羽風薫
名前
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―学校からの帰り道、自宅付近を歩いていた私。突如として「だーれだ」なんて後ろから視界を塞がれて、思わず盛大な悲鳴を上げてしまった。
「そんな不審者扱いしないでほしいなぁ…」
「不審者より質が悪いよ」
聞き覚えのある声に反応して振り返れば、お向かいの家の住人であり私の幼馴染みが居た。苦笑を滲ませて私を見やる彼を睨んだ。私は彼がこの世で一番嫌いだ。
「そんなしかめっ面したら可愛い顔が台無しだよ」
「不機嫌なんだからしょうがないでしょ」
羽風薫は他の女の子にも可愛いとか言っているに決まってる。チャラチャラしていて女にだらしなくて、こんな奴に会いたくなかったのに。自宅に帰ろうとする私の手を、何故か引っ張られて彼の家に連れていかれた。
―「久しぶりに、少し話そうよ」
「嫌だ。喋る事なんて何もない」
「喋りたい事ならあるよ。俺がね」
私の腕を離してくれる気配のない彼に押し切られて家に上がる事を余儀なくされた。今日は誰も帰って来ないから一緒に居てほしいと頼まれ、寂しげな眼差しで見つめられた。こんなに嫌いなのに、この手を振り解けないなんてどうかしている。
「彼女でもない女を自室に入れて大丈夫なの?」
「問題ないよ。彼女いないし」
薫は嘘つきだ。本当は何人も彼女が居るくせに、幼馴染みの私まで騙すなんて…。テーブル越しに向かい合って座っている彼は唇に笑みを乗せて私と視線を絡めた。アイドルやってるだけあって顔は整っているのが腹立たしい。
「名前、すごく綺麗になったね」
「そういう台詞要らない」
薫に言われても嬉しくない。なんて裏腹な言葉を呟けば、苦笑を滲ませた彼が私の傍に寄ってきた。そして、頭にポンと手を置かれた。不機嫌な私を宥めるように撫でられ、ふいに告げられた言葉に耳を疑った。
「初恋の相手にこんなに嫌われてる俺の気持ち考えた事ある?」
「なにそれ。私が初恋って言いたいの?」
鈍感だなぁ。と言いたげな視線を受け止めて、その問いに答えた。「考えた事もない」と。私に嫌われていようと関係ない筈だ。思ったままに一言返せば彼は首を振った。
「俺は名前には嫌われたくないよ」
もう一度、君に恋したんだから今度こそ叶えてみせる。と彼は不敵に微笑んだ。―私が初めて招待されたライブで、大嫌いな彼に好感を抱くのはもう少し先の話だ…。
END