付き合う理由は可哀想だから
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「何飲む?」
「ココア」
帰り道、肌寒くなり始めた空の下、自動販売機の前に立つ鉄朗が訊いてきた。
彼の指がボタンを押すと、ガチャンという音とともに缶が落ちてくる。
「ほら」
「ありがとう」
差し出された温かいココアを両手で包み込む。
手のひらがじんわりと温かくなり、冷え切った指先まで染み渡る。
それを持って、私たちはゆっくりと歩き始めた。
日が沈むのが早くなったせいか、いつもの帰り道がまるで違う場所に思える。
普段なら気にも留めないような景色が、今日はなぜかやけに心に響く。
「この道、街灯が灯ると綺麗なんだね。知らなかった」
街灯のぼんやりとした光が、アスファルトの道に影を落とす。
「冬になるとイルミネーションも凄いぞ」
「彼女と行ったの?」
「残念、部活のやつらと帰り道に通ったんですー」
鉄朗の少しふざけた声が、静かな夜に響く。
モテる鉄朗のことだから、きっと彼女と行くのが当たり前だと思っていた。
その意外な答えに、思わず笑みがこぼれる。
「ちょっと意外」
「今年は俺と見に行くか?」
「行くなら彼氏とだし」
「俺と行くって言ってるようなもんじゃん」
「冗談やめてよ」
鉄朗の自信満々な態度に、呆れたような、でも少しだけドキッとしたような気持ちになった。
「本気なんだけどな」
そう言って笑う横顔は、街灯の光に照らされて、いつもより少しだけ格好良く見えた。
だけど、その笑いが、また冗談っぽく聞こえてしまうのが、なんと彼もらしい。
「少し遠回りしないか」
鉄朗の提案で、私たちは河川敷に沿って歩くことになった。
川面には街の光が映り込み、キラキラと揺れている。
ザアザアと静かに流れる川の音が、心を穏やかにしてくれた。
でも、しばらく歩いていると、すっかり冷え込んだ空気に体が震えた。
ココアの温もりはもう消えてしまい、ポケットに手を突っ込んでも、寒さだけが募る。
「なんだ、寒いのか?」
「ちょっとね」
「今なら黒尾さんの右手、空いてるよ」
ポケットから出した右手でひらひらと手を振る鉄朗。
その仕草に、またしても心臓が跳ねた。
「生憎、彼氏以外の人と繋ぐための手はないんでね」
「友達とは繋ぐだろ」
「確かに?」
「それなら、お手をどうぞ」
まんまと鉄朗の誘導に乗せられた気がして、少しだけ照れくさくなった。
差し出された彼の手に、遠慮がちにそっと自分の手を重ねる。
「違う」
「ちょっ……!」
鉄朗の手が、私の手を握り直す。
ただの握手のように重ねた手とは違い、指一本一本が絡み合うような繋ぎ方。
友達とはこんな繋ぎ方をしない。
でも、その大きな手はとても温かかった。
繋いだところ以外は相変わらず寒かったけど、心はなんだか温かくなった気がした。
他愛ない話をしながら歩くだけの、なんてことない帰り道。
なのに、どうしようもない幸福感が胸を満たしていく。
“彼氏より幸せにする自信ある”
鉄朗の言った通りになってしまったみたいで、少しだけ悔しかった。
結局、家の前まで手を離してはくれなかった。
「ココア」
帰り道、肌寒くなり始めた空の下、自動販売機の前に立つ鉄朗が訊いてきた。
彼の指がボタンを押すと、ガチャンという音とともに缶が落ちてくる。
「ほら」
「ありがとう」
差し出された温かいココアを両手で包み込む。
手のひらがじんわりと温かくなり、冷え切った指先まで染み渡る。
それを持って、私たちはゆっくりと歩き始めた。
日が沈むのが早くなったせいか、いつもの帰り道がまるで違う場所に思える。
普段なら気にも留めないような景色が、今日はなぜかやけに心に響く。
「この道、街灯が灯ると綺麗なんだね。知らなかった」
街灯のぼんやりとした光が、アスファルトの道に影を落とす。
「冬になるとイルミネーションも凄いぞ」
「彼女と行ったの?」
「残念、部活のやつらと帰り道に通ったんですー」
鉄朗の少しふざけた声が、静かな夜に響く。
モテる鉄朗のことだから、きっと彼女と行くのが当たり前だと思っていた。
その意外な答えに、思わず笑みがこぼれる。
「ちょっと意外」
「今年は俺と見に行くか?」
「行くなら彼氏とだし」
「俺と行くって言ってるようなもんじゃん」
「冗談やめてよ」
鉄朗の自信満々な態度に、呆れたような、でも少しだけドキッとしたような気持ちになった。
「本気なんだけどな」
そう言って笑う横顔は、街灯の光に照らされて、いつもより少しだけ格好良く見えた。
だけど、その笑いが、また冗談っぽく聞こえてしまうのが、なんと彼もらしい。
「少し遠回りしないか」
鉄朗の提案で、私たちは河川敷に沿って歩くことになった。
川面には街の光が映り込み、キラキラと揺れている。
ザアザアと静かに流れる川の音が、心を穏やかにしてくれた。
でも、しばらく歩いていると、すっかり冷え込んだ空気に体が震えた。
ココアの温もりはもう消えてしまい、ポケットに手を突っ込んでも、寒さだけが募る。
「なんだ、寒いのか?」
「ちょっとね」
「今なら黒尾さんの右手、空いてるよ」
ポケットから出した右手でひらひらと手を振る鉄朗。
その仕草に、またしても心臓が跳ねた。
「生憎、彼氏以外の人と繋ぐための手はないんでね」
「友達とは繋ぐだろ」
「確かに?」
「それなら、お手をどうぞ」
まんまと鉄朗の誘導に乗せられた気がして、少しだけ照れくさくなった。
差し出された彼の手に、遠慮がちにそっと自分の手を重ねる。
「違う」
「ちょっ……!」
鉄朗の手が、私の手を握り直す。
ただの握手のように重ねた手とは違い、指一本一本が絡み合うような繋ぎ方。
友達とはこんな繋ぎ方をしない。
でも、その大きな手はとても温かかった。
繋いだところ以外は相変わらず寒かったけど、心はなんだか温かくなった気がした。
他愛ない話をしながら歩くだけの、なんてことない帰り道。
なのに、どうしようもない幸福感が胸を満たしていく。
“彼氏より幸せにする自信ある”
鉄朗の言った通りになってしまったみたいで、少しだけ悔しかった。
結局、家の前まで手を離してはくれなかった。
