河童だって人魚の隣を歩きたい
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〜河童だって人魚の隣を歩きたい〜
夏休み前の浮き足立った校舎。
廊下の曲がり角で、想い人の声が聞こえて足を止めた。
「なあ、前田!ナンパの下見がてら、海行こうぜ!」
「おっ、いいな!そう言えば、あそこの海、みさきがいるって聞いたことがあるけど……」
「みさき?誰だか知らねぇけど、前田がそこまで言うなら会ってみてぇな!」
泥田坊の泥田君と、人魚の前田君が楽しそうに笑い合っている。
心臓がキリリと痛んだ。
ナンパという言葉だけでも、胸の奥をナイフで抉られたような痛みが走るのに。
その上、彼がわざわざ名前を出すほど執着している女性がいるなんて。
みさき……。
前田君が名前を覚えているくらいなんだから、きっとすごく可愛い子に違いない。
私は自分の頭にそっと触れた。
『河童』の象徴である皿は私にはない。
その代わりに、水を蓄えるためのくぼみがある。
普段は髪の毛で目立たないけれど、こうして触れてみると、一目瞭然だ。
そんな地味な河童の私が、あんなにキラキラとした人魚の前田君の隣になんて並べるワケがない。
会ったこともないみさきさんへのどうしようもない嫉妬で、視界が少し滲んだ。
「●●、ぼーっとしてどうしたの? 」
背後から飛んできた声に、ビクッと肩を揺らした。
慌てて手の甲で目元を拭い、芭蕉サチコへと振り向く。
「サ、サチコ……!えっ、えっと……なんか、前田君と泥田君が海に行くみたいで。いいなーって、思って……」
ナンパのことは伏せつつ、声が震えないよう、精一杯の作り笑いを浮かべて言葉を濁す。
だけど、サチコは私の赤い目元をじっと見つめ、全てを見透かしたように口角を不敵に上げた。
「ふーん、なるほどね。……私に任せて!」
「えっ、ちょっと、サチコ!?」
止める間もなかった。
彼女は迷いのない足取りで、前田君たちの輪の中に割って入った。
「ねえ、そこの2人組!海行くんでしょ?私たちも混ぜなさいよ!」
泥田君が、あからさまに嫌そうな顔をして顔をしかめる。
「げっ、芭蕉。ナンパに女連れていけるかよ、ムードぶち壊しだろ」
「やっぱりナンパ目的だったんだ。最低」
サチコがわざとらしく冷たい視線を送ると、泥田君はバツが悪そうに視線を泳がせた。
「何か文句でもあんのかよ!」
「何言ってるのよ、女子がいた方が警戒されないでしょ?ね、前田もそう思うよね?」
強引に話を振られた前田君は、少し困ったように頬を掻いた。
「まあ、俺はどっちでもいいけど。来たいなら来れば?」
「ほら、前田はこう言ってるわよ!」
「チッ……前田は泳げればなんでもいいんだろ!」
泥田君のツッコミに、前田君は、
「そんなことない」
と、ケラケラ笑った。
その笑顔を見るだけで、胸の奥が熱くなる。
サチコはニヤリと笑って、壁際に立ち尽くしている私の方へ振り返った。
「決まりね。じゃあ、日程が決まったら教えなさいよ」
波乱の予感しかしない夏休みが、すぐそこまで迫っていた。
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