純白の清掃員
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〜純白の清掃員〜
百鬼学園の放課後。
水の張ったバケツには業務用の洗剤、手には使い古したモップ。
私は誰もいなくなった廊下で、1人清掃をしていた。
私の正体は妖怪『垢舐め』。
そして、この学園の清掃員である。
古き伝承によれば、垢舐めは「風呂場の垢を舐めとる不気味な姿」として描かれ、人々に忌み嫌われてきた。
だけど、現実は違う。
私は自分の能力を掃除に使ったことなど一度もない。
舌を伸ばして汚れを舐め取るなんて、想像しただけで吐き気がする。
それどころか、自らの髪の毛1本すら現場に落とさないよう、髪を完全に覆い隠すキャップを深く被っている。
着用しているのは、純白の証である汚れ1つない白のツナギ。
極めつけにマスク。
長い舌を出さなければ、人間と変わらない見た目になる。
それなのに、私の正体を知る生徒たちにとって、そんな気遣いは意味を持たない。
背後から、騒がしい足音と笑い声が近付いてくる。
数人の男子生徒たちが、部活動に向かうのか、談笑しながらこちらへ歩いてきた。
私は反射的に身を強張らせ、彼らの進路を邪魔しないように、廊下の端へと寄る。
「うわ、出たよ。清掃員 」
先頭を歩いていた大柄な生徒が、私の姿を見つけた瞬間に足を止めた。
その顔には、隠そうともしない嫌悪感が露骨に浮かんでいる。
「……こんにちは。今、清掃中ですので、足元にお気をつけください」
私は努めて冷静に、けれど顔は上げずに会釈をした。
深く被ったキャップの隙間から見えるのは、彼らの汚れた上靴だ。
「近寄んなよ、汚れるだろ」
「アイツが通った後、なんかベタベタしてそうだよな」
クスクスという卑劣な笑い声が、狭い廊下に反響する。
1人がわざとらしく鼻をつまみ、私の横を通り過ぎる際に大袈裟に距離を取った。
「なんかこの辺、臭くね?垢の臭いが移るわ」
「掃除すんなら、まず自分の種族から変えねぇとな。ま、できるならの話だけど」
ドサッという鈍い音。
1人の生徒が、飲みかけのペットボトルを、わざと私が今磨き終えたばかりの床に落とした。
中から甘ったるい炭酸飲料が溢れ出す。
「あ……」
「おっと、手が滑ったわ。床、ベタベタになっちゃったな」
彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、私を見下ろした。
「元々ベタついてるだろ」
「それもそうか。てことで、ここ掃除し直しておけよ。仕事なんだからさ」
彼らは肩を揺らしながら、高笑いと共に去っていった。
遠ざかっていく足音、鼻をつく甘い液体の匂い。
磨き上げたばかりの床には、茶色いシミが広がっていた。
「……また、言われちゃったな」
誰もいなくなった廊下で、ポツリと呟く。
私は震える手で雑巾を固く絞り、膝をついた。
そして、溢れた液体を何度も何度も拭い取る。
本当は誰よりも校内をピカピカに磨き上げているのに、種族のイメージだけで不潔だと決めつけられる。
視界が少しだけ滲んで、せっかくの清潔なツナギに涙の跡が落ちそうになった。
〜純白の清掃員〜
百鬼学園の放課後。
水の張ったバケツには業務用の洗剤、手には使い古したモップ。
私は誰もいなくなった廊下で、1人清掃をしていた。
私の正体は妖怪『垢舐め』。
そして、この学園の清掃員である。
古き伝承によれば、垢舐めは「風呂場の垢を舐めとる不気味な姿」として描かれ、人々に忌み嫌われてきた。
だけど、現実は違う。
私は自分の能力を掃除に使ったことなど一度もない。
舌を伸ばして汚れを舐め取るなんて、想像しただけで吐き気がする。
それどころか、自らの髪の毛1本すら現場に落とさないよう、髪を完全に覆い隠すキャップを深く被っている。
着用しているのは、純白の証である汚れ1つない白のツナギ。
極めつけにマスク。
長い舌を出さなければ、人間と変わらない見た目になる。
それなのに、私の正体を知る生徒たちにとって、そんな気遣いは意味を持たない。
背後から、騒がしい足音と笑い声が近付いてくる。
数人の男子生徒たちが、部活動に向かうのか、談笑しながらこちらへ歩いてきた。
私は反射的に身を強張らせ、彼らの進路を邪魔しないように、廊下の端へと寄る。
「うわ、出たよ。
先頭を歩いていた大柄な生徒が、私の姿を見つけた瞬間に足を止めた。
その顔には、隠そうともしない嫌悪感が露骨に浮かんでいる。
「……こんにちは。今、清掃中ですので、足元にお気をつけください」
私は努めて冷静に、けれど顔は上げずに会釈をした。
深く被ったキャップの隙間から見えるのは、彼らの汚れた上靴だ。
「近寄んなよ、汚れるだろ」
「アイツが通った後、なんかベタベタしてそうだよな」
クスクスという卑劣な笑い声が、狭い廊下に反響する。
1人がわざとらしく鼻をつまみ、私の横を通り過ぎる際に大袈裟に距離を取った。
「なんかこの辺、臭くね?垢の臭いが移るわ」
「掃除すんなら、まず自分の種族から変えねぇとな。ま、できるならの話だけど」
ドサッという鈍い音。
1人の生徒が、飲みかけのペットボトルを、わざと私が今磨き終えたばかりの床に落とした。
中から甘ったるい炭酸飲料が溢れ出す。
「あ……」
「おっと、手が滑ったわ。床、ベタベタになっちゃったな」
彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、私を見下ろした。
「元々ベタついてるだろ」
「それもそうか。てことで、ここ掃除し直しておけよ。仕事なんだからさ」
彼らは肩を揺らしながら、高笑いと共に去っていった。
遠ざかっていく足音、鼻をつく甘い液体の匂い。
磨き上げたばかりの床には、茶色いシミが広がっていた。
「……また、言われちゃったな」
誰もいなくなった廊下で、ポツリと呟く。
私は震える手で雑巾を固く絞り、膝をついた。
そして、溢れた液体を何度も何度も拭い取る。
本当は誰よりも校内をピカピカに磨き上げているのに、種族のイメージだけで不潔だと決めつけられる。
視界が少しだけ滲んで、せっかくの清潔なツナギに涙の跡が落ちそうになった。
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