嘘つキ
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授業開始のチャイムはとうに鳴ったのに、教室にはざわめきが満ちていた。
私は教卓の前に立ち、精一杯の声を張り上げた。
「はーい、席に着いてください!授業始めますよー!」
だけど、私の言葉は教室のざわめきの中に吸い込まれていく。
生徒たちは、まるで私という存在が見えていないかのように、それぞれの会話を続けている。
それどころか、1人の生徒が手を挙げたかと思えば、私を困らせる質問をしてきた。
「はいはーい先生、質問!先生は鬼だから、やっぱり怪力なんですか?」
悪意のない、純粋な質問だからこそ、尚更困る。
人間の私に、鬼のことなんて分かるはずがない。
私は適当に答えることにした。
「鬼は鬼でも私は弱い……かな」
なんだか最近、誤魔化してばかりいる気がする。
すると、別の生徒がニヤニヤとしながら続けた。
「神酒先生みたいに?」
その名前に、私の心臓は小さく跳ねた。
神酒先生も、鬼なのに力が弱い種族なのか。
理由は分からないけれど、この際、乗っかることにした。
「まあ……、うん。そんなところ」
「へ〜、そうなんだ!」
「私の話はもういいから、いい加減授業始めますよ!」
これ以上墓穴を掘りたくない私は、手を叩き再度声を張り上げ、生徒たちの注目を集めた。
ようやく静かになった生徒たちに安堵し、今度こそ授業を始めた。
ーーーー
日が暮れ始め、明日の授業で使うプリントをファイルに入れて整理していると、背後から何者かの気配が近付いてきた。
神酒先生だ。
彼の影がそっと私の隣に並ぶ。
「明日の準備?」
「はい」
そうだ、ちょうどいい。
今日生徒たちが言っていた例のことを聞いてみよう。
「あの、神酒先生……。生徒から聞いたんですけど、先生も鬼なのに力が弱いらしいですね。なんでですか?」
問いかけると、神酒先生は何も答えずに、ただ静かに私を見つめる。
そして、ふっと口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「逆に◯◯さんはなんでなん?」
彼の問いかけに一瞬たじろぐ。
まさか聞き返されるとは思っていなかった。
咄嗟に言葉を探す。
取り敢えず、ここは統一性を持たせるために、生徒たちに答えたのと同じ答えでいいか。
「えっと……神酒先生と同じ理由ですよ」
自信がなく、自然と声が小さくなる。
これでよかったのだろうか。
神酒先生の様子をうかがうと、彼の口は弧を描いたままだったけれど、目が全く笑っていなかった。
その視線に息が詰まる。
「ほぅ、僕と同じ……ねぇ」
選択を間違えた。
私の直感が叫んでいる。
そう思った途端、持っていたファイルが手から滑り落ちた。
カタリと乾いた音を立てて、入っていたプリントが床に散らばる。
「あっ……!」
私は慌てて屈もうとする。
「あらあら、ドジやなぁ」
そう言って、神酒先生は私よりも先に屈み、一緒に拾ってくれた。
その中に、プリントとは違う、1枚の光沢のある紙が混じっていた。
「何やこれ」
神酒先生の低い声が、静かな職員室に響く。
血の気が引くのを感じた。
私は慌てて彼の指からその写真を奪い取った。
「な、何でもないです!」
私の声は、ひどく上ずっていた。
だけど、彼は何も聞かず、
「……気ぃ付けや」
それだけを言って、手の中のプリントを渡した。
そして、静かに職員室を出ていった。
彼の背中が遠ざかるにつれて、張り詰めていた空気が少しずつ和らぐ。
手の中に残ったのは、集められたプリントと、1枚の写真。
それは、10年前、無邪気に笑う私が写った写真だった。
「何でこんなものが……」
おそらく、数日前に家でファイルの中を整理していた時、何かの拍子に、紛れ込んだのだろう。
