頑張り屋な手
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結局家まで運んでもらった。
「持ってくれてありがとう」
「いえいえ」
私は徹君から米袋を受け取ろうと手を伸ばす。
だけど、彼はニコニコするだけで渡してくれない。
もしかして、家の中まで運ぼうとしている?
いやいや、だとしてもさすがに生徒を家に入れるワケにはいかない。
「ここまででいいよ」
私は少しだけ強い口調で言い、再度米袋を渡すよう促した。
それなのに、
「俺、部活終わりで疲れてる中、重い荷物を運んだんですよ?喉乾いちゃったなー……なんて」
全然平気そうな顔をしているのに、口だけは疲れたアピールをしてくる。
だけど、確かにここでさようならは薄情な気もする。
「……お茶飲んだら帰ってよ?」
「もちろん」
本当かな、と疑いたくなったけれど、ここは彼を信じることにした。
……。
…………。
リビングで待ってもらっている間に、私はキッチンでお茶の準備をした。
すると、リビングから楽しそうな徹君の声が聞こえてきた。
面白いものでも置いてあったかな……?
少しだけ胸がざわついていると、
「へえ……。◯◯●●さんって言うんだ」
「はぁ?なんでっ!」
突然フルネームで呼ばれ、私は慌ててキッチンから顔を出した。
徹君は悪びれる様子もなく、手紙をひらひらと揺らす。
「人の手紙を勝手に……!」
抗議しようとしたけれど、お湯が沸騰したことをケトルが知らせる。
仕方がなく手紙は後回しにして、お茶を入れることにした。
急須に茶葉を入れて蒸らす。
頃合いを見てコップにお茶を注ぎ、氷で冷やした。
それを彼の前に置く。
徹君は私の様子を面白がるようにクスクス笑い、受け取ったコップを傾ける。
「早く飲んじゃって」
「●●さんはその袋のやつ、飲まないの?」
「飲むわよ」
呼び方が変わったことに内心戸惑いつつも、私はエコバッグから取り出した缶チューハイをプシュッと開けた。
そして、勢いに任せてグビッと喉を鳴らす。
飲み慣れないお酒が空きっ腹に染み渡り、体に熱が広がる。
「……ぅ」
酔いが回るのが早い。
せっかくおつまみも買ってきたのに、箸を用意する気力が出なかった。
代わりに頭がふわふわして、なんだか昼間のことを思い出して泣きそうになる。
それに加え、
「良い飲みっぷりだね。なんかあったの?」
なんて、聞かれたら、話してはいけないことが口から出てしまう。
気が付けば、私はツラツラと昼間の失敗談を話していた。
「失敗したのは私だし、悪いのは分かるけど、今井さんだって、なにもあんな態度取らなくてもいいのに!」
徹君は静かに頷きながら、私の言葉に耳を傾けてくれた。
その優しい態度に、さらに甘えそうになる。
だけど、ふと我に返った。
「て、何言ってるんだろう……私。高校生に愚痴を溢すなんて、社会人失格だね」
ははは、と誤魔化すように乾いた笑いが出る。
机の上には空になったチューハイの缶と、コップ。
引き留めてしまった徹君を家に帰してあげないと。
回らない頭でそんな事を考えていると、
「そんなことないよ」
徹君はそう言って私の手を突然握ってきた。
意味が分からない。
「えっ……えっ……?やだ、ガサガサで汚い手だから触らないで!」
こんな恥ずかしい手に触れてほしくない。
すぐ手を離さないと。
その一心で振り払おうとしたけれど、体からうまく力が入らない。
彼は構わず、私の手のひらを優しく撫でた。
「大丈夫だよ」
そう言って、彼はテーブルの端にあった、以前私にプレゼントしてくれたムスクの香りのハンドクリームのキャップを開けた。
白いクリームを少し取り、私の手に丁寧に塗り込む。
「ほら、綺麗になった」
……こんなの、一時しのぎに過ぎないのに。
それなのに、
「●●さんの手は美味しい料理を作ってくれる、頑張り屋さんの手だよ」
その触れ方、言葉があまりに優しくて、私の目から大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。
「うっ……」
徹君はそっと私の頭に手を置き、ぽんぽんと優しく叩く。
「●●さんは、頑張ってるよ」
私の方が徹君より年上なのに。
しっかりしないといけないのに。
私の涙腺は、完全に壊れてしまっていた。
ーーFinーー
「持ってくれてありがとう」
「いえいえ」
私は徹君から米袋を受け取ろうと手を伸ばす。
だけど、彼はニコニコするだけで渡してくれない。
もしかして、家の中まで運ぼうとしている?
