未熟な恋
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連れて行かれたのは、少し照明の落ちた落ち着いた雰囲気のダイニングバーだった。
目の前に並ぶ、彩り豊かな前菜と繊細なカクテル。
そして、私の隣で当たり前のようにウイスキーを嗜んでいる鉄朗。
その姿があまりに様になっていて、ふと、彼が初めてアルコールに翻弄されたあの日の情景を思い出した。
……。
…………。
高校3年生の夏。
私の家で、一緒に中間テストに向けて勉強会をしていた時。
数学の難問を前に、鉄朗がシャーペンを放り出した。
「あー、集中力切れた!」
机に突っ伏した鉄朗に、私は母が貰い物だと言って置いていった箱菓子を差し出した。
「これ、食べる?チョコ」
「お、サンキュ。……ん、これ……」
一粒口に放り込んだ鉄朗が、数秒後に「うわっ」と声を上げた。
「どうしたの?」
「いや……なんか、変な味がする。これ、酒入ってんのか?」
それは、中からとろりとリキュールが溢れ出すウイスキーボンボンだったのだ。
瞬く間に、鉄朗の頬が真っ赤に染まっていく。
たった一粒。
ほんの数パーセントのアルコール分に、彼はあからさまに翻弄されていた。
「あはは!鉄朗、お酒弱すぎじゃない?」
「うるせー……」
フラフラと床に横になった彼は、手で顔を覆いながら「一生酒なんて飲まねぇ……」と小さく毒づいていた。
その無防備な姿が可笑しくて、私はいつまでも笑っていた。
だけど、その日の晩。
食卓に並んだ、祖父母の家から届いたという自家製の漬物を一口食べた瞬間、私の視界もぐらりと揺れた。
「うわ、この漬物、カーッてなる……」
「それ、奈良漬けよ。●●、もしかしたらお酒に弱い体質なのかもね」
母の言葉を聞き流しながら、口直しにお茶をがぶ飲みした。
昼間、あれほど鉄朗のことをバカにしたのに。
結局、私たちはお似合いのお子様だったのだ。
……。
…………。
「……何笑ってんだよ」
グラスを傾けたまま、鉄朗が訝しげに私を覗き込んできた。
「……ふふ、なんか、変な感じだなって」
「何がだ?」
「鉄朗とお酒飲んでるのも、こういう店を知ってるのも」
私がそう言うと、鉄朗はグラスを揺らしながら、少しだけ目を細めた。
「そりゃ、あれから何年経ったと思ってるんだよ。俺だって、いつまでもガキのままじゃないんですよ」
確信犯的な笑みを浮かべて、彼はまた一口、強い酒を喉に流し込んだ。
付き合っていた頃は、彼の全部を知っているつもりだった。
だけど、今、目の前にいる男は、私が知らない経験をしてきた、大人の黒尾鉄朗なのだ。
目の前に並ぶ、彩り豊かな前菜と繊細なカクテル。
そして、私の隣で当たり前のようにウイスキーを嗜んでいる鉄朗。
その姿があまりに様になっていて、ふと、彼が初めてアルコールに翻弄されたあの日の情景を思い出した。
……。
…………。
高校3年生の夏。
私の家で、一緒に中間テストに向けて勉強会をしていた時。
数学の難問を前に、鉄朗がシャーペンを放り出した。
「あー、集中力切れた!」
机に突っ伏した鉄朗に、私は母が貰い物だと言って置いていった箱菓子を差し出した。
「これ、食べる?チョコ」
「お、サンキュ。……ん、これ……」
一粒口に放り込んだ鉄朗が、数秒後に「うわっ」と声を上げた。
「どうしたの?」
「いや……なんか、変な味がする。これ、酒入ってんのか?」
それは、中からとろりとリキュールが溢れ出すウイスキーボンボンだったのだ。
瞬く間に、鉄朗の頬が真っ赤に染まっていく。
たった一粒。
ほんの数パーセントのアルコール分に、彼はあからさまに翻弄されていた。
「あはは!鉄朗、お酒弱すぎじゃない?」
「うるせー……」
フラフラと床に横になった彼は、手で顔を覆いながら「一生酒なんて飲まねぇ……」と小さく毒づいていた。
その無防備な姿が可笑しくて、私はいつまでも笑っていた。
だけど、その日の晩。
食卓に並んだ、祖父母の家から届いたという自家製の漬物を一口食べた瞬間、私の視界もぐらりと揺れた。
「うわ、この漬物、カーッてなる……」
「それ、奈良漬けよ。●●、もしかしたらお酒に弱い体質なのかもね」
母の言葉を聞き流しながら、口直しにお茶をがぶ飲みした。
昼間、あれほど鉄朗のことをバカにしたのに。
結局、私たちはお似合いのお子様だったのだ。
……。
…………。
「……何笑ってんだよ」
グラスを傾けたまま、鉄朗が訝しげに私を覗き込んできた。
「……ふふ、なんか、変な感じだなって」
「何がだ?」
「鉄朗とお酒飲んでるのも、こういう店を知ってるのも」
私がそう言うと、鉄朗はグラスを揺らしながら、少しだけ目を細めた。
「そりゃ、あれから何年経ったと思ってるんだよ。俺だって、いつまでもガキのままじゃないんですよ」
確信犯的な笑みを浮かべて、彼はまた一口、強い酒を喉に流し込んだ。
付き合っていた頃は、彼の全部を知っているつもりだった。
だけど、今、目の前にいる男は、私が知らない経験をしてきた、大人の黒尾鉄朗なのだ。
