優しさの裏側
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ーーおまけ(及川side)ーー
●●ちゃんと三谷が別れる、前日のこと。
俺は岩ちゃんと部活に向かうため、5組の方へ歩いていた。
その途中、人混みを縫うようにして、俯きながら足早に去っていく●●ちゃんとすれ違った。
一瞬見えたその横顔は、今にも零れ落ちそうな涙を必死に堪えているようだった。
彼女がやって来た方向に目を向ければ、そこには三谷のクラスしかない。
胸の中に、得体の知れない嫌な予感が広がる。
吸い寄せられるように教室の入り口から中を覗き込めば、そこにはスマホを耳に当てる三谷の姿があった。
「●●は良くて下の上って感じだし、可愛い子、期待してるよ。……おう、おう、うん……いいね!」
漏れ聞こえる低俗な会話。
そのやり取りで、全てを悟った。
正直に言えば、三谷にいい噂なんて1つもなかった。
相談されたあの時、本当のことをぶちまけてしまおうかと喉元まで出かかった。
だけど、誰だって好きな人を貶されるのはいい気がしない。
それが付き合いたてなら尚更。
だから、俺はあえて言葉を飲み込んだんだ。
ただ、こんな結末になるくらいなら、嫌われてでも最初から突きつけてやればよかった。
「……様子を見てみたら、なんて。俺も大概、偽善者だよね」
自嘲気味に呟き、肩にかけたスポーツバッグのストラップを強く握りしめる。
俺は躊躇なく、その薄汚い笑い声がする教室へと足を踏み入れた。
ご機嫌な様子で椅子にふんぞり返る三谷の目の前まで歩み寄り、音もなくその手からスマホを奪い取る。
「ちょっ……!おい、何しやがる及川!」
慌てて立ち上がり、必死に手を伸ばす三谷。
だけど、俺のリーチに届くはずもなく、彼はただ滑稽に、不格好にピョンピョンと跳ねるだけだ。
その姿が、余計に反吐が出るほど醜く見えた。
「三谷君。随分と楽しそうな話だね」
努めて冷静、かつ冷ややかに問いかける。
「んなことより返せよ!どういうつもりだよ、おい!」
「どういうつもり、か……」
俺は無造作に通話終了ボタンを押し、ゴミでも扱うような手つきで彼にスマホを突き返した。
「はあ?意味分かんねぇんだけど」
「意味が分からないのはこっちのセリフだよ。可愛い彼女がいながら、他の女の子を紹介してもらうつもり?……随分と、お盛んだね」
三谷は顔を真っ赤にし、精一杯の虚勢を張って吠え返してきた。
「そんなこと……関係ねぇだろ!お前だって、どうせ女取っ替え引っ替えしてんだろ?ファンクラブだか何だか知らねぇけど、何人の女食ってんだよ。……お前みたいなヤツに言われたくねぇ!」
「……少なくとも、三谷君よりはマシかな」
「は?」
「俺は、女の子にランクなんて付けないし、ましてや自分のことを信じてる子を、裏で貶すような趣味もないから」
一歩、音を立てて詰め寄る。
三谷は蛇に睨まれた蛙のように息を呑み、思わず後ずさって椅子の脚をガタつかせた。
「そんなに遊びたいならさ、今すぐ●●ちゃんと別れてあげなよ。……彼女は、キミみたいな程度の低いヤツと並んでいい子じゃないんだよね」
「なっ……ふざけんな、お前にそんなこと言われる筋合いっ──」
「筋合いなんてないよ。でも、俺は性格悪いからね」
俺は三谷を見下ろし、口角だけを吊り上げて笑ってみせる。
だけど、その瞳の奥は笑っていなかった。
「……もう二度と、彼女の視界に入らないで。次、その汚い口で彼女の名前を呼んだら……俺、何するか分からないよ?」
「……ッチ」
三谷は舌打ちを残し、逃げるように教室から出ていった。
「……さて」
数人残っていたクラスの連中が、呆然とこちらを見ている。
俺は人差し指を口に当て、いつものキラキラ笑顔を作って見せた。
「今のやり取り、忘れてね。……約束だよ?」
彼女たちがコクコクと無言で首を縦に振るのを確認して、俺は教室を後にした。
これで、残すは●●ちゃんのケアだ。
スマホを取り出すと、既に部活が始まっている時間だった。
これは岩ちゃんに怒られるヤツだ。
だけど、今は何よりも、1人で泣いているはずの彼女が優先。
俺は彼女に少しでも寄り添うメッセージを送った。
