迷子の迷子の小悪魔ちゃん
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〜迷子の迷子の小悪魔ちゃん〜
「ねえ●●、聞いてよ!私、彼氏ができたの!」
デーモン学園の休み時間。
友達のリンが嬉しそうに話しかけてきた。
サキュバスである彼女にとって、その魅惑の身体があれば、男の1人や2人を手玉に取ることくらい造作もないことだ。
それなのに、今日の彼女の熱量は、普段と明らかに違っていた。
「なんとね……彼、人間なの!」
「……えっ?!」
私は思わず、手にしていた教科書を床に落とした。
他種族の相手を好きになるだなんて。
彼女にとって人間は、ただの精気を吸い取る餌に過ぎない、そう思っていたのに。
「どうしたの急に。何か人間に弱みでも握られた?」
「違うわよ。正真正銘、純愛よ」
「へ、へぇ……」
「やっぱり他種族と付き合うのって、特別感があるじゃない?これがもう、たまらないのよ」
リンは頬を染めてうっとりと語る。
「●●は?他種族の友達とかいないの?」
「私は……私にだって……」
喉元まで出かかった言葉を、私は飲み込んだ。
脳裏に浮かぶのは、遥か昔の記憶。
それは、幼少時代に迷子になったときのこと。
……。
…………。
あの日、両親とのピクニック中に蝶を追いかけた私は、境界を越えてしまった。
「お母さん!お父さん!どこー!」
叫んでも返るのは木霊だけ。
霧が深い山中を無我夢中で走り抜け、ふと視界が開けた瞬間、私は息を呑んだ。
そこは、見たこともないほど清浄な世界だった。
空は青く、川のせせらぎは心地よい音を立てている。
風に乗って運ばれてくるのは、土と稲穂の香り。
ここ、どこ……。
魔界の森じゃない……。
心細さに押し潰され、私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた、その時。
「こんなところでどうしたの?」
背後から声をかけられ、私はビクリと肩を揺らした。
振り返ると、そこには自分と同じくらいの背丈の男の子が立っていた。
漆黒の黒髪に、吸い込まれそうなほど澄んだ青い瞳。
悪魔ではない。
もっと高貴な存在。
だけど、この際相手の種族なんてなんでも良かった。
私は震える声で事情を話した。
「お、お母さんとお父さんと来てたんだけど、迷子になっちゃって……」
男の子は私を茶化すこともなく、ただ穏やかに微笑んだ。
「それは、大変だったね。キミ、名前は?僕はスサノオノミコト」
「ミコト……君?私は●●……」
「●●ちゃん、僕が両親のところまで案内してあげるよ」
「いいの!?……あ、でも……」
“私、悪魔だよ”
そう言うより先に、彼が手を差し伸べてきた。
「帰りたいんでしょ?急ごう」
掴んだその手は、悪魔の私と変わらず、温かかった。
「こっちだよ。ほら、足元に気をつけて」
彼に手を引かれ、霧のかかる山を歩いた。
その道中、彼は私の不安を紛らわすために、たくさん話をしてくれた。
年の離れた兄がいることから、最近食べたご飯のことまで。
やがて、彼は山の尾根を指差した。
「あそこを越えれば、帰れるよ」
「本当だ、ここ見覚えがある!……ミコト君、ありが……あれ?」
お礼を伝えようと振り返った瞬間、そこにはもう、風に揺れる草花があるだけだった。
まるで、最初から誰もいなかったかのように。
その後は、無事に両親と再会できた。
後から両親に聞いたところ、どうやら私は神様の住む、高天原というところへ迷い込んでしまったらしい。
……。
…………。
あの子との思い出は、私だけのもの。
リンには知られたくない。
「……別に。私の交友関係なんて、何でも良いでしょ」
私はわざと素っ気なく答えて、彼女から視線をそらした。
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