よりによってこの写真が……。
私は呆然と、その写真を見つめた。
私は教卓の前に立ち、精一杯の声を張り上げた。
「はーい、席に着いてください!授業始めますよー!」
だけど、私の言葉は教室のざわめきの中に吸い込まれていく。
生徒たちは、まるで私という存在が見えていないかのように、それぞれの会話を続けている。
それどころか、1人の生徒が手を挙げたかと思えば、私を困らせる質問をしてきた。
「はいはーい先生、質問!先生は鬼だから、やっぱり怪力なんですか?」
悪意のない、純粋な質問だからこそ、尚更困る。
人間の私に、鬼のことなんて分かるはずがない。
私は適当に答えることにした。
「鬼は鬼でも私は弱い……かな」
なんだか最近、誤魔化してばかりいる気がする。
すると、別の生徒がニヤニヤとしながら続けた。
「神酒先生みたいに?」
その名前に、私の心臓は小さく跳ねた。
神酒先生も、鬼なのに力が弱い種族なのか。
理由は分からないけれど、この際、乗っかることにした。
「まあ……、うん。そんなところ」
「へ〜、そうなんだ!」
「私の話はもういいから、いい加減授業始めますよ!」
これ以上墓穴を掘りたくない私は、手を叩き再度声を張り上げ、生徒たちの注目を集めた。
ようやく静かになった生徒たちに安堵し、今度こそ授業を始めた。
ーーーー
日が暮れ始め、明日の授業で使うプリントをファイルに入れて整理していると、背後から何者かの気配が近付いてきた。
神酒先生だ。
彼の影がそっと私の隣に並ぶ。
「明日の準備?」
「はい」
そうだ、ちょうどいい。
今日生徒たちが言っていた例のことを聞いてみよう。
「あの、神酒先生……。生徒から聞いたんですけど、先生も鬼なのに力が弱いらしいですね。なんでですか?」
問いかけると、神酒先生は何も答えずに、ただ静かに私を見つめる。
そして、ふっと口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「逆に◯◯さんはなんでなん?」
彼の問いかけに一瞬たじろぐ。
まさか聞き返されるとは思っていなかった。
咄嗟に言葉を探す。
取り敢えず、ここは統一性を持たせるために、生徒たちに答えたのと同じ答えでいいか。
「えっと……神酒先生と同じ理由ですよ」
自信がなく、自然と声が小さくなる。
これでよかったのだろうか。
神酒先生の様子をうかがうと、彼の口は弧を描いたままだったけれど、目が全く笑っていなかった。
その視線に息が詰まる。
「ほぅ、僕と同じ……ねぇ」
選択を間違えた。
私の直感が叫んでいる。
そう思った途端、持っていたファイルが手から滑り落ちた。
カタリと乾いた音を立てて、入っていたプリントが床に散らばる。
「あっ……!」
私は慌てて屈もうとする。
「あらあら、ドジやなぁ」
そう言って、神酒先生は私よりも先に屈み、一緒に拾ってくれた。
その中に、プリントとは違う、1枚の光沢のある紙が混じっていた。
「何やこれ」
神酒先生の低い声が、静かな職員室に響く。
血の気が引くのを感じた。
私は慌てて彼の指からその写真を奪い取った。
「な、何でもないです!」
私の声は、ひどく上ずっていた。
だけど、彼は何も聞かず、
「……気ぃ付けや」
それだけを言って、手の中のプリントを渡した。
そして、静かに職員室を出ていった。
彼の背中が遠ざかるにつれて、張り詰めていた空気が少しずつ和らぐ。
手の中に残ったのは、集められたプリントと、1枚の写真。
それは、10年前、無邪気に笑う私が写った写真だった。
「何でこんなものが……」
おそらく、数日前に家でファイルの中を整理していた時、何かの拍子に、紛れ込んだのだろう。
よりによってこの写真が……。
私は呆然と、その写真を見つめた。
