透明なアナタだから
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朝、いつもより早い時間に家を出た。
時計の針は、勤務開始時間よりもずっと前を指している。
それは、やり残した仕事をするためではない。
そう、山崎さんに想いを伝えるため。
「山崎さん!」
交番の前には、既に彼が立っていた。
「やあ、今日は早いですね、◯◯さん」
山崎さんは、いつもみたいに穏やかに挨拶を返してくれた。
そんな彼を見て、私は覚悟を固めた。
「あの……今日は山崎さんに、伝えたいことがあって……」
「ん?」
包帯に隠された顔が、僅かに私に傾けられる。
私は大きく息を吸い込み、真っ直ぐな声で思いを伝えた。
「山崎さん。私、アナタのことが好きです!」
「……」
山崎さんは一瞬動きを止め、それから何かを考えるような素振りをしたかと思えば、直ぐに全てを理解したかのように、包帯の下から低い声を出した。
「あー……はいはい」
その拍子抜けするような返事に、私は戸惑いを覚えた。
「誰に化けて欲しいの? アイドル?それとも俳優?」
「えっ……?」
山崎さんは「最近の流行りは何だったかな」と、ブツブツと独り言を言いながら、スマホを操作し始めた。
彼の言葉の意味が、理解できない。
告白したばかりなのに、どうしてそんな話になるのだろうか。
彼は私の方を向き、淡々と続けた。
「だって、僕に化けて欲しいから告白したんじゃないの?」
「……っ!」
私の必死の覚悟が、まるっきり伝わっていない。
いや、それどころか、屈折した形で解釈されている。
なんで?
なんでそんな悲しい考えになるの?
なんで私の純粋な告白だと思ってくれないの?
なんで、なんで……。
私の胸の中で、抑えつけていた感情が一気に溢れ出した。
「……っ……ひっく……」
気が付けば、私の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「え、◯◯さん?!大丈夫ですか?!」
さすがはお巡りさんと言ったところか。
絵に描いたように動揺し、慌てふためいている。
「泣かないでください」
そんなこと言われても、1度溢れた涙は勝手に流れてくる。
私にはどうしようもできなかった。
そんな私を見兼ねてか、山崎さんの指が、そっと私の頬に触れた。
「……」
涙を拭おうとする包帯が、水分で湿っていく。
薄っすらと透けるものの、彼の肌の色までは透けない。
やっぱり、ドッペルゲンガーである彼の中身は透明なんだ。
だけど、私の涙を拭うために触れた指先。事故の時に私を抱きかかえてくれた腕。
病室でそっと頬に触れてくれた手。
その全ての温もりが、彼は確かにそこに存在することを証明してくれている。
私は、彼の指先にそっと自分の手を重ねた。
見た目なんか関係ない。
私はアナタと言う存在が好きなんだ。
「山崎さんが好きなんです……ひっく……。ドッペルゲンガーのお巡りさんであり、1人の妖怪である山崎さんが好きなんです」
「……」
山崎さんは何も言わない。
包帯の向こうの感情が全く読み取れない。
やっぱり、迷惑だったのかな……。
不安が最高潮に達したとき、彼はゆっくりと口を開いた。
「……僕は確かにドッペルゲンガーのお巡りさんだ。いつも冷静に、職務を全うするはずの存在だ」
彼の声は、少し震えていた。
「だけど、◯◯さんの前では、お巡りさんでいられないときがある」
「?」
今まで何回も助けてもらったことがある。それなのに、今更お巡りさんでいられないとは、どういう意味だろうか。
彼は自嘲気味に、乾いた笑いを漏らした。
「その……キミの前では冷静でいられないと言うか……。嫌だろ、こんなお巡りさん」
私は、彼のその言葉を聞いて、心が満たされるのを感じた。
彼は、私を市民としてではなく、1人の女性として見てくれていたのだ。
私は、彼の手にそっと力を込めた。
「……ぃょ」
「?」
「なってくださいよ。冷静じゃない山崎さんに。 だって、私はそんなアナタも含めて好きになったんだから!」
「◯◯さん……!」
彼の声が、感動に震えているのが分かった。
山崎さんの表情は相変わらず包帯の下で分からない。
だけど、今は間違いなく、優しく微笑んでくれている。
