乙狩アドニス
名前
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―一年生プロデューサーの名前は、同じ部活の先輩に片想いをしている。その人物こそ、陸上部に所属している乙狩アドニスで。部活中ではない時でも、遠くから彼を眺めてしまう程に気持ちは真っ直ぐだった筈だ。しかし、今しがた目撃した光景から目を逸らした彼女は踵を返して去っていってしまう。その視線の先には、想い人のアドニスと、二年生のプロデューサーあんずがいた。こんなことくらいで嫉妬するなんて…と、大袈裟にも思えるが、自分には見せない表情を浮かべる彼を垣間見てしまっては引き摺らずにはいられなかった。部活の先輩として、よく構ってくれたのは彼の優しさからくるものだったのだろう。と、疑心暗鬼に陥ってしまい、以前のように自分から関わる頻度も減ってしまった。
「俺は名前に構いすぎて、迷惑がられているような気がするんだ」
「そんなことないよ。アドニスくんは名前ちゃんが好きだから可愛がってるだけでしょ?」
彼らの会話はこんな内容のものだったのだが、勿論それを知る由もなく名前の勘違いは続いていた。もうすぐクリスマス。「恋人達のクリスマス」なんて、聞いただけで胸が切なくなった。そんな中、天満光はアドニスから頼まれ事をされていた。「名前ちゃんは、クリスマス何が欲しい?俺、知りたいんだぜ〜!」と問われた彼女は、特に何も思い浮かばず苦笑した。「プレゼントを貰えるような歳じゃないしね。何もいらないかな」と答える。だが、彼女は後にこの時の質問の意味を知る事になる。クリスマスが目前に迫ったある日、学院でクリスマスライブが催されていた。それにはUNDEADも出演していて、出番の終わったUNDEADの元に向かった名前はその場で立ち尽くして動けなくなっていた。彼の傍にはあんずがいたからだ。このタイミングで二人が付き合い始めてもおかしくない。そんな推測をして勝手にショックを受けていれば、小さなその手を掴まれて思わず肩を震わせた。
「名前のほうから近寄ってくるのは久しぶりだな」
「アドニス先輩。私のことはほっといていいので…」
「あんずさんに構っててください」という台詞は告げられることはなかった。抱き上げられ、人目につかない場所へと連れていかれたからだ。彼はまだ衣装姿のままで、隠れるように入った部屋は少し肌寒い。アドニスが抱きしめると彼女の小さな身体がすっぽりと収まる。しかし、彼の腕の中でドキドキと胸を高鳴らせていると同時に困惑していた。あんずと両想いな筈の彼が、自分を抱きしめるなんて青天の霹靂とも言える。例え間違いでも、この抱擁を拒むのは勿体ないと感じて、じっとしていれば彼の声が耳元で響いた。「ほっといてと言われても無理だ。俺は名前に構いたい」と。「俺が名前を好きだから構いたくなるのだと、あんずに言われて自覚したんだ。確かに俺は名前のことが好きだ」と恥ずかしげに呟く声が聞こえ、抱きしめる腕に力が込められた。すると、おずおずと彼の背に彼女の腕が回された。きっと、自分はとんでもない勘違いをしていたのだと名前自身も気付いたからだ。
「天満に頼んで名前の欲しいものを探ったり、女子が好むものをあんずに訊いたりしていたんだが…」
首筋に彼の指が、冷たい金属が…触れる感触がした。指先でそれを持ち上げて確認して見ると、光を反射して輝くアメジストが目に入った。見上げると、至近距離で視線が交わる。「名前の好みを知らないような、俺が選んだものを気に入ってくれるか分からないが…」と不安げな面持ちの彼の前で、彼女は満面の笑みを見せた。なんて素敵なクリスマスなのだろう。と胸がいっぱいで伝えたい言葉すらまだ言えていない。
「アドニス先輩が気にかけてくれて嬉しかったんです。それなのに、先輩はあんずさんが好きなんだと思ってて…。この想いを伝える日は来ないと思ってました」
「頼むから泣かないでくれ。俺は名前の泣き顔に弱い」
「先輩がキスしてくれたら、涙止まるかもしれませんよ?」
END