鬼龍紅郎
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-一つ歳上の鬼龍紅郎先輩はその風貌から、一目置かれる存在でもある。私の友人曰く怖そうに見えるらしい。しかし、何を隠そう私の想い人は紅郎先輩である。冒頭の台詞は、初対面なのに私を心配してくれた彼の言葉だ。時は雨上がり、空に掛かる虹を見つけて足元がお留守になっていた私は、まだ濡れているマンホールの上で足を滑らせた。つるっと足を取られてその場に尻もちをついた。今の、誰も見ていなかっただろうかと恥ずかしくなって目を瞬かせば、すっと学ランの裾から伸びる手が差し出された。ご厚意に甘えて、その手を取って立ち上がれば背の高さが良く分かる。お礼を言って頭を下げた私の頭をくしゃりと撫でて笑みを浮かべた彼に胸が高鳴った。
―「紅郎先輩が卒業するの、凄く寂しいです」
卒業を寂しがっていた日々を遠く感じる。私はあの時、ボタンを欲しいと言う勇気がなかった。第二ボタンが欲しいなんて言えなかった。先程の式典が終わり、卒業生が学校近くの公園に移動していく中、私はその場から動けずにいた。彼と初めて出逢った場所には桜の花びらが絨毯のように積もっている。最後に一言想いを伝えたかった。涙で景色が滲んできたその時、逢いたかった彼の声に顔を上げた。
「紅郎先輩…」
腕の中に閉じ込められている今、確かめなくても分かる。彼の制服のボタンはまだ無くなっていない。その事実に安堵した。「俺はこんな見た目だからな、近寄ってくる後輩も嬢ちゃんくらいなんだ」と自嘲的に微笑む彼が、おもむろに胸元のボタンを手にした。
「嬢ちゃん。俺のボタン、受け取ってくれるか?」
END