未熟な恋
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鉄朗からの連絡は、思ったより早く届いた。
“空いてる日いつ?近々飲みに行かないか”
シンプルなメッセージなのに、不思議と心が弾む。
だけど、すぐに返事をするのは、なんだか負けたような気がして気恥ずかしい。
返事を渋っている間の数分間、手のひらの中でスマホを転がす。
「……」
結局、私はソワソワとした落ち着かなさに負けて、すぐに指を動かした。
“今度の金曜日の夜なら大丈夫だよ”
返信を送ってから数分もしないうちに、画面が明るくなった。
“了解。19時に駅前集合。店はこっちで適当に見繕っておくわ”
仕事の速さに、思わず苦笑いが漏れる。
そして迎えた金曜日。
街は週末の解放感に包まれ、賑わいを見せていた。
仕事を切り上げ、待ち合わせ場所へ向かうと、鉄朗の姿はなかった。
時計を確認すると、思ったよりも早く着いていたことに気が付く。
私は建物にもたれ掛かり、スマホを眺めて待つことにした。
10分、20分と時間は過ぎていく。
「悪い、仕事が長引いた……!」
不意に、少し弾んだ足音と共に聞き慣れた声が届く。
見上げると、ネクタイを少し緩めた鉄朗が、肩を上下させながら申し訳なさそうに立っていた。
「ううん、大丈夫。お仕事お疲れ様」
私は手元のスマホを鞄にしまい、穏やかに微笑んだ。
待たされた30分。
昔の私は、遅刻した理由が鉄朗に非がなくとも、腹を立てていた。
それが、今では彼が頑張った証として受け流せる。
……。
…………。
高校3年生の春。
まだ冬の気配が残る、刺すような冷たい風が吹く放課後。
「お待たせー。ちょっと、部活が押してさ。近々ある練習試合について、監督と話し込んでて……。いやあ、参った参った」
昇降口から走ってきた鉄朗は、赤いジャージ姿に、額からは薄っすらと汗を滲ませていた。
その姿を見れば、彼がいかに必死に練習に打ち込んでいたか、今の私なら一目で理解できる。
だけど、当時の私は、寒さに凍える指先と、誰もいなくなった校舎の静けさに、言いようのない孤独を感じていた。
「遅い!」
口調を強めて言い放った私の声は、自分でも驚くほど尖っていた。
「……だから、悪いって!」
鉄朗もまた、練習終わりの高揚感と疲労が混じり、余裕を失っていた。
彼は乱暴に前髪を掻き上げ、私を真正面から見据える。
「10分だぞ?たった10分、待てなかったのかよ」
「長さの問題じゃないの!謝るより先に言い訳ばっかり!」
本当は怒りたかったワケじゃない。
ただ「寂しかった」と言いたかっただけ。
「お疲れ様」と笑い合いたかっただけ。
なのに、口から出るのは相手を傷つけるための言葉ばかりだった。
「お前さ、俺がバレー頑張ってるの、応援してくれてたんじゃねぇの?」
「応援してるよ!でも、それとこれとは別!私だって、ずっとここで待ってたんだよ」
言い合いは平行線のまま。
鉄朗はチッと舌打ちをして視線を逸らし、私は悔しさに唇を噛んで地面を睨みつけた。
その日は、2人の間に妙な距離が空いたまま帰ったのを覚えている。
……。
…………。
「……どうした?ぼーっとして」
鉄朗の声に、意識が引き戻される。
目の前には、仕立ての良いスーツに身を包んだ大人の彼がいた。
「何でもない。ところで、そのネクタイ、自分で選んだの?」
私は少し照れ隠しに、彼の胸元に視線を落とした。
「ん?まあな。似合ってないか?」
「ううん、大人っぽくて似合ってる。昔はジャージか制服ばっかりだったから」
「はははっ、褒め言葉として受け止めとくよ」
鉄朗は少し照れくさそうに鼻の頭を掻くと、「行くか」と短く言って歩き出した。
かつてのトゲトゲしさはどこへやら。