●●ちゃんと三谷が別れる、前日のこと。
俺は岩ちゃんと部活に向かうため、5組の方へ歩いていた。
その途中、人混みを縫うようにして、俯きながら足早に去っていく●●ちゃんとすれ違った。
一瞬見えたその横顔は、今にも零れ落ちそうな涙を必死に堪えているようだった。
彼女がやって来た方向に目を向ければ、そこには三谷のクラスしかない。
胸の中に、得体の知れない嫌な予感が広がる。
吸い寄せられるように教室の入り口から中を覗き込めば、そこにはスマホを耳に当てる三谷の姿があった。
「●●は良くて下の上って感じだし、可愛い子、期待してるよ。……おう、おう、うん……いいね!」
漏れ聞こえる低俗な会話。
そのやり取りで、全てを悟った。
正直に言えば、三谷にいい噂なんて1つもなかった。
相談されたあの時、本当のことをぶちまけてしまおうかと喉元まで出かかった。
だけど、誰だって好きな人を貶されるのはいい気がしない。
それが付き合いたてなら尚更。
だから、俺はあえて言葉を飲み込んだんだ。
ただ、こんな結末になるくらいなら、嫌われてでも最初から突きつけてやればよかった。
「……様子を見てみたら、なんて。俺も大概、偽善者だよね」
自嘲気味に呟き、肩にかけたスポーツバッグのストラップを強く握りしめる。
俺は躊躇なく、その薄汚い笑い声がする教室へと足を踏み入れた。
ご機嫌な様子で椅子にふんぞり返る三谷の目の前まで歩み寄り、音もなくその手からスマホを奪い取る。
「ちょっ……!おい、何しやがる及川!」
慌てて立ち上がり、必死に手を伸ばす三谷。
だけど、俺のリーチに届くはずもなく、彼はただ滑稽に、不格好にピョンピョンと跳ねるだけだ。
その姿が、余計に反吐が出るほど醜く見えた。
「三谷君。随分と楽しそうな話だね」
努めて冷静、かつ冷ややかに問いかける。
「んなことより返せよ!どういうつもりだよ、おい!」
「どういうつもり、か……」
俺は無造作に通話終了ボタンを押し、ゴミでも扱うような手つきで彼にスマホを突き返した。
「はあ?意味分かんねぇんだけど」
「意味が分からないのはこっちのセリフだよ。可愛い彼女がいながら、他の女の子を紹介してもらうつもり?……随分と、お盛んだね」
三谷は顔を真っ赤にし、精一杯の虚勢を張って吠え返してきた。
「そんなこと……関係ねぇだろ!お前だって、どうせ女取っ替え引っ替えしてんだろ?ファンクラブだか何だか知らねぇけど、何人の女食ってんだよ。……お前みたいなヤツに言われたくねぇ!」
「……少なくとも、三谷君よりはマシかな」
「は?」
「俺は、女の子にランクなんて付けないし、ましてや自分のことを信じてる子を、裏で貶すような趣味もないから」
一歩、音を立てて詰め寄る。
三谷は蛇に睨まれた蛙のように息を呑み、思わず後ずさって椅子の脚をガタつかせた。
「そんなに遊びたいならさ、今すぐ●●ちゃんと別れてあげなよ。……彼女は、キミみたいな程度の低いヤツと並んでいい子じゃないんだよね」
「なっ……ふざけんな、お前にそんなこと言われる筋合いっ──」
「筋合いなんてないよ。でも、俺は性格悪いからね」
俺は三谷を見下ろし、口角だけを吊り上げて笑ってみせる。
だけど、その瞳の奥は笑っていなかった。
「……もう二度と、彼女の視界に入らないで。次、その汚い口で彼女の名前を呼んだら……俺、何するか分からないよ?」
「……ッチ」
三谷は舌打ちを残し、逃げるように教室から出ていった。
「……さて」
数人残っていたクラスの連中が、呆然とこちらを見ている。
俺は人差し指を口に当て、いつものキラキラ笑顔を作って見せた。
「今のやり取り、忘れてね。……約束だよ?」
彼女たちがコクコクと無言で首を縦に振るのを確認して、俺は教室を後にした。
これで、残すは●●ちゃんのケアだ。
スマホを取り出すと、既に部活が始まっている時間だった。
これは岩ちゃんに怒られるヤツだ。
だけど、今は何よりも、1人で泣いているはずの彼女が優先。
俺は彼女に少しでも寄り添うメッセージを送った。
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