河童だって人魚の隣を歩きたい
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ギラギラと照りつける太陽が、容赦なく肌を焼き付ける。
夏休み。
待ちに待ったはずの海は、想像以上の暑さに倒れそうだ。
私は、新調したミントグリーンの水着の上に薄手のラッシュガードを羽織り、更衣室から出た。
「もー!せっかくの可愛い水着が隠れてもったいないじゃない!」
案の定、隣で着替えを終えたサチコから鋭いツッコミが飛ぶ。
彼女のイエローの水着は、ギラつく太陽の下で、より一層輝いて見えた。
「い、いいの……!これくらいが落ち着くから……」
結局、あのショッピングモールでレジへ行く直前、恥ずかしさが押し寄せて、慌ててラッシュガードも購入してしまったのだ。
理由はそれだけではない。
河童である私の肌は、乾燥に弱い。
この日差しの下では、下着も同然の水着だけでは心許なかった。
ただ、せめてもの抵抗で、前のファスナーは開けており、隙間からミントグリーンの水着が覗くようにしている。
「あ、芭蕉さんに、◯◯さん!水着、似合ってんじゃん」
不意に届いた涼やかな声に心臓が跳ねる。
振り返ると、波打ち際に立つ前田君の姿があった。
普段は制服に隠されているその上半身は露わになり、白く透き通るような肌に、割れた腹筋が顔を見せる。
「ま、前田君……」
「2人とも、今日は楽しもうな!」
屈託のない、眩しすぎる笑顔。
直視できずに視線を泳がせた私は、咄嗟に話題を逸らした。
「そ、そう言えば、泥田君は?ナンパするって張り切ってたみたいだけど……」
「ああ、泥田ならあっち」
前田君が苦笑しながら指差した先。
そこには、パラソルの日陰にうずくまり、波が来るたびに真っ青な顔で後退りする泥田君の姿があった。
「濡れる……溶ける……泥に戻る……」
呪文のように愚痴をこぼす彼は、ナンパどころか生存の危機に瀕しているように見える。
「あらら、情けない。あんなに息巻いてたのにね」
サチコが呆れたように鼻で笑う。
「……じゃあ、アイツ使い物にならねぇし、俺は適当に泳いでくる」
前田君は軽く手を振ると、迷いのない足取りで海へと飛び込んだ。
腰まで浸かった瞬間、彼はまさに水を得た魚……文字通り人魚なんだけど、生き生きと泳ぎ出した。
彼は一度も振り返ることなく、深い青の中へと吸い込まれていった。
「……水着、似合うって言ってもらえてよかったね」
サチコが、前田君の泳いでいった方角を見つめたまま、ポツリと呟いた。
「……うん」
私は、嬉しさを噛み締めるように、ギュッと自分の手に力を込めた。
「よしっ!それじゃあ、私たちも泳ぎに行きますか!」
「あ、その前にあそこ行ってもいい?」
私はサチコの腕を引いて、レンタルショップへ向かった。
「ねえ、●●って河童なのに、浮き輪なんて要るの?泳ぎは得意でしょ」
浮き輪を手に取る私を見て、サチコが不思議そうに首を傾げる。
「……川と海は、全然違うの」
私は力なく笑って答えた。
川の中でこそ力を発揮する河童にとって、この塩分濃度の高い海は天敵に近い。
肌はピリピリと痛み、何よりこの強烈な直射日光が、髪の下に隠したくぼみの水分を、容赦なく奪い去っていくのだ。
意識すればするほど、頭のてっぺんが熱を持っていくのが分かる。
前田君が悠々と泳ぐあの青い世界は、私にとって、あまりにも遠くて苦い場所だった。
夏休み。
待ちに待ったはずの海は、想像以上の暑さに倒れそうだ。
私は、新調したミントグリーンの水着の上に薄手のラッシュガードを羽織り、更衣室から出た。
「もー!せっかくの可愛い水着が隠れてもったいないじゃない!」
案の定、隣で着替えを終えたサチコから鋭いツッコミが飛ぶ。
彼女のイエローの水着は、ギラつく太陽の下で、より一層輝いて見えた。
「い、いいの……!これくらいが落ち着くから……」
結局、あのショッピングモールでレジへ行く直前、恥ずかしさが押し寄せて、慌ててラッシュガードも購入してしまったのだ。
理由はそれだけではない。
河童である私の肌は、乾燥に弱い。
この日差しの下では、下着も同然の水着だけでは心許なかった。
ただ、せめてもの抵抗で、前のファスナーは開けており、隙間からミントグリーンの水着が覗くようにしている。
「あ、芭蕉さんに、◯◯さん!水着、似合ってんじゃん」
不意に届いた涼やかな声に心臓が跳ねる。
振り返ると、波打ち際に立つ前田君の姿があった。
普段は制服に隠されているその上半身は露わになり、白く透き通るような肌に、割れた腹筋が顔を見せる。
「ま、前田君……」
「2人とも、今日は楽しもうな!」
屈託のない、眩しすぎる笑顔。
直視できずに視線を泳がせた私は、咄嗟に話題を逸らした。
「そ、そう言えば、泥田君は?ナンパするって張り切ってたみたいだけど……」
「ああ、泥田ならあっち」
前田君が苦笑しながら指差した先。
そこには、パラソルの日陰にうずくまり、波が来るたびに真っ青な顔で後退りする泥田君の姿があった。
「濡れる……溶ける……泥に戻る……」
呪文のように愚痴をこぼす彼は、ナンパどころか生存の危機に瀕しているように見える。
「あらら、情けない。あんなに息巻いてたのにね」
サチコが呆れたように鼻で笑う。
「……じゃあ、アイツ使い物にならねぇし、俺は適当に泳いでくる」
前田君は軽く手を振ると、迷いのない足取りで海へと飛び込んだ。
腰まで浸かった瞬間、彼はまさに水を得た魚……文字通り人魚なんだけど、生き生きと泳ぎ出した。
彼は一度も振り返ることなく、深い青の中へと吸い込まれていった。
「……水着、似合うって言ってもらえてよかったね」
サチコが、前田君の泳いでいった方角を見つめたまま、ポツリと呟いた。
「……うん」
私は、嬉しさを噛み締めるように、ギュッと自分の手に力を込めた。
「よしっ!それじゃあ、私たちも泳ぎに行きますか!」
「あ、その前にあそこ行ってもいい?」
私はサチコの腕を引いて、レンタルショップへ向かった。
「ねえ、●●って河童なのに、浮き輪なんて要るの?泳ぎは得意でしょ」
浮き輪を手に取る私を見て、サチコが不思議そうに首を傾げる。
「……川と海は、全然違うの」
私は力なく笑って答えた。
川の中でこそ力を発揮する河童にとって、この塩分濃度の高い海は天敵に近い。
肌はピリピリと痛み、何よりこの強烈な直射日光が、髪の下に隠したくぼみの水分を、容赦なく奪い去っていくのだ。
意識すればするほど、頭のてっぺんが熱を持っていくのが分かる。
前田君が悠々と泳ぐあの青い世界は、私にとって、あまりにも遠くて苦い場所だった。
