最低最善の恋人
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あれから7年。
中学、高校と、私の人生はダイエットに捧げられた。
そして、平均的な体型を手に入れた。
これで、誰からもデブだと後ろ指さされることもない。
鏡に映る自分を、少しだけ好きになり始めた。
だけど、どれほど体型が変わっても、心の奥底にある、あの日の痛みと鉄朗への憎悪だけは、消えることはなかった。
そんな気持ちを抱えたまま、私は大学に入学した。
ーーーー
煩わしいサークルの勧誘が落ち着き始めた、5月の穏やかな昼下がり。
私は講義を終え、混雑する中央食堂へと向かっていた。
その時、異様な人集りができているのを見かけた。
集まっているのは、キラキラした女子学生ばかり。
新作スイーツのメニューでもできたのだろうか。
それとも、芸能人でも来ているのか。
そんなことを考えながら、人集りを避け、通り過ぎようとした、次の瞬間。
私の耳は、信じられない言葉を聞き取り、思わず動きを止めた。
「黒尾君、彼女いるの?」
「サークルは決めた?テニサーとかどう?」
「今度、私と遊びに行こうよー!」
……黒尾。
それは、この世で私が一番聞きたくない名字だった。
ただ、名字が同じなだけかもしれない。
確認のために、群衆の隙間から中心部にいる彼へと目を向けた。
すると、そこにいたのは、紛れもなく黒尾鉄朗だった。
背はさらに伸び、以前よりずっと大人びているけれど、くしゃりと笑う目元も、少し癖のある黒髪も、間違いなく彼だ。
あの頃よりも数段、魅力的になっている。
私の体は金縛りにあったように動けなくなった。
憎悪、驚き、そして微かな動揺が胸の中で渦巻く。
「グッ……」
吐き気まで襲ってきた。
胃の奥から、込み上げてくるものを必死に抑えながら、私は1秒でも早くその場から逃げようと、人集りの脇をすり抜けようとした。
その時、最悪の出来事が起こる。
焦るあまり、前にいた女子学生の鞄に肩が引っかかり、私はバランスを崩した。
「……っ!」
ピカピカに磨かれた床に、私は派手に転けた。
持っていたノートや筆記用具が、ガシャッと大きな音を立てて周囲に散らばる。
「ちょっと、邪魔なんだけど!」
ぶつかった相手は、苛立たしげな罵声を私に浴びせた。
その声と、散らばった物の音で、周囲の注目が一気に私に集まり、視線が突き刺さってくる。
やめて、見ないで。
もう、あの頃の太っていた私じゃないのに、急に人目が怖くなった。
視界が涙で滲みそうになるのを、必死で堪える。
塞ぎ込む私に、唯一手を差し伸ばしてくれたのは、意外にも鉄朗だった。
「キミ、大丈夫?」
彼は群衆を掻き分け、私の目の前に立っていた。
その顔は、心配と、少しの戸惑いを滲ませている。
嫌いな相手なのに。
復讐したい相手なのに。
今はただ、この地獄のような注目から逃れたい。
私は、藁にでも縋る思いで、その差し出された、あの頃よりもずっと大きな彼の手を取った。
「……助けて」
か細い私の声は、ほとんど息のようだった。
だけど、彼の耳には届いたらしい。
「了解」
鉄朗は、そう短く応えると、私の体を軽々と抱き上げた。
お姫様抱っこのように。
私の体は、彼の逞しい腕の中にすっぽりと収まり、彼の香水の匂いと、懐かしい石鹸の匂いが混ざったような香りが鼻腔をくすぐった。
「ちょっと、ごめんね〜。この子、体調悪いみたいだから。また後でね!」
鉄朗は、周囲のざわめきを一蹴するような明るい声をあげた。
そして、私を抱きかかえたまま、食堂の喧騒から迷うことなく歩き出した。
彼の胸に顔を埋めながら、私は思った。
私を捨てた男に助けられるなんて。
