迷子の迷子の小悪魔ちゃん
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雨の日の出来事から、数日が過ぎた。
今日の空は一点の曇りもない快晴。
それなのに、私は不釣り合いなビニール傘を手に持って登校していた。
放課後、その足でミコト君に会いに行くために。
正直、どこでも買える安っぽい傘だ。
返さなくても彼は気にしないだろうし、むしろ返されても荷物になるだけかもしれない。
だけど、今の私には、これくらいしか彼に会うための口実が見当たらなかったから。
昇降口の傘立てに、場違いな透明の傘を立てかけると、背後から能天気な声が響いた。
「●●、おっはよー!……あれ、今日って雨降る予報だっけ?」
「おはよう、リン。これは……その、ちょっと色々あって」
「ふーん?意味深ねぇ……」
人間と付き合うと言い出したリンに、あんなに冷たい態度を取った私が、まさか他種族の、それも神様に惹かれているなんて。
知られたら、何を言われるか分かったものじゃない。
私は、ニヤニヤとした彼女の視線から逃げるように、足早に教室へと向かった。
……。
…………。
帰りのホームルームが終わると同時に、私は誰よりも早く教室を飛び出した。
手にはあのビニール傘。
高鳴る鼓動を抑えながら、慣れた足取りで目的地へと向かう。
ゲートを抜け、人間界の廃屋へ忍び込む。
そして、百鬼学園へと繋がるはずの扉の前に立った。
「確か、この扉だったはず……」
意を決してノブを回す。
だけど、扉の先に広がっていたのは、赤色の美しい校舎ではなく、埃の積まった殺風景な空き部屋だった。
「あれ、間違えちゃった。じゃあ、こっちかな……」
隣の扉を開けても、その隣を開けても、目的地には繋がらない。
冷たい汗が背中を伝う。
傘を握る指先に、ギュッと力が入った。
「……嘘。また、迷っちゃったの……?」
静まり返った空間に、自分の心細い声だけが響く。
「ミコト君……」
消え入りそうな声でその名を呼んだ、その時だった。
「……おい。お前、いい加減にしろよ」
背後から呆れたような、けれどひどく安堵した声がした。
勢いよく振り返ると、そこには壁にもたれ掛かる、金髪の彼がいた。
「あ、ミコト君!えへへ、傘返しに来たら、また迷っちゃった……」
「メンテナンス中の扉の周りを不審なヤツがウロウロしてるって聞いて、来てみれば……。本当にお前は、いつもいつも」
「いつもって……まだ2回目でしょ。そんなに呆れなくてもいいじゃない」
少しだけ唇を尖らせて抗議すると、彼は鼻で笑って、ぼそりと呟いた。
「違う。……3回だ」
「え……?」
思考が止まる。
私が佐野命の前で迷子になったのは、リンの彼氏に会いに行った日と、今日を含めて2回のはず。
じゃあ、あとの1回は……。
「……あっ、もしかして魔界に連れて行った時?あれは迷子って言うか、雨のせいで逸れただけって言うか……」
「……何言ってんだ。高天原で泣きべそかいてた時のことだよ」
そう言って、彼はガシガシと自分の頭を掻き回した。
金髪に染めた髪が、夕日に透けて見える。
不器用そうに差し出されたその手は、あの日、高天原で迷った私を救ってくれた、あの温かな手と同じだった。
「あの時の迷子、●●だったんだな」
「……思い出してくれたんだ、スサノオノミコト君」
「……その名前で呼ぶな。今は佐野命だ」
不機嫌そうな顔のまま、彼は私の手を包み込むように握った。
「……送る。また迷子になられたら後味が悪い」
ぶっきらぼうに歩き出す、彼の広い背中。
あの日よりずっと逞しくなったその姿を見つめながら、私は込み上げる嬉しさを抑えきれなかった。
「待ってよ、ミコト君! 」
「……うるせぇ。さっさと歩け」
