Trickstar
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―「おいおい…なんだこれ」
登校して下駄箱を開けた彼は思わずぎょっとした。真緒の上履きにはジャラジャラと小銭が詰まっているでははないか。こんな事をする犯人は彼女しかいない。と隣にいる幼馴染みの名前に視線が向けられるが、「ま~くん酷い。すぐに私のせいにする~」としらを切り通すつもりのようだ。取り出した小銭は有無を言わさず彼女の鞄に放り込まれた。背中に背負われた凛月は「うーん。うるさいなぁ…」と文句を垂れているが、彼は自分に向けられている名前からの羨望の眼差しには気付く気配もない。今朝だって「ま〜くん、おんぶ~」と我儘を言う凛月に「ま~くんにおんぶさせるくらいなら、私がおんぶしてあげるよ」と答えた程だ。「生徒会の仕事で疲れてるま〜くんにこれ以上面倒事させられないよ」と言ったのは本心だったが、勿論それだけではなかった。長年想いを寄せている真緒は同じ幼馴染みにも関わらず凛月にばかり構っている。自分だってぎゅっと抱き着きたい。彼に触れたい。というのが本音だった。
「ま~くんは凛月に甘すぎる」
教室に向かって歩きながら、不貞腐れたような表情の名前が文句を言って真緒の頬を横からちょんとつつく。「そういう名前だって、結構凛月に甘いだろ?」と真緒は日常的に見かけた彼女の行動を例に出した。「凛月にせがまれて膝枕してやったりしてさ」と凛月を席に座らせた後、彼は後ろの席の名前のほうへ振り向いた。「何故か凛月の奴、あんずちゃんのとこに行かずに私のとこに来るもんだから仕方なく…って感じ」とゲンナリした様子で彼女は溜め息をついた。そういえば、あんずが転校してきてからというもの…真緒の気持ちが彼女に向けられているような気がして名前は気が気ではなかった。しかしそれは真緒も同様に、名前が凛月にこんなにも甘いのは彼女は凛月を好きだからなのでは?と疑っていたりする。何がもやもやするかと言えば、自分への悪戯が度を増して最近ではむしろ嫌がらせのような気さえしてきた。だが、反対に凛月にはそんな真似をしないどころか優しすぎるくらいだ。凛月に好意を抱いているなら、自分が邪魔でこういった意地悪や悪戯をしていることも頷ける。
―「ま~くん!おんぶして~」
「お前まで我儘言うなよな〜」
ある日の体育の時間。しゃがんで靴紐を結び直していた真緒の背中に乗りかかってきた彼女。重なる感触にどぎまぎさせられた。そして今朝…「朝は冷えるねぇ」と暖を取るかのように真緒の腕に腕を絡ませてきた彼女の仕草。こんな一連の行動は可愛いと思えるものの、凛月のことが好きならば、自分にこんなにベタベタするな。と真緒は人知れず苛立っていた。相変わらず嫌がらせに似た悪戯を仕掛けてくる名前に手を焼いていると、凛月からは「ま~くんて鈍感すぎて名前が可哀想だね」とよく分からぬ言葉を投げかけられたが、勿論当の本人には全く伝わっていない。だからこそ、今の彼らはこんな状況に陥っているのだ。「おまえなぁ、いい加減にしろよ」と名前を見据える彼の瞳も、声も怒気が篭っていることがよく分かった。誰もいない放課後の教室にて、所謂壁ドンの体勢で逃げ場を失った彼女は、涙目で目前に迫る彼を見上げた。彼がこんなに怒っている理由なんて説明されなくとも自覚している。彼の気を引こうと散々悪戯をしてきた自分への因果応報だろう。
「ま~くん。ごめん…」
「ごめんなさい」そう言い終わる前に、謝罪の言葉は彼の「凛月が好きなら、そう言えばいいだろ」と投げ捨てるような台詞で途切れさせられた。対する名前は、彼の言葉の意図が分からずに目を白黒させたが、漸く彼の言わんとしていることを感じ取ったのか真っ直ぐに視線を絡ませて告げる。「私の好きな人、凛月じゃなくてま~くんだよ」と。「ま~くんて鈍感すぎて困っちゃうよね」とくすくすと笑うが、真緒は荒唐無稽なその台詞が信じられないのか、茫然自失して動けずにいた。「なんだよ。ずっと勘違いしてたのかよ…」と自嘲的に呟く彼に抱きついて、名前は更に想いを明かしていく。「私ね、焼きもち妬きだから、凛月にもあんずちゃんにも嫉妬してたんだ。だからって、あんなに悪戯して困らせていいことにはならないんだけど…」と後悔の念に駆られている彼女の頭にぽんと真緒の手が乗せられた。いわずと、体勢は壁ドンのままなので距離はより近くなっている。
「もう謝らなくていいよ。俺も、名前の気持ち…分かってやれなくてごめんな」
「ねぇ、ま~くん。こんなことされたら余計に好きになっちゃう…」
顔を俯かせてごにょごにょと呟く彼女の顔は耳まで真っ赤に染まっており、それに気付いた彼は彼女をぽすりと抱き竦め腕の中に閉じ込めて更に言葉を紡いでいく。「好きになってほしいから、やってんだよ。俺はもう手遅れなくらい名前に惚れてるけどな」「そんな恥ずかしい言葉よく言えるよね。さっすがアイドル~」照れ隠しなのか、おちゃらけた反応をする彼女の顎を掬って触れるだけの口付けを落として彼は微笑む。何も言えずに目を瞬かせている名前を一瞥して「今までのお返し」と、彼は悪戯っ子のような顔で笑った。
END