頑張り屋な手
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ひょんなことから彼の名前を知ってしまった。
徹……。
まあ、呼ぶことはないのだけれど。
そんな彼と偶然会った数日後、改めてハンドクリームを買いにドラッグストアへ行った。
そもそもの話、雑貨屋で匂い重視で買おうとしたのが間違いだったんだ。
手荒れなら、最初から大人しくドラッグストアに行けばよかった。
そうしていれば、あのとき彼に会わずに済んだのに。
なんて、文句を垂れるけれど、職場へ行けば、食堂を利用する徹君に会ってしまう。
だから、いつもみたいに大人しく洗い物作業に集中して、空気になるように徹しようとした。
だけど、こんな時に限って担当が洗い物ではなく配膳になってしまうなんて……。
どうか、今週は徹君が食堂を利用しませんように。
もしくは、私の存在に気が付きませんように。
そう願いながら仕事に取り組んだ。
それなのに……。
「あれ〜お姉さん、今日は配膳なんだね!」
「……」
注文したカレーを取りに来た徹君に、思いっきり気付かれてしまった。
早く受け取って席に戻って欲しいのに、彼は雑談する気満々なのか、中々トレーを受け取ろうとしない。
それどころか、彼の視線が一瞬下に向いたのかと思えば、
「てか、お姉さんの名字、◯◯さんって言うんだ。いつも奥の洗い場にいるから、プレート見えなかったんだよね〜」
「……っ」
名字を知られてしまった。
私は咄嗟に名札プレートを手で押さえて隠した。
今更隠しても遅いのにね。
それなのに、彼は気にせずグイグイと質問してくる。
「下の名前は?」
「……」
なんで彼はこんなにも私のことを気にかけるんだろう。
食堂で働く、ただの調理員の1人なのに。
「まあ、いいや。ちなみに俺は及川徹。お姉さんも気が向いたら教えてね」
「教えません」
「あ、やっと口聞いてくれた」
まんまと策にハマったようで悔しい。
そう思っていると、またしても徹君は自分の話を続けた。
「そうだ、お姉さんに渡したいものがあったんだよね」
そう言うと、彼は制服のポケットから何かを取り出した。
「はい、これ」
彼の手には半透明な袋で可愛くラッピングされた、ハンドクリームがあった。
「あのとき買わずに出ていったから、プレゼントしようと思って」
この子、本当に人のことをよく見ているな。
だけど、
「残念ながら、もう自分で買いました」
「えー!でも、せっかく買ったんだし、よかったらこれも使ってよ」
「カレー、冷めるよ?」
「受け取ってくれたら俺も大人しく引き下がる」
目の前にはどんどん冷めていく可哀想なカレーと、ニヤニヤした顔の徹君。
私がなんて答えるのか分かっているみたいだった。
私は、大きくため息を吐いた。
「分かったから……。貰うから、徹君も冷める前にちゃんと食べて」
「やったー、ありがとう!」
ハンドクリームを受け取ると、徹君はカレーの乗ったトレーを持ち、嬉しそうに席の方へと行った。
その姿を見送った後、視線を手元に移した。
手には可愛くラッピングされたハンドクリーム。
それを見つめて余韻に浸った。
「プレゼント……か」
私のことを考えて選んでくれたのかな……。
そこでハッとして、そんな考えを振り払うように首を横に振る。
いやいや浮かれるな。
徹君には彼女がいるんだから。
だけど、仕事終わりに、試しに貰ったハンドクリームを付けてみたら、私が買った薬用のものとは違い、優しいムスクの匂いがした。
徹……。
まあ、呼ぶことはないのだけれど。
そんな彼と偶然会った数日後、改めてハンドクリームを買いにドラッグストアへ行った。
そもそもの話、雑貨屋で匂い重視で買おうとしたのが間違いだったんだ。
手荒れなら、最初から大人しくドラッグストアに行けばよかった。
そうしていれば、あのとき彼に会わずに済んだのに。
なんて、文句を垂れるけれど、職場へ行けば、食堂を利用する徹君に会ってしまう。
だから、いつもみたいに大人しく洗い物作業に集中して、空気になるように徹しようとした。
だけど、こんな時に限って担当が洗い物ではなく配膳になってしまうなんて……。
どうか、今週は徹君が食堂を利用しませんように。
もしくは、私の存在に気が付きませんように。
そう願いながら仕事に取り組んだ。
それなのに……。
「あれ〜お姉さん、今日は配膳なんだね!」
「……」
注文したカレーを取りに来た徹君に、思いっきり気付かれてしまった。
早く受け取って席に戻って欲しいのに、彼は雑談する気満々なのか、中々トレーを受け取ろうとしない。
それどころか、彼の視線が一瞬下に向いたのかと思えば、
「てか、お姉さんの名字、◯◯さんって言うんだ。いつも奥の洗い場にいるから、プレート見えなかったんだよね〜」
「……っ」
名字を知られてしまった。
私は咄嗟に名札プレートを手で押さえて隠した。
今更隠しても遅いのにね。
それなのに、彼は気にせずグイグイと質問してくる。
「下の名前は?」
「……」
なんで彼はこんなにも私のことを気にかけるんだろう。
食堂で働く、ただの調理員の1人なのに。
「まあ、いいや。ちなみに俺は及川徹。お姉さんも気が向いたら教えてね」
「教えません」
「あ、やっと口聞いてくれた」
まんまと策にハマったようで悔しい。
そう思っていると、またしても徹君は自分の話を続けた。
「そうだ、お姉さんに渡したいものがあったんだよね」
そう言うと、彼は制服のポケットから何かを取り出した。
「はい、これ」
彼の手には半透明な袋で可愛くラッピングされた、ハンドクリームがあった。
「あのとき買わずに出ていったから、プレゼントしようと思って」
この子、本当に人のことをよく見ているな。
だけど、
「残念ながら、もう自分で買いました」
「えー!でも、せっかく買ったんだし、よかったらこれも使ってよ」
「カレー、冷めるよ?」
「受け取ってくれたら俺も大人しく引き下がる」
目の前にはどんどん冷めていく可哀想なカレーと、ニヤニヤした顔の徹君。
私がなんて答えるのか分かっているみたいだった。
私は、大きくため息を吐いた。
「分かったから……。貰うから、徹君も冷める前にちゃんと食べて」
「やったー、ありがとう!」
ハンドクリームを受け取ると、徹君はカレーの乗ったトレーを持ち、嬉しそうに席の方へと行った。
その姿を見送った後、視線を手元に移した。
手には可愛くラッピングされたハンドクリーム。
それを見つめて余韻に浸った。
「プレゼント……か」
私のことを考えて選んでくれたのかな……。
そこでハッとして、そんな考えを振り払うように首を横に振る。
いやいや浮かれるな。
徹君には彼女がいるんだから。
だけど、仕事終わりに、試しに貰ったハンドクリームを付けてみたら、私が買った薬用のものとは違い、優しいムスクの匂いがした。