いやいや、だとしてもさすがに生徒を家に入れるワケにはいかない。
「ここまででいいよ」
私は少しだけ強い口調で言い、再度米袋を渡すよう促した。
それなのに、
「俺、部活終わりで疲れてる中、重い荷物を運んだんですよ?喉乾いちゃったなー……なんて」
全然平気そうな顔をしているのに、口だけは疲れたアピールをしてくる。
だけど、確かにここでさようならは薄情な気もする。
「……お茶飲んだら帰ってよ?」
「もちろん」
本当かな、と疑いたくなったけれど、ここは彼を信じることにした。
……。
…………。
リビングで待ってもらっている間に、私はキッチンでお茶の準備をした。
すると、リビングから楽しそうな徹君の声が聞こえてきた。
面白いものでも置いてあったかな……?
少しだけ胸がざわついていると、
「へえ……。◯◯●●さんって言うんだ」
「はぁ?なんでっ!」
突然フルネームで呼ばれ、私は慌ててキッチンから顔を出した。
徹君は悪びれる様子もなく、手紙をひらひらと揺らす。
「人の手紙を勝手に……!」
抗議しようとしたけれど、お湯が沸騰したことをケトルが知らせる。
仕方がなく手紙は後回しにして、お茶を入れることにした。
急須に茶葉を入れて蒸らす。
頃合いを見てコップにお茶を注ぎ、氷で冷やした。
それを彼の前に置く。
徹君は私の様子を面白がるようにクスクス笑い、受け取ったコップを傾ける。
「早く飲んじゃって」
「●●さんはその袋のやつ、飲まないの?」
「飲むわよ」
呼び方が変わったことに内心戸惑いつつも、私はエコバッグから取り出した缶チューハイをプシュッと開けた。
そして、勢いに任せてグビッと喉を鳴らす。
飲み慣れないお酒が空きっ腹に染み渡り、体に熱が広がる。
「……ぅ」
酔いが回るのが早い。
せっかくおつまみも買ってきたのに、箸を用意する気力が出なかった。
代わりに頭がふわふわして、なんだか昼間のことを思い出して泣きそうになる。
それに加え、
「良い飲みっぷりだね。なんかあったの?」
なんて、聞かれたら、話してはいけないことが口から出てしまう。
気が付けば、私はツラツラと昼間の失敗談を話していた。
「失敗したのは私だし、悪いのは分かるけど、今井さんだって、なにもあんな態度取らなくてもいいのに!」
徹君は静かに頷きながら、私の言葉に耳を傾けてくれた。
その優しい態度に、さらに甘えそうになる。
だけど、ふと我に返った。
「て、何言ってるんだろう……私。高校生に愚痴を溢すなんて、社会人失格だね」
ははは、と誤魔化すように乾いた笑いが出る。
机の上には空になったチューハイの缶と、コップ。
引き留めてしまった徹君を家に帰してあげないと。
回らない頭でそんな事を考えていると、
「そんなことないよ」
徹君はそう言って私の手を突然握ってきた。
意味が分からない。
「えっ……えっ……?やだ、ガサガサで汚い手だから触らないで!」
こんな恥ずかしい手に触れてほしくない。
すぐ手を離さないと。
その一心で振り払おうとしたけれど、体からうまく力が入らない。
彼は構わず、私の手のひらを優しく撫でた。
「大丈夫だよ」
そう言って、彼はテーブルの端にあった、以前私にプレゼントしてくれたムスクの香りのハンドクリームのキャップを開けた。
白いクリームを少し取り、私の手に丁寧に塗り込む。
「ほら、綺麗になった」
……こんなの、一時しのぎに過ぎないのに。
それなのに、
「●●さんの手は美味しい料理を作ってくれる、頑張り屋さんの手だよ」
その触れ方、言葉があまりに優しくて、私の目から大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。
「うっ……」
徹君はそっと私の頭に手を置き、ぽんぽんと優しく叩く。
「●●さんは、頑張ってるよ」
私の方が徹君より年上なのに。
しっかりしないといけないのに。
私の涙腺は、完全に壊れてしまっていた。
ーーFinーー
