透明なアナタだから
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結局、その後退院するまで、例のお巡りさんが病室を訪れることはなかった。
だけど、それは当たり前のことだ。
最初から、彼は職務として事情聴取に来てくれただけなのだから。
そう頭では理解していても、心の奥には寂しさが残った。
「お世話になりました」
「お大事にね」
退院手続きを終え、私は、入院中お世話になった看護師さんやお医者さんに深く頭を下げ、病院を後にした。
火傷の跡は残ってしまったけれど、久しぶりに出た外なだけあって、清々しい気分だった。
家路に向かって歩き始めた途中。
ふと目に入った小さな交番を通り過ぎようとしたとき、聞き覚えのある、あの落ち着いた声に呼び止められた。
「やあ、退院できたんだね」
思わず足を止めて振り返る。
私が入院していたことを知っているその人物とは、彼しかいない。
「お巡りさん!」
まさか、ここの交番に勤務するお巡りさんだったとは。
案外近くにいたのに、私は全く気が付かなかった。
いや、もしかすると、何度かすれ違っていたのかもしれないけれど、意識していなかっただけだろう。
「その節は、本当にありがとうございました」
「仕事なので、どうか気にしないでください」
そう言って、彼はピシリと敬礼をする。
相変わらずの包帯ぐるぐる巻きお巡りさんからは、表情を読み取ることはできないけれど、その所作には誠実さが滲んでいた。
彼は一体、何の妖怪なのだろうか。
ミイラ男、それとも怪人トンカラトン?
こう言うのは、聞くのが手っ取り早い。
私は素直に尋ねた。
「あの、お巡りさんは、何の妖怪さんなんですか?」
彼はあっさりと答えた。
「僕は、ドッペルゲンガーのお巡りさんだよ」
「ドッペルゲンガー……?」
聞いたことはあるけれど、どうもしっくりこない。
そんな私を見越してか、彼はふっと包帯の下で笑った気配がした。
「例えばだけど」
そう言うと、彼の包帯がみるみるうちに体内に吸い込まれていく。
そして、次の瞬間、目の前のお巡りさんは、私の姿へと変身した。
「どうかな?」
姿形だけでなく、声までも私のものだ。
私は思わず興奮して声を上げた。
「わー!凄い!そっくりです!」
感動しながらも、ある一点で、私の興奮はピタリと止まった。
……あれ?
確かにそっくりだけれど、決定的に違う部分がある。
事故で負った火傷の跡。
薄くはなったとはいえ、まだ私の腕や頬には残っているその傷跡が、目の前に立つ私の顔には綺麗サッパリ、どこにもない。
怪我をする前の私だった。
もしかして、気を遣ってくれている……?
傷跡をあえて再現しなかった彼の配慮に、胸の奥がきゅん、と鳴った。
「……」
私が言葉を失っていると、彼は元の声に戻って言った。
「と、まあこんな感じだよ」
変身が解ける。
今度は身体の周りに無数の白い包帯がシュルシュルと飛び出し、瞬く間に元の包帯ぐるぐる巻きの姿へと戻った。
戻るや否や、彼の胸ポケットの無線機に連絡が入る。
どうやら、新たな事件、あるいは事故のようだ。
「失礼、行かないと」
お巡りさんは踵を返し、一反木綿のパトカーを呼び出した。
パタパタと近付いてきたそれに、彼は迷うことなく素早く乗り込む。
ああ、彼が行ってしまう……。
次にいつ会えるか分からない。
私の心は焦燥でいっぱいになり、咄嗟に大声を出した。
「アナタの名前を教えてください!」
一反木綿のパトカーが動き出しかけた瞬間、彼は私の方へ振り向きながら、静かに、そしてはっきりと告げた。
「山崎誠です」
それだけ言うと、彼は再び正面に向き直し、一反木綿のパトカーは白い布をなびかせながら、現場へと急いで行ってしまった。
「山崎……誠さん……」
誠実の“誠”。
まさに、お巡りさんになるべくしてつけられたような、そんな名前だ。
