1/3の本音
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安心したのも、束の間だった。
冬の冷たい風が校舎の隙間を鋭く吹き抜ける、ある放課後のこと。
廊下からは、大学入試を控えた生徒たちの足音が響いていた。
実習室や図書室、あるいは塾へ向かうために昇降口へ。
誰もが自分の将来のために、葛藤している。
私も例に漏れず、誰もいなくなった教室で独り、大学入試の過去問と戦っていた。
……。
…………。
「ん〜、疲れた。今日はこの辺にしておこうかな」
重い瞼をこすりながら顔を上げると、窓の外はいつの間にか暗闇に包まれていた。
部活をしていた頃でも、こんなに遅くまで居残りをしたことはなかった。
体を伸ばし、鞄に参考書を詰め込む。
その時、ガラガラと勢いよく教室の扉が開かれた。
「……っ!?」
忘れ物を取りに来た生徒だろうか。
驚いて肩を跳ねさせながら振り向くと、そこには少し肩を切らした徹が立っていた。
「徹……?」
「こんなところで居残りしてたの?」
徹は苦笑いしながら、私の机のそばまで歩み寄ってきた。
「うん。もう帰るけど」
「そっか……。あのさ、一緒に帰らない?」
「いいけど……はじめ君は?」
いつもなら必ずそこにいるはずの、もう1人の幼馴染の影を探す。
「岩ちゃんは塾があるからって、先に帰ったよ」
「そうなんだ……」
なんだかんだ、徹と2人きりで帰るのは、久しぶりかもしれない。
これまでは、はじめ君を含めた3人で帰るのが当たり前で、徹に彼女がいる時期は私が勝手に遠慮して。
部活の引退後は、それぞれの進路のために帰宅時間すらバラバラになっていた。
2人並んで歩く夜道。
数センチだけ離れた肩から伝わる熱がくすぐったい。
隣で彼が歩いている。
ただそれだけのことに、抑えきれない喜びが込み上げ、自ずと頬が緩んだ。
だけど、そんな私に、徹は容赦ない言葉を浴びせてきた。
それは「彼女ができた」という報告よりも何倍も衝撃的で、残酷な宣告。
「俺、高校卒業したら、アルゼンチンへ行こうと思ってる」
目の前が真っ白になる、というのはこういうことだろうか。
バレーボールへの情熱も、彼の向上心も知っていたはずなのに。
別れが来るのを恐れて、告白さえしなかったのに。
結局、運命はあっさりと、物理的な別れを私に突きつけてきたのだ。
「……そっか。すごいね、徹」
顔が引きつらないよう、頬の筋肉を必死に動かして、精一杯の笑顔を作る。
いつだって私は、彼の前では物分かりのいい、一番の理解者でいなければならなかった。
「頑張ってきて!徹なら絶対大丈夫。私は日本から、ずっとずっと応援してるから」
スラスラと激励の言葉が口から出る。
それなのに、残り“1/3”の「好き」という本音だけが、どうしても喉に引っかかって出てこない。
全部をさらけ出す勇気が、私にはなかったのだ。
そのまま、徹は高校の卒業式を終えると同時に、アルゼンチンの空へと旅立っていった。
冬の冷たい風が校舎の隙間を鋭く吹き抜ける、ある放課後のこと。
廊下からは、大学入試を控えた生徒たちの足音が響いていた。
実習室や図書室、あるいは塾へ向かうために昇降口へ。
誰もが自分の将来のために、葛藤している。
私も例に漏れず、誰もいなくなった教室で独り、大学入試の過去問と戦っていた。
……。
…………。
「ん〜、疲れた。今日はこの辺にしておこうかな」
重い瞼をこすりながら顔を上げると、窓の外はいつの間にか暗闇に包まれていた。
部活をしていた頃でも、こんなに遅くまで居残りをしたことはなかった。
体を伸ばし、鞄に参考書を詰め込む。
その時、ガラガラと勢いよく教室の扉が開かれた。
「……っ!?」
忘れ物を取りに来た生徒だろうか。
驚いて肩を跳ねさせながら振り向くと、そこには少し肩を切らした徹が立っていた。
「徹……?」
「こんなところで居残りしてたの?」
徹は苦笑いしながら、私の机のそばまで歩み寄ってきた。
「うん。もう帰るけど」
「そっか……。あのさ、一緒に帰らない?」
「いいけど……はじめ君は?」
いつもなら必ずそこにいるはずの、もう1人の幼馴染の影を探す。
「岩ちゃんは塾があるからって、先に帰ったよ」
「そうなんだ……」
なんだかんだ、徹と2人きりで帰るのは、久しぶりかもしれない。
これまでは、はじめ君を含めた3人で帰るのが当たり前で、徹に彼女がいる時期は私が勝手に遠慮して。
部活の引退後は、それぞれの進路のために帰宅時間すらバラバラになっていた。
2人並んで歩く夜道。
数センチだけ離れた肩から伝わる熱がくすぐったい。
隣で彼が歩いている。
ただそれだけのことに、抑えきれない喜びが込み上げ、自ずと頬が緩んだ。
だけど、そんな私に、徹は容赦ない言葉を浴びせてきた。
それは「彼女ができた」という報告よりも何倍も衝撃的で、残酷な宣告。
「俺、高校卒業したら、アルゼンチンへ行こうと思ってる」
目の前が真っ白になる、というのはこういうことだろうか。
バレーボールへの情熱も、彼の向上心も知っていたはずなのに。
別れが来るのを恐れて、告白さえしなかったのに。
結局、運命はあっさりと、物理的な別れを私に突きつけてきたのだ。
「……そっか。すごいね、徹」
顔が引きつらないよう、頬の筋肉を必死に動かして、精一杯の笑顔を作る。
いつだって私は、彼の前では物分かりのいい、一番の理解者でいなければならなかった。
「頑張ってきて!徹なら絶対大丈夫。私は日本から、ずっとずっと応援してるから」
スラスラと激励の言葉が口から出る。
それなのに、残り“1/3”の「好き」という本音だけが、どうしても喉に引っかかって出てこない。
全部をさらけ出す勇気が、私にはなかったのだ。
そのまま、徹は高校の卒業式を終えると同時に、アルゼンチンの空へと旅立っていった。
