好きな人の好きなものでも嫌いなら嫌い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昼休みが終わりに近付き、教室の中に少しずつ人が戻り始めた頃。
「んじゃ、俺戻るわ。また放課後な」
鉄朗は私の頭をポンと軽く叩いて、自分のクラスへと戻っていった。
彼が去った後の寂しさに耐えるように、弁当箱を片付けて席を立つ。
廊下へ出てすぐのところにあるお手洗い。
蛇口をひねり、冷たい水で手を洗ってハンカチで拭う。
鏡に映る自分の冴えない顔を見つめていた、その時だった。
入り口の方から、聞き覚えのある高い声がしてきた。
「ねえサトミ、さっきのワンちゃん職員室にいるんだって!見に行こうよ!」
サトミの友達が、興奮気味に彼女の腕を引っ張っている。
さっき鉄朗の前で、あれだけ「可愛い!」「俄然犬派!」と目を輝かせて大はしゃぎしていた2人だ。
当然、今から嬉々として職員室へ向かうのだろう。
だけど、返ってきたのは、さっきとは似ても似つかない冷めきった声だった。
「は?行くワケないじゃん。何言ってんの」
「え、だって……」
「犬なんて臭いし、制服に毛が付くからマジ勘弁。ぶっちゃけ近付きたくもないんだけど」
「でも、さっきは黒尾君の前で楽しそうに話してたじゃん!」
友達の戸惑う声に、サトミはダルそうに指先で髪を弄りながら、ケラケラと鼻で笑った。
「あんなの、嘘に決まってるじゃん。鉄朗が犬好きって言うから、話を合わせただけ。犬が可愛いなんて、思ったこともない」
「え〜、サトミってば悪女!」
「計算高いって言ってよね。狙ってる男の前では誰だって猫被るでしょ」
私は洗面台の前で、ハンカチを握りしめたまま、動けなくなってしまった。
何とも言えない感情が込み上げてくる。
サトミは、犬が好きだから「可愛い」と言ったワケじゃない。
鉄朗に気に入られたくて、鉄朗の気を引きたくて、嘘の好きを並べただけだった。
私は、あんな風にはなれない……。
嘘でもいいから「バレー教えて!」と言えれば、鉄朗と同じ時間を過ごせたのかもしれない。
嘘でもいいから「サンマ食べたい!」と言えれば、口元に運んでくれたのかもしれない。
嘘でもいいから「私も犬好きなんだ!」と言えれば、さっきのサトミたちのように、鉄朗と笑顔で盛り上がれたのかもしれない。
だけど、私にはそれができなかった。
嘘を吐いて鉄朗に近付く器用さもなければ、トラウマを克服して彼の好きに合わせる勇気もない。
サトミの気を引こうとした故の偽物の“好き”と、私の傷付くことを恐れた故の本物の“嫌い”。
どちらがマシなのかなんて分からない。
ただ、嘘を吐いてまで鉄朗との距離を縮めようとするサトミの貪欲さが、そして、そんな彼女にさえ劣等感を抱いてしまう自分自身が、たまらなく嫌だった。
「……はぁ」
小さく吐き出したため息は、誰に届くこともなく消えていった。
「んじゃ、俺戻るわ。また放課後な」
鉄朗は私の頭をポンと軽く叩いて、自分のクラスへと戻っていった。
彼が去った後の寂しさに耐えるように、弁当箱を片付けて席を立つ。
廊下へ出てすぐのところにあるお手洗い。
蛇口をひねり、冷たい水で手を洗ってハンカチで拭う。
鏡に映る自分の冴えない顔を見つめていた、その時だった。
入り口の方から、聞き覚えのある高い声がしてきた。
「ねえサトミ、さっきのワンちゃん職員室にいるんだって!見に行こうよ!」
サトミの友達が、興奮気味に彼女の腕を引っ張っている。
さっき鉄朗の前で、あれだけ「可愛い!」「俄然犬派!」と目を輝かせて大はしゃぎしていた2人だ。
当然、今から嬉々として職員室へ向かうのだろう。
だけど、返ってきたのは、さっきとは似ても似つかない冷めきった声だった。
「は?行くワケないじゃん。何言ってんの」
「え、だって……」
「犬なんて臭いし、制服に毛が付くからマジ勘弁。ぶっちゃけ近付きたくもないんだけど」
「でも、さっきは黒尾君の前で楽しそうに話してたじゃん!」
友達の戸惑う声に、サトミはダルそうに指先で髪を弄りながら、ケラケラと鼻で笑った。
「あんなの、嘘に決まってるじゃん。鉄朗が犬好きって言うから、話を合わせただけ。犬が可愛いなんて、思ったこともない」
「え〜、サトミってば悪女!」
「計算高いって言ってよね。狙ってる男の前では誰だって猫被るでしょ」
私は洗面台の前で、ハンカチを握りしめたまま、動けなくなってしまった。
何とも言えない感情が込み上げてくる。
サトミは、犬が好きだから「可愛い」と言ったワケじゃない。
鉄朗に気に入られたくて、鉄朗の気を引きたくて、嘘の好きを並べただけだった。
私は、あんな風にはなれない……。
嘘でもいいから「バレー教えて!」と言えれば、鉄朗と同じ時間を過ごせたのかもしれない。
嘘でもいいから「サンマ食べたい!」と言えれば、口元に運んでくれたのかもしれない。
嘘でもいいから「私も犬好きなんだ!」と言えれば、さっきのサトミたちのように、鉄朗と笑顔で盛り上がれたのかもしれない。
だけど、私にはそれができなかった。
嘘を吐いて鉄朗に近付く器用さもなければ、トラウマを克服して彼の好きに合わせる勇気もない。
サトミの気を引こうとした故の偽物の“好き”と、私の傷付くことを恐れた故の本物の“嫌い”。
どちらがマシなのかなんて分からない。
ただ、嘘を吐いてまで鉄朗との距離を縮めようとするサトミの貪欲さが、そして、そんな彼女にさえ劣等感を抱いてしまう自分自身が、たまらなく嫌だった。
「……はぁ」
小さく吐き出したため息は、誰に届くこともなく消えていった。
