強くて優しい鬼
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いつの間にか、私の夜間警備には彩りが加わっていた。
静まり返った廊下、冷たい空気。
それらは以前と変わらないはずなのに、今の私には、角を隠して俯いていた頃のような窮屈さはない。
時折、居残りをしている安倍先生が私を見つけると、子供のように無邪気に手を振ってくれるようになったからだ。
「やあ、●●ちゃん!今日も精が出るね!」
「……先生。今日はまた、何をしてるんですか?」
教職員室の前で、スマホを片手にソワソワしている彼を見つけ、私はあえて呆れたような声を出す。
「今日はなんと、深夜限定の通信販売で、超レアな新作セーラー服が発売されるんだよ!それで、1人だと販売時刻までに寝落ちしちゃうかもしれないから、●●ちゃんと一緒に待機していようと思ってね!」
へらりと笑うその顔は、出会ったあの夜と変わらず情けない。
だけど、不思議と安心する。
「先生、私、仕事中なんですよ?他の教室も回らないといけなので、1人で待機してください」
「薄情者!」
「なんとでも言ってください」
冷たく突き放したつもりだったけれど、背後から付いてくる彼を、拒む気にはなれなかった。
コツコツという私の靴音に、安倍先生のパタパタという落ち着かない足音が重なる。
その間、聞いてもいないお気に入りのセーラー服のデザインについて熱弁してきたり、クラスの生徒たちの破天荒なエピソードを披露してくれた。
最初は適当に聞き流していたけれど、彼の話はどれも面白くて、いつの間にか私も会話に参加していた。
「それで、その生徒さんはどうなったんですか?」
「おっ、気になっちゃう?なんと、なんと────」
一族以外の、しかも人間とこんな風に親しくなるなんて、以前の私なら想像すらできなかった光景だ。
「……あ、そういえば安倍先生」
「ん、なあに?」
「話に夢中になるのはいいですけど、例の限定セーラー服、買えたんですか?そろそろ販売時間ですよね」
私の言葉に、安倍先生は「あ」と短い声を漏らして硬直した。
「あ、ああああっ……!忘れてた!待って、今すぐポチるから……ログイン、ログイン……って、えええええっ!?完売御礼!?そんなー!!」
夜の廊下に、絶望に打ちひしがれた男の悲鳴が響き渡る。
「何してるんですか、まったく……。あんなに張り切っていたのに」
「ううっ、●●ちゃんと話すのが楽しすぎて……。僕のセーラー服がぁ……」
泣き真似をしながら項垂れる安倍先生に、私は呆れを通り越して、小さく吹き出してしまった。
「ふふ……。本当にアナタって人は」
「でも、サイトを見たら近々再販するみたいだから!その時はまた、警備に付き合わせてもらうからね!よろしくね!」
「……お断りしますよ」
口ではそう言いながら、私はこっそりと口角を上げた。
「……まあ、でも。気が向いたら、また話くらいは聞いてあげます」
次がある……。
その約束が、今の私には何よりも嬉しかった。
静まり返った廊下、冷たい空気。
それらは以前と変わらないはずなのに、今の私には、角を隠して俯いていた頃のような窮屈さはない。
時折、居残りをしている安倍先生が私を見つけると、子供のように無邪気に手を振ってくれるようになったからだ。
「やあ、●●ちゃん!今日も精が出るね!」
「……先生。今日はまた、何をしてるんですか?」
教職員室の前で、スマホを片手にソワソワしている彼を見つけ、私はあえて呆れたような声を出す。
「今日はなんと、深夜限定の通信販売で、超レアな新作セーラー服が発売されるんだよ!それで、1人だと販売時刻までに寝落ちしちゃうかもしれないから、●●ちゃんと一緒に待機していようと思ってね!」
へらりと笑うその顔は、出会ったあの夜と変わらず情けない。
だけど、不思議と安心する。
「先生、私、仕事中なんですよ?他の教室も回らないといけなので、1人で待機してください」
「薄情者!」
「なんとでも言ってください」
冷たく突き放したつもりだったけれど、背後から付いてくる彼を、拒む気にはなれなかった。
コツコツという私の靴音に、安倍先生のパタパタという落ち着かない足音が重なる。
その間、聞いてもいないお気に入りのセーラー服のデザインについて熱弁してきたり、クラスの生徒たちの破天荒なエピソードを披露してくれた。
最初は適当に聞き流していたけれど、彼の話はどれも面白くて、いつの間にか私も会話に参加していた。
「それで、その生徒さんはどうなったんですか?」
「おっ、気になっちゃう?なんと、なんと────」
一族以外の、しかも人間とこんな風に親しくなるなんて、以前の私なら想像すらできなかった光景だ。
「……あ、そういえば安倍先生」
「ん、なあに?」
「話に夢中になるのはいいですけど、例の限定セーラー服、買えたんですか?そろそろ販売時間ですよね」
私の言葉に、安倍先生は「あ」と短い声を漏らして硬直した。
「あ、ああああっ……!忘れてた!待って、今すぐポチるから……ログイン、ログイン……って、えええええっ!?完売御礼!?そんなー!!」
夜の廊下に、絶望に打ちひしがれた男の悲鳴が響き渡る。
「何してるんですか、まったく……。あんなに張り切っていたのに」
「ううっ、●●ちゃんと話すのが楽しすぎて……。僕のセーラー服がぁ……」
泣き真似をしながら項垂れる安倍先生に、私は呆れを通り越して、小さく吹き出してしまった。
「ふふ……。本当にアナタって人は」
「でも、サイトを見たら近々再販するみたいだから!その時はまた、警備に付き合わせてもらうからね!よろしくね!」
「……お断りしますよ」
口ではそう言いながら、私はこっそりと口角を上げた。
「……まあ、でも。気が向いたら、また話くらいは聞いてあげます」
次がある……。
その約束が、今の私には何よりも嬉しかった。