耳の端を真っ赤にした彼の隣で、私は想いが溢れ出すのを感じていた。
ーーFinーー
今日の空は一点の曇りもない快晴。
それなのに、私は不釣り合いなビニール傘を手に持って登校していた。
放課後、その足でミコト君に会いに行くために。
正直、どこでも買える安っぽい傘だ。
返さなくても彼は気にしないだろうし、むしろ返されても荷物になるだけかもしれない。
だけど、今の私には、これくらいしか彼に会うための口実が見当たらなかったから。
昇降口の傘立てに、場違いな透明の傘を立てかけると、背後から能天気な声が響いた。
「●●、おっはよー!……あれ、今日って雨降る予報だっけ?」
「おはよう、リン。これは……その、ちょっと色々あって」
「ふーん?意味深ねぇ……」
人間と付き合うと言い出したリンに、あんなに冷たい態度を取った私が、まさか他種族の、それも神様に惹かれているなんて。
知られたら、何を言われるか分かったものじゃない。
私は、ニヤニヤとした彼女の視線から逃げるように、足早に教室へと向かった。
……。
…………。
帰りのホームルームが終わると同時に、私は誰よりも早く教室を飛び出した。
手にはあのビニール傘。
高鳴る鼓動を抑えながら、慣れた足取りで目的地へと向かう。
ゲートを抜け、人間界の廃屋へ忍び込む。
そして、百鬼学園へと繋がるはずの扉の前に立った。
「確か、この扉だったはず……」
意を決してノブを回す。
だけど、扉の先に広がっていたのは、赤色の美しい校舎ではなく、埃の積まった殺風景な空き部屋だった。
「あれ、間違えちゃった。じゃあ、こっちかな……」
隣の扉を開けても、その隣を開けても、目的地には繋がらない。
冷たい汗が背中を伝う。
傘を握る指先に、ギュッと力が入った。
「……嘘。また、迷っちゃったの……?」
静まり返った空間に、自分の心細い声だけが響く。
「ミコト君……」
消え入りそうな声でその名を呼んだ、その時だった。
「……おい。お前、いい加減にしろよ」
背後から呆れたような、けれどひどく安堵した声がした。
勢いよく振り返ると、そこには壁にもたれ掛かる、金髪の彼がいた。
「あ、ミコト君!えへへ、傘返しに来たら、また迷っちゃった……」
「メンテナンス中の扉の周りを不審なヤツがウロウロしてるって聞いて、来てみれば……。本当にお前は、いつもいつも」
「いつもって……まだ2回目でしょ。そんなに呆れなくてもいいじゃない」
少しだけ唇を尖らせて抗議すると、彼は鼻で笑って、ぼそりと呟いた。
「違う。……3回だ」
「え……?」
思考が止まる。
私が佐野命の前で迷子になったのは、リンの彼氏に会いに行った日と、今日を含めて2回のはず。
じゃあ、あとの1回は……。
「……あっ、もしかして魔界に連れて行った時?あれは迷子って言うか、雨のせいで逸れただけって言うか……」
「……何言ってんだ。高天原で泣きべそかいてた時のことだよ」
そう言って、彼はガシガシと自分の頭を掻き回した。
金髪に染めた髪が、夕日に透けて見える。
不器用そうに差し出されたその手は、あの日、高天原で迷った私を救ってくれた、あの温かな手と同じだった。
「あの時の迷子、●●だったんだな」
「……思い出してくれたんだ、スサノオノミコト君」
「……その名前で呼ぶな。今は佐野命だ」
不機嫌そうな顔のまま、彼は私の手を包み込むように握った。
「……送る。また迷子になられたら後味が悪い」
ぶっきらぼうに歩き出す、彼の広い背中。
あの日よりずっと逞しくなったその姿を見つめながら、私は込み上げる嬉しさを抑えきれなかった。
「待ってよ、ミコト君! 」
「……うるせぇ。さっさと歩け」
耳の端を真っ赤にした彼の隣で、私は想いが溢れ出すのを感じていた。
ーーFinーー
