最幸のお弁当
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〜最幸のお弁当〜
鉄朗と結婚して、1ヶ月が経った。
籍を入れるまで同棲はしていなかったけれど、金銭管理や家事の分担といった現実的なルールは事前にすり合わせた。
その甲斐あって、トラブルなく安定した生活を送れている。
ただ、たった1つの確認し忘れたことを除いて……。
「今日は帰り遅くなるから、先に寝てて。んじゃ、行ってきます」
玄関に、鉄朗の低い声が響く。
パリッとしたワイシャツに、シワ1つないスーツ。
高校時代、ジャージ姿が当たり前だった彼が、今ではすっかり仕事のできる男の顔をしている。
「行ってらっしゃい、鉄朗」
私がそう言うと、彼はドアノブに手をかけたまま、ふと思い出したように足を止めた。
「……あ、そうそう」
「ん?何か忘れ物?」
棚の上のキーケース用のトレイを見ても、中身は空っぽ。
さっき彼が手に取るのが見えたから、鍵は忘れずに持っているはずだし、リビングの机の上にもそれらしい物は残っていない。
首をかしげていると、私の視界が不意に暗くなった。
チュッ
触れるだけの、優しいキスが額に落ちた。
「……っ!」
「じゃあ、今度こそ行ってきます」
してやったり、と言わんばかりのイタズラな笑み。
瞳が柔らかく細められ、彼は風のように家を出て行った。
付き合いたての学生じゃあるまいし、もういい大人だ。
それでも、彼が時折見せるその少年のような表情に、私は心臓の鼓動を跳ね上げさせてしまう。
「……っ、私も支度しないと」
熱を持った頬を両手で押さえ、キッチンへと逃げ込んだ。
カウンターの上のお皿には、お弁当箱に詰められるのを待っているおかずたちが並んでいる。
それらを、トングで器用に詰めていく。
カチカチと小さな音が響く静かなキッチンで、ふとした疑問が頭をよぎった。
「そういえば……鉄朗、お昼はどうしてるんだろう」
結婚前に、色んなことを取り決めたけれど、お昼ご飯の確認だけ忘れていた。
私が自分の分のお弁当を作っていても「俺の分も作って」など、特に何も言ってこない。
社食があるのだろうか……。
それとも、私に気を遣っている?
詰め終わったお弁当箱を見つめながら、私は思いを馳せた。
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