諦める決断
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〜諦める決断〜
幼い私にとって、両親の言葉は絶対だったけれど、その重みまでは理解できていなかった。
「いい、●●。絶対にヒーローにだけはなろうなんて思っちゃダメよ」
事あるごとに、母は何度も私にそう言い聞かせた。
「よく分からないけど、分かった!」
当時の私は、深く考えずに返事をしていた。
将来の夢なんて、その日の気分でケーキ屋さんやお花屋さんにコロコロ変わる。
だから、禁止されたヒーローという選択肢が1つ減ったところで、私の世界は少しも狭まったようには感じていなかった。
だけど、仲が良い出久君が、将来はヒーローになりたい、と言おうものなら、私も影響されて目指したくなる。
ーーーー
保育園の教室。
お迎えを待つ静かな時間の中で、出久君の声だけが弾んでいた。
「ヒーローはね、どんなにピンチでも、みんなを笑顔で助けちゃうんだ!特にオールマイトは────」
ボロボロになるまで読み込まれたヒーロー図鑑を広げ、出久君が身を乗り出す。
楽しそうに話す彼に魅入られて、私も食い入るように聞いた。
「うんうん、凄いね!それで、それで?」
「それでね、どんなに強そうなヴィランが来ても、ババーンってやっつけるんだ!僕も、そんな格好良いヒーローになりたいんだ!」
拳をぎゅっと握りしめて宣言する出久君。その横顔があまりにキラキラしていて、私は彼が見ている景色を、隣で一緒に見たくなってしまった。
ケーキ屋さんもお花屋さんも、その瞬間にどこかへ吹き飛んでいった。
「私も、出久君と一緒にヒーローになりたい!」
私の言葉に、出久君がパッと顔を輝かせる。
「いいね!なろうよ、2人で!」
ただ、私たちは未熟だ。
個性がまだ現れていない出久君。
個性を理解していない私。
現実味がない、ただの口約束だ。
それでも、私たちは将来を疑わずに、出久君と指切りをした。
「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本のーます」
ひんやりとした小指と小指の感触が交わる。
「指切った!」
私たちは指を離した後も、見つめ合い、微笑みあった。
そんなとき、先生に呼ばれた。
「●●ちゃーん、お母さんがお迎えに来てくれたわよ」
先生の声に、私は名残惜しさを覚えながら立ち上がった。
「はーい!それじゃあ、また明日ね、出久君!」
「うん、また明日!」
大きく手を振り、私は駆け足で下駄箱へ向かう。
門の前には、いつものように穏やかな笑みを浮かべたお母さんが立っていた。
帰り道、アスファルトの上に2つの影が並んで伸びている。
私は今日あった最高に幸せな出来事を、早く伝えたくてたまらなかった。
「今日も楽しかった?」
「うん!あのね、お母さん。私、決めたよ。将来は出久君と一緒に、ヒーローになるの!」
ヒーローを目指すなと言われていたけれど、きっと驚きながらも応援してくれると思った。
出久君と一緒に頑張ってね、と頭を撫でてくれる。
そう信じて、期待に胸を膨らませて母の顔を見上げた。
だけど、繋いでいた母の手が、びくりと震えた。
母は険しい顔をするだけで、何も答えてはくれなかった。
ただ、痛いくらいに私の手を握り返し、前だけを見つめて歩き続ける。
さっきまであんなに温かかった夕暮れの風が、急に冷たくなった気がした。
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