天祥院英智
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―私は、とある百貨店のお惣菜コーナーで働くごく普通の一般人である。そんな私には、とっても可愛い自慢の弟がいる。名は紫之創といってアイドルをしている。そんな弟にも言い出せない悩みが一つ。彼と同じ学校出身のアイドルがうちのお惣菜コーナーに通いつめているという事実を、私は創には伝えていない。
「やぁ…相変わらず可愛いね。そんな目で見ないでほしいなぁ」
「あなたのほうが私よりも歳下でしょうが」
「歳上のレディに向かって“可愛い”は褒め言葉じゃありませんか?」と目の前のアイドル天祥院英智は少し困った顔を浮かべながら笑う。くっそ…顔がいい。軽く嫌味でも言ってやろうかと思ったのに。彼は創の所属していた紅茶部の部長であり、弟もお世話になった人物故に悩む。家に専属のシェフもいるだろうに、結構な頻度で訪れるとんだ太客だ。(グラム売りなので量は少量しか頼まれないけど)
「名前ちゃんたら、またそんな仏頂面で接客してぇ。ごめんなさいね英智くん」
バイトのおばちゃんは英智くんが来ると機嫌が良くなる。アイドルでお金持ちでイケメンで…と、なんていう高スペックなんだ。そりゃおばちゃん人気もあるだろうな。わざとらしい笑顔を貼り付ける私に、彼は必ず訊いてくる一言がある。「名前ちゃんが作ったおかずってどれですか?」と。私はゆで卵やじゃがいもの皮を剥いたりしているだけで、作っているというほど調理に参加していないのだけど。
「そこのエビとアボカドのサラダよ。あと
はこれとこれ…かな」
えぇぇ…!?私はエビの背わたを取って下処理しただけですけど、作ったことにしていいんですかね。(他のも下処理しか手伝ってない)英智くんも満面の笑みで「それ全種ください」と注文してくるし、いたたまれなくなってきたからここから消えたい。紙袋を受け渡す時にわざと…なのかは分からないけれど指が触れ合うし変な汗が出てくるからやめてほしい。じっと見つめて王子様のような微笑を見せないでくれ。創が「英智お兄ちゃん」と慕っていたからライバル心で…とかそういうのじゃなくてただ単に私は美形が苦手なんだ。イケメンは好きだけど、いざ相手にすると心が保たない。
「あの〜…私そんなに調理に参加してないですからね」
「名前ちゃんの手が加わったものなら全部食べるよ」
売れ残ったローストビーフ貰えてラッキー…とホクホクな気分なのに、ここ一週間英智くんを見ていなくて気になっている自分がいる。美形に耐性無さすぎて彼がいらっしゃる度に心臓がバックバクだったし、平和が戻って安心したのにな。どうして弟づてに英智くんのことを探っているのか。そりゃ創も困惑するよねごめんね可愛い弟よ。かくかくしかじかで…と、事情を説明した結果、彼の居場所はすぐに判明した。
―「デパ地下になんか通いつめるからだぞ。英智くん」
「名前ちゃんに会いたくて通ってたんだ。今こうして二人きりになれて嬉しいよ」
やばいやばい。腰に腕を回されて動けない。ていうか、胸に顔埋められてるし母性を求められてるの?なんて、グルグル思考回路は巡るけれど身動き一つ取れずに無言になる私は随分と堪能されたよ。主におっぱいを。病人だからってエッチなことを許したわけじゃないんだからな。文句を言ってやろうと思ってたのに、至近距離で美形と目が合ってしまって、やっぱり何も言えずに口を閉ざす。英智くんはむしろ饒舌だった。
「こうしてると安心するよ」
今度は手を握られ、私の手は英智くんのお手手に包まれた。「好きだなぁ」なんて噛みしめるような英智くんの呟きは真に受けるべきじゃない。愛しげな視線で微笑む可愛らしいお顔も、直視しちゃだめだと思う。ドキドキが止まらなくてついに病室から逃亡してしまったし。うん…でも、あれは英智くんが悪いよ。付き合ってもいない女とあの距離感なんだもん。翌日…―「英智くんもう来ないかもなぁ」とぽつりと口走った独り言におばちゃんのキッパリとした返事が返ってきて思わず顔を俯かせた。
「来るわよ。英智くん名前ちゃんにベタ惚れしてるんだから」
「バレてましたか。それにしても、名前ちゃんときたら自覚なしで寂しいなぁ…」
背後から現れた英智くんが呆れたような声と共に私の肩を抱いた。彼の声が聞こえた瞬間、心がキュッとなった。びくりと肩を震わせ、振り向いて彼を見上げる。含みのある笑みを滲ませ、一言告げた彼にデート(?)の約束を取り付けられてさぁ、大変。しかも帰宅したら可愛い可愛い創に「お姉ちゃんは英智お兄ちゃんとお付き合いしてるんですか?」とおずおずと訊かれてとどめを刺された気分で泣きたくなった。
名前ちゃん。僕は本気だから覚悟しておいてね」
END