山崎さんが無事である事を祈りながら、彼の乗ったパトカーが、見えなくなるまで、私はずっと見送っていた。
だけど、それは当たり前のことだ。
最初から、彼は職務として事情聴取に来てくれただけなのだから。
そう頭では理解していても、心の奥には寂しさが残った。
「お世話になりました」
「お大事にね」
退院手続きを終え、私は、入院中お世話になった看護師さんやお医者さんに深く頭を下げ、病院を後にした。
火傷の跡は残ってしまったけれど、久しぶりに出た外なだけあって、清々しい気分だった。
家路に向かって歩き始めた途中。
ふと目に入った小さな交番を通り過ぎようとしたとき、聞き覚えのある、あの落ち着いた声に呼び止められた。
「やあ、退院できたんだね」
思わず足を止めて振り返る。
私が入院していたことを知っているその人物とは、彼しかいない。
「お巡りさん!」
まさか、ここの交番に勤務するお巡りさんだったとは。
案外近くにいたのに、私は全く気が付かなかった。
いや、もしかすると、何度かすれ違っていたのかもしれないけれど、意識していなかっただけだろう。
「その節は、本当にありがとうございました」
「仕事なので、どうか気にしないでください」
そう言って、彼はピシリと敬礼をする。
相変わらずの包帯ぐるぐる巻きお巡りさんからは、表情を読み取ることはできないけれど、その所作には誠実さが滲んでいた。
彼は一体、何の妖怪なのだろうか。
ミイラ男、それとも怪人トンカラトン?
こう言うのは、聞くのが手っ取り早い。
私は素直に尋ねた。
「あの、お巡りさんは、何の妖怪さんなんですか?」
彼はあっさりと答えた。
「僕は、ドッペルゲンガーのお巡りさんだよ」
「ドッペルゲンガー……?」
聞いたことはあるけれど、どうもしっくりこない。
そんな私を見越してか、彼はふっと包帯の下で笑った気配がした。
「例えばだけど」
そう言うと、彼の包帯がみるみるうちに体内に吸い込まれていく。
そして、次の瞬間、目の前のお巡りさんは、私の姿へと変身した。
「どうかな?」
姿形だけでなく、声までも私のものだ。
私は思わず興奮して声を上げた。
「わー!凄い!そっくりです!」
感動しながらも、ある一点で、私の興奮はピタリと止まった。
……あれ?
確かにそっくりだけれど、決定的に違う部分がある。
事故で負った火傷の跡。
薄くはなったとはいえ、まだ私の腕や頬には残っているその傷跡が、目の前に立つ私の顔には綺麗サッパリ、どこにもない。
怪我をする前の私だった。
もしかして、気を遣ってくれている……?
傷跡をあえて再現しなかった彼の配慮に、胸の奥がきゅん、と鳴った。
「……」
私が言葉を失っていると、彼は元の声に戻って言った。
「と、まあこんな感じだよ」
変身が解ける。
今度は身体の周りに無数の白い包帯がシュルシュルと飛び出し、瞬く間に元の包帯ぐるぐる巻きの姿へと戻った。
戻るや否や、彼の胸ポケットの無線機に連絡が入る。
どうやら、新たな事件、あるいは事故のようだ。
「失礼、行かないと」
お巡りさんは踵を返し、一反木綿のパトカーを呼び出した。
パタパタと近付いてきたそれに、彼は迷うことなく素早く乗り込む。
ああ、彼が行ってしまう……。
次にいつ会えるか分からない。
私の心は焦燥でいっぱいになり、咄嗟に大声を出した。
「アナタの名前を教えてください!」
一反木綿のパトカーが動き出しかけた瞬間、彼は私の方へ振り向きながら、静かに、そしてはっきりと告げた。
「山崎誠です」
それだけ言うと、彼は再び正面に向き直し、一反木綿のパトカーは白い布をなびかせながら、現場へと急いで行ってしまった。
「山崎……誠さん……」
誠実の“誠”。
まさに、お巡りさんになるべくしてつけられたような、そんな名前だ。
山崎さんが無事である事を祈りながら、彼の乗ったパトカーが、見えなくなるまで、私はずっと見送っていた。
