最低最善の恋人
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〜最低最善の恋人〜
私の初恋、そして初失恋は、今思い出しても最悪だった。
小学校5年生のとき。
多感な時期の私たちは、恋というものに興味を示していた。
昼休みの教室。
友達と集まって、誰が誰に告白されただの、彼氏と手をつないだだの、初々しい恋の話に花を咲かせている。
そんな話を聞きながら、私もいつか、なんて夢を描く毎日。
だけど、私は控えめに言っても太っていた。
ふくよかな体型は、思春期の私にとって、劣等感の塊でしかなかった。
特に体育の授業は地獄だ。
バスケットボールやドッジボールのチーム決めでは、私はお荷物扱い。
誰がその厄介な足枷を引き受けるかで、チームリーダーたちの間に目に見えないギスギスした空気が漂う。
彼らは、ため息まじりにジャンケンをするのだ。
そんな中、いつも、躊躇なく私をチームに誘ってくれる男の子がいた。
小学5年生にしては背が高めで、いつも寝癖を付けていた、黒尾鉄朗君。
「●●ちゃん、俺のチームに来なよ!」
彼はそう言って、私の手を引いてくれる。
その日の体育も、例に漏れず私は選ばれず余っていた。
俯いて、体育館の天井に挟まっているボールの数を数えていると、不意に名前を呼ばれた。
「おーい、●●ちゃん。ぼーっとしてないで、練習始めるよ!」
顔を上げると、鉄朗君はニッと口角を上げ、まるで当然のことのように私に手を差し伸べてくれていた。
私よりも少しだけ大きくて、しっかりとしていて、私は女の子だったんだ、と思い出させてくれる手。
私は、恐る恐るその大きな手に自分の手を重ねた。
「ほら、行くぞ!」
彼はそう言って、遠慮なく私の手を引いてくれた。
その引っ張られる勢いで、私は少し前のめりになった。
一度だけ、どうしても聞きたくて、彼に尋ねたことがある。
体育の授業が終わり、裏庭の蛇口で手を洗っているときだった。
他の生徒は我先にと使い、さっさと教室へと戻り、私と鉄朗君だけが残されていた。
「ねえ、鉄朗君。どうして、いつも私をチームに誘ってくれるの?……私、鈍臭くて、みんなの足を引っ張るだけなのに……」
私の声は今にも消えそうなくらい、小さかった。
自分で言っていて惨めで情けなくなる。
すると、彼は蛇口の水を止め、濡れた手をブルッと一振りして、振り返った。
「そんなの、決まってんだろ」
彼は、私に向かって一歩踏み出す。
そして、さも当然のように、
「好きな子が困っていたら、助けたくなるだろ?」
と、恥ずかしげもなく言ってみせた。
「えっ……す、好きって……鉄朗君が、私を?!」
「あ、友達として、じゃなくて、ちゃんと女の子として好きって意味だからな!」
嬉しかった。
体型のせいで、私には恋なんて無理だと諦めていたから。
これがきっかけで、私は鉄朗君と付き合うことになった。
彼と過ごす日々は楽しくて、本当に幸せだった。
それが突然終わったのは、6年生に上る少し前のこと。
いつものように、一緒に学校から帰る途中で立ち寄った、誰もいない小さな公園。
私たちは、ベンチに並んで座り、他愛のないお喋りを楽しんでいた。
「6年生になっても同じクラスだといいね!」
だけど、鉄朗君はどこか上の空だった。
そうかと思えば、突然。
「あのさ、別れて」
鉄朗君は、何の感情も映さない瞳で私を見た。
「え……どうして?」
「お前、太ってるから」
耳を疑った。
頭を鈍器で殴られたような衝撃。
心臓が握り潰された感覚。
「そんな理由で……」
だって、一度も私の体型について触れてこなかったのに。
なんで急にそんなことを言うのか、理解できなかった。
彼は、ベンチから立ち上がり、私から一歩距離を取った。
その顔には、苛立ちのようなものが浮かんでいた。
「そんな理由じゃねぇよ。俺、本当はもっと細い子が好きなんだよ」
「……っ!」
彼の言葉はナイフのように、幼い私の心に深く突き刺さった。
立ち直れないほどの屈辱と悲しみ。
私は涙でぐしゃぐしゃになりながら、その場から逃げ出した。
その日以来、私は鉄朗君と会うことがなくなった。
正確には、彼は私を避けるように、転校していった。
これが、私の最低最悪な初恋の話。
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