私たちは、一定の距離を保ちながら、彼が予約してくれた店へと向かった。
“空いてる日いつ?近々飲みに行かないか”
シンプルなメッセージなのに、不思議と心が弾む。
だけど、すぐに返事をするのは、なんだか負けたような気がして気恥ずかしい。
返事を渋っている間の数分間、手のひらの中でスマホを転がす。
「……」
結局、私はソワソワとした落ち着かなさに負けて、すぐに指を動かした。
“今度の金曜日の夜なら大丈夫だよ”
返信を送ってから数分もしないうちに、画面が明るくなった。
“了解。19時に駅前集合。店はこっちで適当に見繕っておくわ”
仕事の速さに、思わず苦笑いが漏れる。
そして迎えた金曜日。
街は週末の解放感に包まれ、賑わいを見せていた。
仕事を切り上げ、待ち合わせ場所へ向かうと、鉄朗の姿はなかった。
時計を確認すると、思ったよりも早く着いていたことに気が付く。
私は建物にもたれ掛かり、スマホを眺めて待つことにした。
10分、20分と時間は過ぎていく。
「悪い、仕事が長引いた……!」
不意に、少し弾んだ足音と共に聞き慣れた声が届く。
見上げると、ネクタイを少し緩めた鉄朗が、肩を上下させながら申し訳なさそうに立っていた。
「ううん、大丈夫。お仕事お疲れ様」
私は手元のスマホを鞄にしまい、穏やかに微笑んだ。
待たされた30分。
昔の私は、遅刻した理由が鉄朗に非がなくとも、腹を立てていた。
それが、今では彼が頑張った証として受け流せる。
……。
…………。
高校3年生の春。
まだ冬の気配が残る、刺すような冷たい風が吹く放課後。
「お待たせー。ちょっと、部活が押してさ。近々ある練習試合について、監督と話し込んでて……。いやあ、参った参った」
昇降口から走ってきた鉄朗は、赤いジャージ姿に、額からは薄っすらと汗を滲ませていた。
その姿を見れば、彼がいかに必死に練習に打ち込んでいたか、今の私なら一目で理解できる。
だけど、当時の私は、寒さに凍える指先と、誰もいなくなった校舎の静けさに、言いようのない孤独を感じていた。
「遅い!」
口調を強めて言い放った私の声は、自分でも驚くほど尖っていた。
「……だから、悪いって!」
鉄朗もまた、練習終わりの高揚感と疲労が混じり、余裕を失っていた。
彼は乱暴に前髪を掻き上げ、私を真正面から見据える。
「10分だぞ?たった10分、待てなかったのかよ」
「長さの問題じゃないの!謝るより先に言い訳ばっかり!」
本当は怒りたかったワケじゃない。
ただ「寂しかった」と言いたかっただけ。
「お疲れ様」と笑い合いたかっただけ。
なのに、口から出るのは相手を傷つけるための言葉ばかりだった。
「お前さ、俺がバレー頑張ってるの、応援してくれてたんじゃねぇの?」
「応援してるよ!でも、それとこれとは別!私だって、ずっとここで待ってたんだよ」
言い合いは平行線のまま。
鉄朗はチッと舌打ちをして視線を逸らし、私は悔しさに唇を噛んで地面を睨みつけた。
その日は、2人の間に妙な距離が空いたまま帰ったのを覚えている。
……。
…………。
「……どうした?ぼーっとして」
鉄朗の声に、意識が引き戻される。
目の前には、仕立ての良いスーツに身を包んだ大人の彼がいた。
「何でもない。ところで、そのネクタイ、自分で選んだの?」
私は少し照れ隠しに、彼の胸元に視線を落とした。
「ん?まあな。似合ってないか?」
「ううん、大人っぽくて似合ってる。昔はジャージか制服ばっかりだったから」
「はははっ、褒め言葉として受け止めとくよ」
鉄朗は少し照れくさそうに鼻の頭を掻くと、「行くか」と短く言って歩き出した。
かつてのトゲトゲしさはどこへやら。
私たちは、一定の距離を保ちながら、彼が予約してくれた店へと向かった。
