乙狩アドニス
名前
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―一枚の紙に書かれている文面を読み、名前は思考が停止した。ドッドッドッと胸が早鐘を打ち、嫌な汗が滲んでくる。簡単に状況を説明すると、部屋に閉じ込められたのだ。しかも、行為に及ばないと出られないらしい。「どうしよう…」と潤んだ瞳で視線を向けられたのは、同じく部屋の中で途方に暮れている彼、乙狩アドニスで。おずおずとその紙が彼に見せられる。いつもポーカーフェイスの彼の表情が、困惑に変わったのが分かった。「部屋の真ん中にベッドがあるなんて、異様な空間だと思ったが…まずい事になったな」と無理矢理にでも扉をこじ開けようと試みる彼だが、重厚な扉はビクともしない。上に設置されたモニターには✕マークが表示されている。「ここ、電波も入らないみたいで、外と連絡も取れない」と彼女は圏外になっているスマホを彼に見せる。彼も自分の電子機器を確認するが、同じく使い物にならなかった。
「ずっとこんなところに閉じ込められてるわけにもいかないな」
「うん。アドニスくんは、好きな女の子を抱いてると思ってくれればいいから」
「名前だって、俺なんかに抱かれるのは嫌だろうが、好きな男と交わってると想像してくれればいい」
「こんな事は一度きりだ。互いの感情は関係ない」と、潔く腹を括ったアドニスの言動に、名前は涙が零れそうになった。想い人と交われることは、本来ならば喜ばしい筈だ。だが、所詮この恋は一方通行。彼の好いている相手が自分ではないと分かっている。一夜限りの夢だと思ってしまおう。と、彼女はシャツのボタンを外し、スカートを脱ぐ。相変わらず胸の鼓動は速いままだ。着替えている間、こちらを見ないようにしてくれているアドニスのことが堪らなく愛おしかった。状況が状況なのだから、襲うことだって出来ただろうに、彼は優しい。押し倒す体勢で、照れ臭そうに頬を染めている彼と目が合う。きっと、自分の顔も真っ赤なのだろうと彼女は薄く微笑み上半身を起こした。下着姿を見られている今でさえ、恥ずかしいのに…と、思っていれば背中のホックが外され、思わず胸を隠す。
「大丈夫だ。優しくするから、その手をどけてもらえないか?」
―「優しくするから安心してくれ」と彼から告げられる。「今日のことは忘れてくれていい。なかったことにしてくれて構わない」と。どこまでも優しい彼。酷く愛おしいのに、目の前の彼はきっと自分ではない相手を想って抱くのだろうと考えるだけで胸が苦しくなった。そして名前はありのままに言葉にした。「優しくなんてしてくれなくていい。アドニスくんのしたいようにしてくれればいいの」と。やがて、意を決した彼の手が白い素肌に重ねられた。誰にも触られたことがないからこそ、敏感になった。二つの膨らみは彼の大きな掌に収まり、やわやわと揉まれる。
「あァ…っ」
正面から向き合っていると、彼の瞳を見つめると恥ずかしくなると同時に切なくなった。この瞳はきっと、自分のことなど映していないんだ…と。だが、気持ちとは裏腹に身体は正直だった。指の間に頂を挟まれ、舌先で愛撫されるとどうしようもなく感じてしまい、彼女は彼に背を向ける体勢になった。彼の顔を見なければ、少しは気持ちも落ち着くのでは?と考えたからだ。しかし、彼の手で解されていくことには変わりなかった。想いあっているわけではない。それでも確かに敏感になった身体は彼を求めていた。ショーツ越しにそこをなぞられ、名前はびくりと背中をしならせた。下着を取り去られ顕になったそこは外気に晒され、物欲しそうに疼いていた。「痛かったら無理をするな」と彼は告げる。屹立した男根が充分すぎる程に潤った蜜壷に沈められ、彼女は腕に抱えた枕を握りしめた。バックの体位で、ピストンが開始される。優しく、労るのは忘れることなく。しかし、その優しさは彼女にとってはむしろ残酷だった。
「はァ…っ。激しくして、いいからぁ…っ」
行為に及ばなければ出られない部屋ということは、もしもアドニスが自分を気遣って途中で中断させてしまったりすれば、出られないのでは?と危惧した名前は「絶対、やめないで」と彼に懇願した。枕に染みを作っていくそれが、涙だと気付くまで時間がかかった。破瓜された痛みが原因じゃない。この涙は胸を切なく締め付けられた痛みのせいだ。奥を攻められる程に感じさせられすぎてドロドロに溶けてしまいそうだった。最奥を何度も突かれ、身を捩らせた彼女のナカで絶頂を迎えた彼が後処理を済ませ隣に横たわる。それから交わされた会話で、互いにとんでもない勘違いをしていたと漸く気付いたのだった。
「アドニスくんがあんずを好きなのは知ってるけど、初めての相手がアドニスくんで私は幸せだったよ」
「何を言っている。俺が好きなのはあんずじゃなくて名前だ」
「そういうお前だって、俺のことを好いているわけではないだろう?」とアドニスが問いかけるが、彼女は呆れたように笑う。「私はだいぶ前からアドニスくんのこと好きなんだけどな。鈍感なんだね」と。「それは…名前が俺以外の男とも親しくしているから気付かなかっただけだ」と悋気している様子の彼の手を握って彼女は呟いた。「ねぇ、せっかく両想いなんだからキスしてよ」と。想いが通じ合ってから初めて交わす口付けは何よりも甘いものだった。嬉しくて泣き笑う彼女の涙を拭い、彼はもう一度唇を重ねた。
END