透明なアナタだから
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ーーおまけ(山崎side)ーー
ここ最近、◯◯さんがわざわざ遠回りをして交番の前を通ってくれるようになった。
僕にとって、彼女との何気ないやり取りは、騒がしい妖怪の街での職務を忘れさせてくれる、かけがえのない癒やしの時間になっていた。
そんなある日のことだ。
いつものように他愛のない会話の締めくくりに、僕は彼女の体調を案じて声をかけた。
「熱中症には気を付けてくださいね」
すると、彼女はいたずらっぽく瞳を輝かせ、突拍子もないことを言い出した。
「山崎さん、今の言葉をもう1度、ゆっくり言ってください!」
「え? よく分からないけど……」
理由を問い質そうかとも思ったが、彼女の期待に満ちた視線に負けた。
拒否する理由も特になく、僕は言われるがまま、ゆっくりと繰り返した。
「ねえ ちゅう しよう には きをつけて くださいね」
……これでいいのだろうか。
僕の頭の上にははてなマークが浮かんでいたが、彼女は「はい!」と満面の笑みで返事をして、軽やかな足取りで去っていった。
どうやら正解だったようだが、どうにも腑に落ちない。
数日後。
僕はその出来事を、幼馴染のたかはし明君に打ち明けた。
場所は半年に1度、同窓会を兼ねて集まる、同級生が経営している古びた喫茶店だ。
「──と言うことがあってな。これがどう言う意味か分かるか?」
僕は至って真面目に相談した。
だが、返ってきたのは笑い声だった。
「あははははっ!お腹痛い!」
明君はカウンターを叩き、涙を流しながら椅子の上で転げ回っている。
「……誠君、本当に分からないの?」
「分からないから、こうして相談しているんだが」
ムッとする僕の様子を見て、明君は肩をすくめ、涙を指で拭った。
「鈍い誠君には、特別に教えてあげるよ」
そう言って、彼はニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、僕の耳元に顔を寄せた。
「熱中症をゆっくり言うとね。キスをせがんでいるように聞こえるんだよ。彼女は、君にそれを言わせたかったんだ」
「キ、キ、キス……!?!?」
「あっははは!最高のリアクション!」
僕の反応を見て、明君はまたもや盛大に笑い声を上げた。
彼の言うことが本当なら、僕は警察官としての職務中に、市民である◯◯さんに対して、とんでもないことをしてしまった。
包帯の下の顔が火傷をした時の炎よりも熱くなっていくのが分かる。
彼女はどういうつもりであんなことを言わせたのだろう。
単に僕をからかって楽しんでいたのか、それとも……。
いや、まさかな。
これ以上、憶測で話を進めるのはよくない。
そう自分に言い聞かせようとしたが、動揺は収まらない。
結局その日は、明君が語る昔話も、コーヒーの味も、何1つとして頭に入ってこなかった。
ここ最近、◯◯さんがわざわざ遠回りをして交番の前を通ってくれるようになった。
僕にとって、彼女との何気ないやり取りは、騒がしい妖怪の街での職務を忘れさせてくれる、かけがえのない癒やしの時間になっていた。
そんなある日のことだ。
いつものように他愛のない会話の締めくくりに、僕は彼女の体調を案じて声をかけた。
「熱中症には気を付けてくださいね」
すると、彼女はいたずらっぽく瞳を輝かせ、突拍子もないことを言い出した。
「山崎さん、今の言葉をもう1度、ゆっくり言ってください!」
「え? よく分からないけど……」
理由を問い質そうかとも思ったが、彼女の期待に満ちた視線に負けた。
拒否する理由も特になく、僕は言われるがまま、ゆっくりと繰り返した。
「ねえ ちゅう しよう には きをつけて くださいね」
……これでいいのだろうか。
僕の頭の上にははてなマークが浮かんでいたが、彼女は「はい!」と満面の笑みで返事をして、軽やかな足取りで去っていった。
どうやら正解だったようだが、どうにも腑に落ちない。
数日後。
僕はその出来事を、幼馴染のたかはし明君に打ち明けた。
場所は半年に1度、同窓会を兼ねて集まる、同級生が経営している古びた喫茶店だ。
「──と言うことがあってな。これがどう言う意味か分かるか?」
僕は至って真面目に相談した。
だが、返ってきたのは笑い声だった。
「あははははっ!お腹痛い!」
明君はカウンターを叩き、涙を流しながら椅子の上で転げ回っている。
「……誠君、本当に分からないの?」
「分からないから、こうして相談しているんだが」
ムッとする僕の様子を見て、明君は肩をすくめ、涙を指で拭った。
「鈍い誠君には、特別に教えてあげるよ」
そう言って、彼はニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、僕の耳元に顔を寄せた。
「熱中症をゆっくり言うとね。キスをせがんでいるように聞こえるんだよ。彼女は、君にそれを言わせたかったんだ」
「キ、キ、キス……!?!?」
「あっははは!最高のリアクション!」
僕の反応を見て、明君はまたもや盛大に笑い声を上げた。
彼の言うことが本当なら、僕は警察官としての職務中に、市民である◯◯さんに対して、とんでもないことをしてしまった。
包帯の下の顔が火傷をした時の炎よりも熱くなっていくのが分かる。
彼女はどういうつもりであんなことを言わせたのだろう。
単に僕をからかって楽しんでいたのか、それとも……。
いや、まさかな。
これ以上、憶測で話を進めるのはよくない。
そう自分に言い聞かせようとしたが、動揺は収まらない。
結局その日は、明君が語る昔話も、コーヒーの味も、何1つとして頭に入ってこなかった。
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