羽風薫
名前
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-「お兄ちゃんなんか嫌いだもん」
「え…っ。なんでそんな事言うの」
私の発言を聞いた兄は整った顔を悲しげに歪めた。「名前から嫌われたら、俺生きていけないよ」と本気でショックを受けているみたい。私の兄の名は羽風薫。UNDEADの二枚看板の一人である。冒頭の私の台詞には勿論理由があるわけだが、きっと兄は気付かないと思う。私が勝手にヤキモチを焼いているだけなのだから。こんな兄妹喧嘩バカみたい。と、怒りに任せてさっさと部屋に戻ろうとした私だが、後ろから抱き竦められて足を止めるしかなくなった。
「ねぇ。なんで俺のこと嫌いになったの?俺は名前のこと大好きなんだけどな」
「今日…綺麗な女の人と歩いてるの見た。私とは全然お出かけしてくれないくせに、色んな女の子を取っかえ引っかえしてる」
兄は悪くいえばチャラ男である。モテるけれど誰にも本気にならない。本命の彼女は作らない。だから兄の一番近くにいられる女の子は、いつだって私なんだと思っていた。だから、いざ他の女と一緒にいるのを目撃すると気に食わなくてイライラしてしまう。私も彼氏を作ればこんなに兄に執着することもなくなるだろうと、一度は同じ学校の男の子と付き合ったこともあるけれど「あの男、誰?」とか「名前に恋愛はまだ早い」とか自分のことは棚に上げた兄から色々詮索されて最悪だった。
「ヤキモチ焼いてる名前可愛い」
「ヤキモチじゃないもん。ただ、不誠実なお兄ちゃんが嫌いなだけ」
-この人、エスコート(デート?)が手慣れすぎている。本日…「デートしよっか」と言われて一緒に出かけたけれど、兄の経験値が高すぎて嫌になってきた。こんな…女の子ウケするカフェの、ふわふわパンケーキで喜ぶような女じゃないやい!と、アイスコーヒーのストローをギリギリと噛み締める。ちらりと視線を向けた先では兄が嬉しそうに頬を緩ませていた。穏やかな時が流れていると思いきや、「いつの間にブラックコーヒー飲めるようになったの」と、いつまでもお子ちゃま扱いされているような発言を聞いて落ち込んだ。
「もう知らない!」
兄と歩いていたら憤慨している様子の綺麗な女の人が兄を呼び止め、私は怒りに任せて走り出した。そして、ある人物とぶつかった。UNDEAD二枚看板の朔間零である。面識はなかったものの、一部始終を眺めていた朔間さんに同情された。私が羽風薫の妹だと知られていないせいで「薫くんと付き合っているのかえ?」と彼女扱いされてむず痒い気持ちにさせられた。妹だと説明するや否や「薫くんと似てなくて可愛いのう」と頭を撫でられた。朔間さん優しい。弟がいるだけのことはある。まるで朔間さんの妹のように可愛がられていたら、駆けつけた兄が朔間さんの手を払いのけた。
「名前に触らないで」
「お兄ちゃんが悪い。やっぱり嫌い」
手を握られて、攫うみたいにして朔間さんから引き剥がされて建物の影でジッと見つめられて「零くんに惚れたとか言わないよね?」と問われて苦笑するしかなかった。「消毒」と言いながら先程朔間さんに撫でられた頭に手を置かれて優しく撫で撫でされた。「本当にごめん」と謝ってくれたし、朔間さんからも「我輩に免じて許してやってくれ」と言われたから仕方ない。パンケーキ奢ってくれたし服買ってくれたし、デートらしいことしてくれたから許そう。あの綺麗な女の人より私のところに来てくれたわけだし。
「お付き合いするならお兄ちゃんみたいな人じゃなくて、颯馬くんみたいな人がいい」
「颯馬くんはないな。名前の趣味ってどうかしてる」
END