だって、私と同じ気持ちだって分かったから。
ーーFinーー
時計の針は、勤務開始時間よりもずっと前を指している。
それは、やり残した仕事をするためではない。
そう、山崎さんに想いを伝えるため。
「山崎さん!」
交番の前には、既に彼が立っていた。
「やあ、今日は早いですね、◯◯さん」
山崎さんは、いつもみたいに穏やかに挨拶を返してくれた。
そんな彼を見て、私は覚悟を固めた。
「あの……今日は山崎さんに、伝えたいことがあって……」
「ん?」
包帯に隠された顔が、僅かに私に傾けられる。
私は大きく息を吸い込み、真っ直ぐな声で思いを伝えた。
「山崎さん。私、アナタのことが好きです!」
「……」
山崎さんは一瞬動きを止め、それから何かを考えるような素振りをしたかと思えば、直ぐに全てを理解したかのように、包帯の下から低い声を出した。
「あー……はいはい」
その拍子抜けするような返事に、私は戸惑いを覚えた。
「誰に化けて欲しいの? アイドル?それとも俳優?」
「えっ……?」
山崎さんは「最近の流行りは何だったかな」と、ブツブツと独り言を言いながら、スマホを操作し始めた。
彼の言葉の意味が、理解できない。
告白したばかりなのに、どうしてそんな話になるのだろうか。
彼は私の方を向き、淡々と続けた。
「だって、僕に化けて欲しいから告白したんじゃないの?」
「……っ!」
私の必死の覚悟が、まるっきり伝わっていない。
いや、それどころか、屈折した形で解釈されている。
なんで?
なんでそんな悲しい考えになるの?
なんで私の純粋な告白だと思ってくれないの?
なんで、なんで……。
私の胸の中で、抑えつけていた感情が一気に溢れ出した。
「……っ……ひっく……」
気が付けば、私の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「え、◯◯さん?!大丈夫ですか?!」
さすがはお巡りさんと言ったところか。
絵に描いたように動揺し、慌てふためいている。
「泣かないでください」
そんなこと言われても、1度溢れた涙は勝手に流れてくる。
私にはどうしようもできなかった。
そんな私を見兼ねてか、山崎さんの指が、そっと私の頬に触れた。
「……」
涙を拭おうとする包帯が、水分で湿っていく。
薄っすらと透けるものの、彼の肌の色までは透けない。
やっぱり、ドッペルゲンガーである彼の中身は透明なんだ。
だけど、私の涙を拭うために触れた指先。事故の時に私を抱きかかえてくれた腕。
病室でそっと頬に触れてくれた手。
その全ての温もりが、彼は確かにそこに存在することを証明してくれている。
私は、彼の指先にそっと自分の手を重ねた。
見た目なんか関係ない。
私はアナタと言う存在が好きなんだ。
「山崎さんが好きなんです……ひっく……。ドッペルゲンガーのお巡りさんであり、1人の妖怪である山崎さんが好きなんです」
「……」
山崎さんは何も言わない。
包帯の向こうの感情が全く読み取れない。
やっぱり、迷惑だったのかな……。
不安が最高潮に達したとき、彼はゆっくりと口を開いた。
「……僕は確かにドッペルゲンガーのお巡りさんだ。いつも冷静に、職務を全うするはずの存在だ」
彼の声は、少し震えていた。
「だけど、◯◯さんの前では、お巡りさんでいられないときがある」
「?」
今まで何回も助けてもらったことがある。それなのに、今更お巡りさんでいられないとは、どういう意味だろうか。
彼は自嘲気味に、乾いた笑いを漏らした。
「その……キミの前では冷静でいられないと言うか……。嫌だろ、こんなお巡りさん」
私は、彼のその言葉を聞いて、心が満たされるのを感じた。
彼は、私を市民としてではなく、1人の女性として見てくれていたのだ。
私は、彼の手にそっと力を込めた。
「……ぃょ」
「?」
「なってくださいよ。冷静じゃない山崎さんに。 だって、私はそんなアナタも含めて好きになったんだから!」
「◯◯さん……!」
彼の声が、感動に震えているのが分かった。
山崎さんの表情は相変わらず包帯の下で分からない。
だけど、今は間違いなく、優しく微笑んでくれている。
だって、私と同じ気持ちだって分かったから。
ーーFinーー
