最低最善の恋人
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「そろそろ帰らないとね」
海辺から吹く風が冷たさを増していた。
「帰る前にさ、ちょっと寄りたい場所があるんだけど」
「寄りたい場所?」
「ああ、そんなに遠くないから」
そう言って彼の後ろを黙って付いて行く。
数分歩き、たどり着いた場所はこじんまりとした公園だった。
錆びたブランコと滑り台、鉄棒に砂場、そして、少し古びた2人掛けのベンチが1基。
一見、何の変哲もない、ただの公園だ。
だけど、私にとっては……私たちにとっては特別な場所だった。
なぜなら、ここは7年前、私が鉄朗に振られて逃げ帰った公園だから。
鉄朗はそれを知って私を連れてきたのか、ただの偶然なのか。
私には分からなかった。
「寄りたい場所って、この公園?」
探るように尋ねると、鉄朗は儚げな表情で返事をした。
「ああ……」
そして、彼は再び私の手をそっと握り直した。
「ここ、利用する人がいなくて、落ち着く場所なんだ」
知っている。
だから、私たちは小学生時代、よくここに寄り道をしていた。
「●●ちゃん、ずっと言いたかったんだけど……」
ああ、この流れは告白だ。
私はその言葉を待ち望んでいたはずなのに、このために茶番のような関係を気付いてきたのに。
気が付いたら、私は彼の言葉を遮っていた。
「待って、黒尾君。その前に、聞いてほしいことがあるの」
自分でもバカなことをしている自覚はある。
このまま告白をさせて振れば、私の復讐は完遂する。
だけど、この偽りの関係を続けることに、私の心が拒んだ。
私は深く息を吸い込み、決意の言葉を絞り出した。
「私のフルネーム、◯◯●●なの」
今まで、何かと誤魔化して教えてこなかったフルネーム。
そして、決定的な真実を突き付ける。
「昔、アナタと付き合っていた……あの、太っていた◯◯●●」
言った瞬間、鉄朗は驚いた顔をした。
だけど、それは一瞬で、すぐに彼の顔は、何かを悟ったように静かな表情になった。
そして、彼は握っていた私の手を、優しく包み込むように持ち直した。
「……気付いた上で口説いていたんだけど」
彼のその一言に、私の心は掻き乱された。
「え……?」
「一目見たときから、分かってた。そして、俺のことを恨んでいるのも」
「じゃあ、なんで近付いたの!」
私だと知っていて、恨んでいると分かっていて、気付かないフリをして側にいた理由とは。
「そんなの、今でも●●ちゃんのことが好きだからだよ」
鉄朗は、少し苦しそうに目を細めた。
「なんで!?意味分かんない!」
私の声は震えていた。
怒り、混乱、そして絶望。
「太っていた時は振ったくせに!今でも好きって何よ!」
鉄朗は、真剣な瞳で私を見つめ返した。
「あの時、振ったのは本意じゃなかったんだ」
「本意じゃない?!」
涙が溢れて、目の前の鉄朗の顔がぼやける。
「俺の両親、離婚したって話ししただろ?遠くに引っ越すって分かっていたんだ。それなのに、いつまでも●●ちゃんと付き合い続けるのは、キミを縛り付けるようで後ろめたかった」
鉄朗は、視線を落とした。
「だけど、別れ方が分からなかった。中途半端に優しくして別れたら、●●ちゃんは俺をずっと引きずって、新しい恋ができなくなるんじゃないかって」
彼の声は苦しげだ。
「だから、俺のことを心底、嫌いになって、すぐに忘れられるようにしたかった。二度と会えないと思っていたし、新しい生活で、●●ちゃんが俺との過去を思い出さないように……」
彼は、私の顔を見上げた。
瞳には、後悔の色が滲んでいた。
太っていた私を振った最悪な恋人は、実はずっと、私を思って、自分を「最悪」の悪人にしたまま、私の元から去っていたのだ。
「……だとしても、その理由に体型を使うのは悪手だったよな。最低な言葉だった。ごめん」
深々と頭を下げる。
「その言葉が●●ちゃんをどれだけ傷つけたか、どれだけ苦しめたか。再会してから、●●ちゃんの目を見て、痛いほど理解した。本当にごめん」
「顔、上げてよ」
鉄朗はゆっくりと顔を上げた。
その目元は、私と同じように潤んでいた。
「私、あの言葉をずっと恨んでた……。だから、鉄朗と再会したとき、私に気付いていないのをいいことに復讐してやろうと近付いた。実際は、私に気付いてたみたいだから、計画は全部パーなんだけどね。どう幻滅した?」
「してない。むしろ、俺のことをずっと忘れないでいてくれて嬉しかった。だから、もう一度俺にチャンスをくれないか。●●ちゃんを振り向かせたい」
私は彼の大きな背中に、そっと腕を回した。
「っ……もう、私を悲しい気持ちにさせないでよ」
「絶対にもうしない。約束だ」
「……うん、約束」
私は頷くことしかできなかった。
憎しみは、もうどこにもない。
