流星隊
名前
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―机の下でぶつかる脚を、彼女はげしげしと蹴った。「無言で蹴るなよ」と文句を言うのはこの八百屋の息子であり名前とは保育園からの同級生の高峯翠である。常連客の名前のことを気に入っている彼の母に上がるように促され、暫くして翠が帰ってきて現在の状態に至る。翠と顔を合わせるのは久々だった。アイドルをやっているだけあり、相変わらず顔がいい。背も高い。と高鳴る胸の鼓動には気付いていないように彼女は平静を装っている。「翠の長い脚が邪魔なんだよ」と反論すれば「名前が脚伸ばさなければいいだけだろ」と売り言葉に買い言葉の会話がされていく。久しぶりに会ったのに、なんだこの色気のない会話は。と彼女は嘲笑したくなった。隣でみかんの皮を剥いている彼に「ひと房ちょうだい」と口を開けていれば「餌付けされてる雛鳥か」と呆れたような声を出しながらも食べさせてくれた。
「みかん美味しい。ありがとう翠」
「はいはい。ところで、名前は何しに来たの?」
「せっかく遠征先でゆるキャラのストラップ買ってきてあげたのに、そういうこと言うんだ?」
「野菜買いに来たに決まってんでしょ」と言おうとしたが、他に目的があったのは事実。傍に置いてあった猫のゆるキャラのぬいぐるみをクッション代わりに抱きしめていた彼女は、彼から「そんなぞんざいに扱わないで」と苦言を呈された。そんなにゆるキャラが大事か。と、そのぬいぐるみを翠に投げつけた。「それで、ストラップくれるんじゃないの?」と催促され、鞄からそれが入った袋を取り出して彼に渡す。「頭にネギ刺さってるゆるキャラだよ」と魅力が分からないと言わんばかりにジト目で彼を見据えた彼女は「ありがとう」とキラキラした笑顔を見せる彼と視線が絡んだ。この時点である程度引いていたのだが、彼の次の一言に困惑せざるを得なかった。「名前って、なんかゆるキャラに似てるよね」と。
「似てないし。私にそんな癒しはないよ」
「ねぇ。ちょっとだけ頭撫でさせて」
許可を出したわけでもないのに、伸びてきた彼の手がわしゃわしゃと彼女の頭を撫ぜた。ゆるキャラ扱い。所詮、彼には何とも思われていない。そう分かっているのに、触れる手にドキドキとさせられてしまう。「もう。髪の毛ボサボサになるからやめて」と拒めば、今度は腕の中にすっぽりと収められてしまった。後ろから抱きしめられているという体勢だ。「名前って小さくて抱き心地いいよね」とご満悦の彼とは引き換えに、彼女は訝しげな表情を滲ませていた。「翠からしたら、殆どの女の子が小さいでしょ」と苦し紛れに肘をぶつけてみても、くすりと笑われ「ゆるキャラはそんな乱暴しない」と諌められてしまった。ストラップを渡したら帰ろうと思っていたのに、この状態が嬉しくもあり、折角の好機を逃すのは勿体ない。と感じてしまう。だからこそ、抵抗しているふりをしてやり過ごしているのだ。
「アイドルって普通にこういうことすんの?」
「なに突然。俺はただ名前に癒して貰いたいだけ」
抱く腕に力が込められる。翠なら恋人がいてもおかしくはない筈だが、付き合ってもいない自分に絡んでくるということは…と期待していまう自分がいることに彼女はうんざりした。「彼女にすればいいじゃん。なんで私なの?」と不満げな呟きには躊躇いと不安が混じっていた。「彼女いないし。そういうの面倒臭いじゃん」と、そもそも男女交際自体が億劫なような口ぶりだ。顔はいいのに、ネガティブだったり無気力だったり残念な男だ。と名前は笑った。「都合のいい女か。私は」と自嘲的に呟いて不貞腐れたように唇を尖らせる彼女。依然として、腕は解かれていない。「なんか名前、機嫌悪くなったね」と苦笑する彼の台詞はあまりにも荒唐無稽すぎるもので、名前は返答に詰まって俯いてしまった。
「付き合うとか面倒だけど、名前が彼女だったらいいなとは思うよ」
「なにそれ。口説いてんの?」
「そう思うなら、そうなんじゃない?」
END
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