか。
涙で歪む景色の中、ただひたすらに走った。
家に帰ってからも、鉄朗からの「家着いたか?」「明日ちゃんと話そう」というメッセージに返事することができなかった。
気まずさと、申し訳なさと、大好きな人を傷つけてしまったかもしれない恐怖。
ぐちゃぐちゃな心のまま、私は最悪の夜を明かした。
