透明なアナタだから
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「今日は仕事長引いちゃったな〜」
いつもより遅い時間に会社を出た。
空には雲がかかり、星1つ見えない闇夜。
そのため、時間を惜しんで、普段は絶対に避けている近道を使うことにした。
何故避けるのかといえば、それはその道が人通りのない裏路地で、暗くて細い道が長く続いているからだ。
足早に路地を進む。
やっぱり、いつ通っても不気味な道だ。
恐怖を隠すように、無心で足を動かす。
あと少しで大通りに出られるというところで、背後から肩を叩かれた。
「!?」
人けなどなかったはずなのに、一体、誰が?
恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは、驚くべきことに、私と全く同じ顔をした人だった。
数ヶ月前の私なら、確実に悲鳴を上げてその場から逃げ出していた。
だけど、今の私は違う。
だって、その奇怪の能力は、他でもない、私の好きな人と同じだから。
私は冗談めかして笑ってみせた。
「もー、山崎さん!今朝も同じことをしてきたじゃないですか。さすがに1日に2回はくどいですよ?」
いつものように彼も笑って、すぐに元の包帯姿に戻ってくれるはずだ。
だけど、彼は笑わない。
それどころか、なんだか様子が違う。
今朝の山崎さんは、私に配慮して火傷の跡までは再現しなかった。
だけど、目の前の「私の顔」には、薄暗い夜道でもはっきりと分かるほど、くっきりと火傷の跡が再現されている。
「山崎さん……?」
不安が確信に変わり、私は再度、彼の名前を呼んだ。
すると、澄ました「私の顔」は、怖いほどににんまりと口角を上げた。
その笑みは、親愛など微塵も感じさせない、捕食者のそれだった。
「……っ!」
恐怖に喉が張り付き、声にならない呻きが漏れた。
無意識に1歩、また1歩と後退りすると、目の前の妖怪も、まるで私の恐怖を楽しむかのように、同じように距離を詰めてくる。
このままではいけない。
私は、意を決して正面を向き直し、一気に走り抜けることにした。
だけど、彼はそれを許さないとでも言うように、私の腕を掴み、そのまま背後の壁に強く押し付けた。
「痛……っ!」
腕がジンと痺れる。
そして、耳元で響いたのは、いつもの穏やかなトーンとはかけ離れた、乱暴な口調と低い声だった。
「逃すわけねぇだろ」
この目の前にいるのは、やはり山崎さんじゃない。
変身を解くが如く、彼の体から白い煙幕がシュウッと上がり、瞬く間に晴れると、そこには木の葉を頭に乗せた妖狐の姿があった。
鋭い目つきと、威圧的な体躯。
考えてみればそうだ。
変身能力は、ドッペルゲンガーである山崎さんの専売特許ではなかった。
「美味そうだな」
鋭い牙と爪を見せながら、妖狐は言った。
「やぁ……やめて!離して!」
震える声で言い返してみるけれど、その程度の抵抗で怯むような相手ではない。
妖狐の尾がゆらりと揺らめき、彼の顔が私の顔へと容赦なく近付いてくる。
食べられる……!
咄嗟に目を固く瞑った、その瞬間。
「そこまでだ!」
聞き慣れた、落ち着いた男性の声。
その声と同時に、鈍く乾いた拳が交わる音が響き、妖狐が悲鳴を上げながら壁から離れる気配がした。
恐る恐る目を開けると、殴り飛ばされて路地の奥でうずくまり、呻いている妖狐の姿があった。
そして、次に視線を、私を守るようにそばに立っていた人物に移す。
「山崎……さん?」
包帯の姿。
そして、あの時助けられた時と同じ、安心感を放つ空気。
本物だ。
本当に本当の、私の知っている山崎さんだ。
安堵から一気に体の力が抜けて、私はその場で地面にへたり込んだ。
山崎さんは私の目の高さに視線を合わせるようにしゃがみ込んでから、私の方へ包帯を巻いた手を伸ばし、優しく頭を撫でてくれた。
「よく耐えた。もう大丈夫だ」
その温かい手の感触に、私は涙が溢れるのを必死で堪えた。
ほどなくして、山崎さんが呼んだ応援によって、妖狐は一反木綿のパトカーによって連行されていった。
私はというと、心配だからと言う理由で、山崎さんに家まで送ってもらうことになった。
自宅のドアの前。
「今日は本当にありがとうございました」
私は心からの感謝を伝えた。
山崎さんはピシッと敬礼をしながら、お決まりのセリフを口にした。
「仕事なので、気にしないでください」
前にも同じことを言われたときは、何も思わなかったけれど、今は、「君はただの保護対象だ、勘違いするなよ」と一線を引かれたように感じた。
やっぱりこのままの関係は嫌だな……。
仕事だから。
守るべき市民だから。
その理由だけで、彼を遠い存在のままにしておくのは、もう耐えられない。
せめて、この気持ちが報われないにしても、この胸の熱を彼に伝えたい。
私は、ついに一世一代の決心をしたのだった。
いつもより遅い時間に会社を出た。
空には雲がかかり、星1つ見えない闇夜。
そのため、時間を惜しんで、普段は絶対に避けている近道を使うことにした。
何故避けるのかといえば、それはその道が人通りのない裏路地で、暗くて細い道が長く続いているからだ。
足早に路地を進む。
やっぱり、いつ通っても不気味な道だ。
恐怖を隠すように、無心で足を動かす。
あと少しで大通りに出られるというところで、背後から肩を叩かれた。
「!?」
人けなどなかったはずなのに、一体、誰が?
恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは、驚くべきことに、私と全く同じ顔をした人だった。
数ヶ月前の私なら、確実に悲鳴を上げてその場から逃げ出していた。
だけど、今の私は違う。
だって、その奇怪の能力は、他でもない、私の好きな人と同じだから。
私は冗談めかして笑ってみせた。
「もー、山崎さん!今朝も同じことをしてきたじゃないですか。さすがに1日に2回はくどいですよ?」
いつものように彼も笑って、すぐに元の包帯姿に戻ってくれるはずだ。
だけど、彼は笑わない。
それどころか、なんだか様子が違う。
今朝の山崎さんは、私に配慮して火傷の跡までは再現しなかった。
だけど、目の前の「私の顔」には、薄暗い夜道でもはっきりと分かるほど、くっきりと火傷の跡が再現されている。
「山崎さん……?」
不安が確信に変わり、私は再度、彼の名前を呼んだ。
すると、澄ました「私の顔」は、怖いほどににんまりと口角を上げた。
その笑みは、親愛など微塵も感じさせない、捕食者のそれだった。
「……っ!」
恐怖に喉が張り付き、声にならない呻きが漏れた。
無意識に1歩、また1歩と後退りすると、目の前の妖怪も、まるで私の恐怖を楽しむかのように、同じように距離を詰めてくる。
このままではいけない。
私は、意を決して正面を向き直し、一気に走り抜けることにした。
だけど、彼はそれを許さないとでも言うように、私の腕を掴み、そのまま背後の壁に強く押し付けた。
「痛……っ!」
腕がジンと痺れる。
そして、耳元で響いたのは、いつもの穏やかなトーンとはかけ離れた、乱暴な口調と低い声だった。
「逃すわけねぇだろ」
この目の前にいるのは、やはり山崎さんじゃない。
変身を解くが如く、彼の体から白い煙幕がシュウッと上がり、瞬く間に晴れると、そこには木の葉を頭に乗せた妖狐の姿があった。
鋭い目つきと、威圧的な体躯。
考えてみればそうだ。
変身能力は、ドッペルゲンガーである山崎さんの専売特許ではなかった。
「美味そうだな」
鋭い牙と爪を見せながら、妖狐は言った。
「やぁ……やめて!離して!」
震える声で言い返してみるけれど、その程度の抵抗で怯むような相手ではない。
妖狐の尾がゆらりと揺らめき、彼の顔が私の顔へと容赦なく近付いてくる。
食べられる……!
咄嗟に目を固く瞑った、その瞬間。
「そこまでだ!」
聞き慣れた、落ち着いた男性の声。
その声と同時に、鈍く乾いた拳が交わる音が響き、妖狐が悲鳴を上げながら壁から離れる気配がした。
恐る恐る目を開けると、殴り飛ばされて路地の奥でうずくまり、呻いている妖狐の姿があった。
そして、次に視線を、私を守るようにそばに立っていた人物に移す。
「山崎……さん?」
包帯の姿。
そして、あの時助けられた時と同じ、安心感を放つ空気。
本物だ。
本当に本当の、私の知っている山崎さんだ。
安堵から一気に体の力が抜けて、私はその場で地面にへたり込んだ。
山崎さんは私の目の高さに視線を合わせるようにしゃがみ込んでから、私の方へ包帯を巻いた手を伸ばし、優しく頭を撫でてくれた。
「よく耐えた。もう大丈夫だ」
その温かい手の感触に、私は涙が溢れるのを必死で堪えた。
ほどなくして、山崎さんが呼んだ応援によって、妖狐は一反木綿のパトカーによって連行されていった。
私はというと、心配だからと言う理由で、山崎さんに家まで送ってもらうことになった。
自宅のドアの前。
「今日は本当にありがとうございました」
私は心からの感謝を伝えた。
山崎さんはピシッと敬礼をしながら、お決まりのセリフを口にした。
「仕事なので、気にしないでください」
前にも同じことを言われたときは、何も思わなかったけれど、今は、「君はただの保護対象だ、勘違いするなよ」と一線を引かれたように感じた。
やっぱりこのままの関係は嫌だな……。
仕事だから。
守るべき市民だから。
その理由だけで、彼を遠い存在のままにしておくのは、もう耐えられない。
せめて、この気持ちが報われないにしても、この胸の熱を彼に伝えたい。
私は、ついに一世一代の決心をしたのだった。
