最低最善の恋人
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その日の夕方、私はラウンジに残っていた。
レポートが終わるまで粘ってると、気付けば夕暮れが迫っていた。
他に利用していた学生たちも、ひとり、またひとりとラウンジを後にする。
それでも、私のレポートは終わりそうにない。
何度読み返しても頭に入ってこない資料とにらめっこをしながら、思わず小さなうめき声が出る。
「う〜……」
その時、鉄朗がこちらへやってきた。
彼の両手には、2人分の缶コーヒーが握られている。
「どう、進んでる〜?」
「全く」
私は正直に答え、机に広げたレポートを指差した。
「なら、これでも飲んで休憩しなさいよ」
彼はそう言って、1つを私の手元にことりと音を立てて机に置いた。
「ありがとう」
私は素直に礼を述べた。
本当に気が利く男だ。
世の中の男性で、こんな自然な優しさを、見返りを求めずに差し出せる人が何人いるだろうか。
私はこの機会に、彼の気遣いの理由を探るため、質問をしてみることにした。
あわよくば、私との過去に繋がる糸口が分かるかもしれない。
私はコーヒーのプルタブをプシュと開け、一口飲んでから、彼に視線を向けた。
「ねえ、黒尾君ってさ、どんな幼少期だったの?」
鉄朗は少し驚いたように私を見た。
「え、なんで急に?」
「だって、どう過ごしたら、こんな気の利くことができるようになるんだろうって」
「俺の幼少期か……」
鉄朗はため息を吐き、遠くの景色に目を向ける。
「あまり、楽しい話じゃないけど……」
私は息を飲んだ。
その楽しくない話が、私との過去だったらどうしよう。
7年前の出来事を、彼はどのように覚えているのだろうか。
だけど、想像していた話ではなかった。
「俺、両親が離婚してるんだよね。なんとか顔色をうかがいながら仲を取り持とうとしたけど、ダメだった。子は鎹(かすがい)って言うけど、俺は鎹にはなれなかったんだ」
彼はそう言って、自嘲するように苦しそうに笑った。
「だからか、人より気遣いができるのかもな」
彼の言葉に、私は動揺を覚えた。
鉄朗が転校したのは、私を振った気まずさや逃げるためだと思っていた。
それがまさか、私生活で大変な思いをしていただなんて。
あの時の私は、自分のことでいっぱいいっぱいで気付かなかった。
もしかしたら、私の理解の及ばないところで、彼なりの考えがあったのではないのかさえ思えてくる。
私の混乱を見透かしたかのように、鉄朗は再び私の方へと顔を向けた。
「あ、でも、無差別に優しくしているワケじゃないよ?」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「このコーヒーだって、●●ちゃんだから用意したの」
その一言に、私の心臓がドクンと大きく跳ねた。
それが、特別扱いに対する喜びなのか、彼の過去の扉を開きかけた動揺から来たものか、判断できなかった。
どちらにせよ、早く何か返事をしなければ。
私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「もう!黒尾君、すぐそういうこと言うんだから」
私は、拗ねたふりをして頬を膨らませて見せた。
「いや、本当、本当。●●ちゃんに喜んでもらいたいの」
「まあ、でも、冗談でもありがとう。さて、休憩終わり!」
その日、鉄朗は最後まで私のレポートを手伝ってくれた。
この優しさは彼の本心なのだろうか。
疑いたいのに、彼のことがよく分からなくなってきた。
レポートが終わるまで粘ってると、気付けば夕暮れが迫っていた。
他に利用していた学生たちも、ひとり、またひとりとラウンジを後にする。
それでも、私のレポートは終わりそうにない。
何度読み返しても頭に入ってこない資料とにらめっこをしながら、思わず小さなうめき声が出る。
「う〜……」
その時、鉄朗がこちらへやってきた。
彼の両手には、2人分の缶コーヒーが握られている。
「どう、進んでる〜?」
「全く」
私は正直に答え、机に広げたレポートを指差した。
「なら、これでも飲んで休憩しなさいよ」
彼はそう言って、1つを私の手元にことりと音を立てて机に置いた。
「ありがとう」
私は素直に礼を述べた。
本当に気が利く男だ。
世の中の男性で、こんな自然な優しさを、見返りを求めずに差し出せる人が何人いるだろうか。
私はこの機会に、彼の気遣いの理由を探るため、質問をしてみることにした。
あわよくば、私との過去に繋がる糸口が分かるかもしれない。
私はコーヒーのプルタブをプシュと開け、一口飲んでから、彼に視線を向けた。
「ねえ、黒尾君ってさ、どんな幼少期だったの?」
鉄朗は少し驚いたように私を見た。
「え、なんで急に?」
「だって、どう過ごしたら、こんな気の利くことができるようになるんだろうって」
「俺の幼少期か……」
鉄朗はため息を吐き、遠くの景色に目を向ける。
「あまり、楽しい話じゃないけど……」
私は息を飲んだ。
その楽しくない話が、私との過去だったらどうしよう。
7年前の出来事を、彼はどのように覚えているのだろうか。
だけど、想像していた話ではなかった。
「俺、両親が離婚してるんだよね。なんとか顔色をうかがいながら仲を取り持とうとしたけど、ダメだった。子は鎹(かすがい)って言うけど、俺は鎹にはなれなかったんだ」
彼はそう言って、自嘲するように苦しそうに笑った。
「だからか、人より気遣いができるのかもな」
彼の言葉に、私は動揺を覚えた。
鉄朗が転校したのは、私を振った気まずさや逃げるためだと思っていた。
それがまさか、私生活で大変な思いをしていただなんて。
あの時の私は、自分のことでいっぱいいっぱいで気付かなかった。
もしかしたら、私の理解の及ばないところで、彼なりの考えがあったのではないのかさえ思えてくる。
私の混乱を見透かしたかのように、鉄朗は再び私の方へと顔を向けた。
「あ、でも、無差別に優しくしているワケじゃないよ?」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「このコーヒーだって、●●ちゃんだから用意したの」
その一言に、私の心臓がドクンと大きく跳ねた。
それが、特別扱いに対する喜びなのか、彼の過去の扉を開きかけた動揺から来たものか、判断できなかった。
どちらにせよ、早く何か返事をしなければ。
私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「もう!黒尾君、すぐそういうこと言うんだから」
私は、拗ねたふりをして頬を膨らませて見せた。
「いや、本当、本当。●●ちゃんに喜んでもらいたいの」
「まあ、でも、冗談でもありがとう。さて、休憩終わり!」
その日、鉄朗は最後まで私のレポートを手伝ってくれた。
この優しさは彼の本心なのだろうか。
疑いたいのに、彼のことがよく分からなくなってきた。