憎悪と、どうしようもない動揺が、私の心を掻き乱していた。
中学、高校と、私の人生はダイエットに捧げられた。
そして、平均的な体型を手に入れた。
これで、誰からもデブだと後ろ指さされることもない。
鏡に映る自分を、少しだけ好きになり始めた。
だけど、どれほど体型が変わっても、心の奥底にある、あの日の痛みと鉄朗への憎悪だけは、消えることはなかった。
そんな気持ちを抱えたまま、私は大学に入学した。
ーーーー
煩わしいサークルの勧誘が落ち着き始めた、5月の穏やかな昼下がり。
私は講義を終え、混雑する中央食堂へと向かっていた。
その時、異様な人集りができているのを見かけた。
集まっているのは、キラキラした女子学生ばかり。
新作スイーツのメニューでもできたのだろうか。
それとも、芸能人でも来ているのか。
そんなことを考えながら、人集りを避け、通り過ぎようとした、次の瞬間。
私の耳は、信じられない言葉を聞き取り、思わず動きを止めた。
「黒尾君、彼女いるの?」
「サークルは決めた?テニサーとかどう?」
「今度、私と遊びに行こうよー!」
……黒尾。
それは、この世で私が一番聞きたくない名字だった。
ただ、名字が同じなだけかもしれない。
確認のために、群衆の隙間から中心部にいる彼へと目を向けた。
すると、そこにいたのは、紛れもなく黒尾鉄朗だった。
背はさらに伸び、以前よりずっと大人びているけれど、くしゃりと笑う目元も、少し癖のある黒髪も、間違いなく彼だ。
あの頃よりも数段、魅力的になっている。
私の体は金縛りにあったように動けなくなった。
憎悪、驚き、そして微かな動揺が胸の中で渦巻く。
「グッ……」
吐き気まで襲ってきた。
胃の奥から、込み上げてくるものを必死に抑えながら、私は1秒でも早くその場から逃げようと、人集りの脇をすり抜けようとした。
その時、最悪の出来事が起こる。
焦るあまり、前にいた女子学生の鞄に肩が引っかかり、私はバランスを崩した。
「……っ!」
ピカピカに磨かれた床に、私は派手に転けた。
持っていたノートや筆記用具が、ガシャッと大きな音を立てて周囲に散らばる。
「ちょっと、邪魔なんだけど!」
ぶつかった相手は、苛立たしげな罵声を私に浴びせた。
その声と、散らばった物の音で、周囲の注目が一気に私に集まり、視線が突き刺さってくる。
やめて、見ないで。
もう、あの頃の太っていた私じゃないのに、急に人目が怖くなった。
視界が涙で滲みそうになるのを、必死で堪える。
塞ぎ込む私に、唯一手を差し伸ばしてくれたのは、意外にも鉄朗だった。
「キミ、大丈夫?」
彼は群衆を掻き分け、私の目の前に立っていた。
その顔は、心配と、少しの戸惑いを滲ませている。
嫌いな相手なのに。
復讐したい相手なのに。
今はただ、この地獄のような注目から逃れたい。
私は、藁にでも縋る思いで、その差し出された、あの頃よりもずっと大きな彼の手を取った。
「……助けて」
か細い私の声は、ほとんど息のようだった。
だけど、彼の耳には届いたらしい。
「了解」
鉄朗は、そう短く応えると、私の体を軽々と抱き上げた。
お姫様抱っこのように。
私の体は、彼の逞しい腕の中にすっぽりと収まり、彼の香水の匂いと、懐かしい石鹸の匂いが混ざったような香りが鼻腔をくすぐった。
「ちょっと、ごめんね〜。この子、体調悪いみたいだから。また後でね!」
鉄朗は、周囲のざわめきを一蹴するような明るい声をあげた。
そして、私を抱きかかえたまま、食堂の喧騒から迷うことなく歩き出した。
彼の胸に顔を埋めながら、私は思った。
私を捨てた男に助けられるなんて。
憎悪と、どうしようもない動揺が、私の心を掻き乱していた。