そこには、ただ、暖かく優しい、本当の恋人だけがいた。
ーーFinーー
海辺から吹く風が冷たさを増していた。
「帰る前にさ、ちょっと寄りたい場所があるんだけど」
「寄りたい場所?」
「ああ、そんなに遠くないから」
そう言って彼の後ろを黙って付いて行く。
数分歩き、たどり着いた場所はこじんまりとした公園だった。
錆びたブランコと滑り台、鉄棒に砂場、そして、少し古びた2人掛けのベンチが1基。
一見、何の変哲もない、ただの公園だ。
だけど、私にとっては……私たちにとっては特別な場所だった。
なぜなら、ここは7年前、私が鉄朗に振られて逃げ帰った公園だから。
鉄朗はそれを知って私を連れてきたのか、ただの偶然なのか。
私には分からなかった。
「寄りたい場所って、この公園?」
探るように尋ねると、鉄朗は儚げな表情で返事をした。
「ああ……」
そして、彼は再び私の手をそっと握り直した。
「ここ、利用する人がいなくて、落ち着く場所なんだ」
知っている。
だから、私たちは小学生時代、よくここに寄り道をしていた。
「●●ちゃん、ずっと言いたかったんだけど……」
ああ、この流れは告白だ。
私はその言葉を待ち望んでいたはずなのに、このために茶番のような関係を気付いてきたのに。
気が付いたら、私は彼の言葉を遮っていた。
「待って、黒尾君。その前に、聞いてほしいことがあるの」
自分でもバカなことをしている自覚はある。
このまま告白をさせて振れば、私の復讐は完遂する。
だけど、この偽りの関係を続けることに、私の心が拒んだ。
私は深く息を吸い込み、決意の言葉を絞り出した。
「私のフルネーム、◯◯●●なの」
今まで、何かと誤魔化して教えてこなかったフルネーム。
そして、決定的な真実を突き付ける。
「昔、アナタと付き合っていた……あの、太っていた◯◯●●」
言った瞬間、鉄朗は驚いた顔をした。
だけど、それは一瞬で、すぐに彼の顔は、何かを悟ったように静かな表情になった。
そして、彼は握っていた私の手を、優しく包み込むように持ち直した。
「……気付いた上で口説いていたんだけど」
彼のその一言に、私の心は掻き乱された。
「え……?」
「一目見たときから、分かってた。そして、俺のことを恨んでいるのも」
「じゃあ、なんで近付いたの!」
私だと知っていて、恨んでいると分かっていて、気付かないフリをして側にいた理由とは。
「そんなの、今でも●●ちゃんのことが好きだからだよ」
鉄朗は、少し苦しそうに目を細めた。
「なんで!?意味分かんない!」
私の声は震えていた。
怒り、混乱、そして絶望。
「太っていた時は振ったくせに!今でも好きって何よ!」
鉄朗は、真剣な瞳で私を見つめ返した。
「あの時、振ったのは本意じゃなかったんだ」
「本意じゃない?!」
涙が溢れて、目の前の鉄朗の顔がぼやける。
「俺の両親、離婚したって話ししただろ?遠くに引っ越すって分かっていたんだ。それなのに、いつまでも●●ちゃんと付き合い続けるのは、キミを縛り付けるようで後ろめたかった」
鉄朗は、視線を落とした。
「だけど、別れ方が分からなかった。中途半端に優しくして別れたら、●●ちゃんは俺をずっと引きずって、新しい恋ができなくなるんじゃないかって」
彼の声は苦しげだ。
「だから、俺のことを心底、嫌いになって、すぐに忘れられるようにしたかった。二度と会えないと思っていたし、新しい生活で、●●ちゃんが俺との過去を思い出さないように……」
彼は、私の顔を見上げた。
瞳には、後悔の色が滲んでいた。
太っていた私を振った最悪な恋人は、実はずっと、私を思って、自分を「最悪」の悪人にしたまま、私の元から去っていたのだ。
「……だとしても、その理由に体型を使うのは悪手だったよな。最低な言葉だった。ごめん」
深々と頭を下げる。
「その言葉が●●ちゃんをどれだけ傷つけたか、どれだけ苦しめたか。再会してから、●●ちゃんの目を見て、痛いほど理解した。本当にごめん」
「顔、上げてよ」
鉄朗はゆっくりと顔を上げた。
その目元は、私と同じように潤んでいた。
「私、あの言葉をずっと恨んでた……。だから、鉄朗と再会したとき、私に気付いていないのをいいことに復讐してやろうと近付いた。実際は、私に気付いてたみたいだから、計画は全部パーなんだけどね。どう幻滅した?」
「してない。むしろ、俺のことをずっと忘れないでいてくれて嬉しかった。だから、もう一度俺にチャンスをくれないか。●●ちゃんを振り向かせたい」
私は彼の大きな背中に、そっと腕を回した。
「っ……もう、私を悲しい気持ちにさせないでよ」
「絶対にもうしない。約束だ」
「……うん、約束」
私は頷くことしかできなかった。
憎しみは、もうどこにもない。
そこには、ただ、暖かく優しい、本当の恋人だけがいた。
ーーFinーー
