頑張り屋な手
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〜頑張り屋な手〜
この春、短大の食物栄養学科を卒業した私は、青葉城西高校の食堂の調理員として働き始めた。
学生時代、他学科の生徒に給食を振る舞うなど、授業でも模擬的な大量調理は経験したけれど、慣れない仕事はやはり大変だった。
特に最初の数カ月は目まぐるしく、食堂を利用してくれる生徒たちの顔を見る余裕すらなかった。
ただ、食べ終わった食器を返却カウンターへ持ってくる生徒の中で、ひときわ大きな声でお礼を言ってくる人がいた。
もちろん、他の生徒も言っている人はいるけれど、小さな声は、洗い場の大きな水の音にかき消されてしまう。
この日も、お皿を食器洗浄機に掛ける前に手洗いしていると、
「ごちそうさまでしたー!今日も美味しかったです!」
例の声が聞こえてきた。
いつもは耳しか傾けない私。
だけど、今日は顔を見てみようかな。
そんな気まぐれから顔を上げ、返却カウンターを見てみると、先ほどの声の生徒と目が合った。
「!?」
心臓が飛び跳ねる感覚。
まさか目が合うとは思っていなかったから、驚いて咄嗟に視線を逸らしてしまった。
それにしても、声の持ち主が想像していた容姿とかけ離れていたとは……。
てっきり体育会系のガタイの良い男子生徒だとばかり思っていたのに、実際は背が高くて、スラッとしていて、爽やかな男子生徒だった……。
再び洗い場に集中しようとしたけれど、やっぱり彼が気になり、もう一度返却カウンターへ視線を戻す。
だけど、そこには誰もいなかった。
用が済んだのに、いつまでも居座る人なんていないよね。
私は1人で納得させて、今度こそ洗い物作業に集中した。
……。
…………。
翌日の献立の打ち合わせが終わった後、最後にアンケート箱の開封が行われた。
アンケート箱とは、食堂を利用した生徒が自由に感想や要望を書き込んだ手紙を投函する箱のことだ。
「2年生からの要望です。先日のメニューが────」
読み上げられていく手紙。
大半はこんなメニューが食べたい、この野菜が嫌いだから入れないで欲しい、もっと量を増やして欲しい、などの内容だ。
実に高校生らしい。
しかし、こちらも予算や栄養面を考慮しているため、中々難しいのが現実である。
そんな中、1枚だけ調理員たちに向けた感謝の手紙が入っていた。
珍しいこともあると思って聞いていると、その内容に心当たりがあった。
“毎日一生懸命に食器を洗っているお姉さんの手荒れが心配です”
他の職員に向けての感謝も書いてあったけれど“食器洗いのお姉さん”はおそらく私のことだ。
地味な作業なのに、見ていてくれた生徒がいると知って、心がザワつく。
嬉しい……。
月曜日が始まったばかりだけれど、手紙のおかげで今週も頑張れそう。
その日の帰り、私は雑貨屋に寄ってハンドクリームを買おうと心に決めた。
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